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決意を奏でるスフィアン・スティーヴンス、名盤の風格感じるデラドゥーリアン……時代を歌うシンガーソングライターの注目作5選

リアルサウンド

20/10/4(日) 19:00

Sufjan Stevens『The Ascension』

 映画『君の名前で僕を呼んで』のテーマ曲「Mystery of Love」が第60回グラミー賞にノミネートされたことで、幅広く名前を知られることになったスフィアン・スティーヴンス。両親を題材にした『Carrie & Lowell』から約5年ぶりの新作は、本人いわく「自分の周りの世界を問いただす」作品に。アコースティックギターの弾き語りを軸にした繊細な音作りだった前作に対して、今回はシンセやプログラミングを導入。デリケートなメロディや吐息のような歌声はいつもと変わらないが、レイヤーを重ねて作り出した深い霧が立ち込めたような空間を、インダストリアルなビートがノイズの飛沫を散りばめて駆け抜けていく。モダンなポップソングとしてのクオリティを保ちながらも、アルバムには美しい混沌が渦巻いており、分断と閉塞の時代に対するスフィアンの決意表明のようなアルバムだ。

Sufjan Stevens – America [Official Audio]

Deradoorian『Find the Sun』

Deradoorian Dirty Projectorsを離れて独り立ちしたエンジェル・デラドゥーリアン。6曲入りのミニアルバム『Eternal Recurrence』(2017年)を挟んで2枚目のフルアルバムは、前作からサウンドの方向性が変化。一発録りでレコーディングしたような生々しさが印象的だ。パーカッション奏者のセイマー・ギャドリー、ギタリストのデイヴ・ハリントンをサポートに迎えて、デモをもとに即興で曲を発展させていった。その結果、これまでになくバンドサウンドが全面に出て、反復するビートがトランシーなグルーヴを生み出していく曲は、CANからの影響を強く感じさせる。かと思えば、儚げなメロディに多重コーラスをのせたアシッドフォーク的なナンバーもあり、深みを増した歌声が深いリバーブのなかから浮かび上がってくる。サイケデリックで瞑想的なムードが漂う本作は、60年代の忘れられた名盤のような風格を感じさせる一枚。

Deradoorian – “Saturnine Night”

Sad13『Haunted Painting』

 マサチューセッツの男女4人組バンド、Speedy Ortizのボーカル/ギター、サディー・デュプイによるソロプロジェクト。4年ぶりの新作は、彼女がギャラリーで見たドイツ表現主義の画家、フランツ・フォン・シュトゥックが描いた踊り子の絵に触発されて制作された。サディーは、ギター、ベース、オルガン、シタール、テルミンなど、様々な楽器をプレイ。さらにヘラド・ネグロことロベルト・ラング、サトミ・マツザキ(Deerhoof)、メリル・ガルバス(Tune-Yards)など多彩な面々が参加した。ジェットコースターのような起伏に富んだ曲の展開のなか、様々な音を細かくエディットしたサウンドはオモチャのオーケストラのようだ。どの曲にも思いついたアイデアと戯れるガーリーな感覚が息づいており、オルタナティブな実験性とキュートなポップセンスが融合している。

Sad13 – Ghost (of a Good Time) [official video]

Yves Jarvis『Sundry Rock Song Stock』

 10代の頃から路上で歌い、アン・ブロンド名義で音楽活動を始めたカナダのシンガーソングライター、イヴ・ジャーヴィス。今回のアルバムを制作するにあたって、ジャーヴィスは屋外に仮設スタジオを作り、そこに楽器を持ち込み、オープンリール式のアナログテープでレコーディングを行った。楽器の音色だけではなく環境音や空気感も曲に取り込むというレコーディングのアプローチは、敬愛するサン・ラからの影響だとか。歌声と同じくらい、時にはそれ以上にサウンドや音響にこだわってきたジャーヴィス。その特徴のひとつである、歪んだローファイな音が生み出す、サイケデリックな感触は本作でも健在。だが、前作に比べるとシンプルにまとめられており、浮遊するようなメロディや繊細な歌声がより際立っている。フォーク、R&B、プログレ、現代音楽など様々な要素が、ジャーヴィスというフィルターを通してシンプルな形へと結晶化した歌は、不思議な安らぎを感じさせる。

Yves Jarvis – “For Props” (Lyric Video)

Daniel Romano『How Ill Thy World Is Ordered』

 ダニエル・ロマーノもジャーヴィスと同じくカナダ出身のシンガーソングライター。ポラリス音楽賞を受賞したほか、ジュノー賞にノミネートされるなど、カナダのインディーシーンでは知られた存在だ。コロナで音楽活動が困難ななか、そんな状況に立ち向かうように今年アルバムやEPを立て続けに9作もリリースしてファンを驚かせ、本作は記念すべき10作目となる。これまで作品ごとにスタイルを変えてきたが、本作はホーンセクションやコーラスを加えた分厚いバンドサウンドで聞かせる爽快なロックンロール。人懐っこいメロディに天性のポップセンスが光っている。70年代ロックのグラマラスさをモダンに昇華しているところはFoxygenやThe Lemon Twigsあたりに通じるところもあるが、得意のカントリーロックのテイストも曲に豊かな味わいを与えている。コロナに負けない、という気合いが伝わってくるステイホームの強い味方。

Daniel Romano’s Outfit – A Rat Without A Tale [OFFICIAL] 2020
RealSound_ReleaseCuration@Yasuo Murao20201004

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。

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