Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

朝ドラ『エール』三女・梅とのやりとりに光る安隆の人間性 気になる2人の再婚話も?

リアルサウンド

20/6/16(火) 12:05

 連続テレビ小説『エール』(NHK総合)第12週は3つのアナザーストーリー。「父、帰る 後編」では前日に続いて音(二階堂ふみ)の父・関内安隆(光石研)の黄泉がえりを描く。

参考:吉原光夫は“必ず結果を出す俳優”だ 『エール』馬具職人・岩城役に至るまでの“けもの道”

 登場後わずか1週間での死を惜しんでいた筆者のような人間にとって、今回のスピンオフは嬉しい企画だ。安隆は日頃の行いが良かったのか、あの世にあるジャンボ宝くじに当選して、1泊2日の地上への帰還のチャンスを得る。東京の吟(松井玲奈)と音を訪ねて次に向かう先は、愛する妻の待つ豊橋だった。

 血のつながっている人間にしか見えない安隆だが、職人頭の岩城(吉原光夫)は幽霊の気配に気づく。危うく岩城に撃退されそうになったところで光子(薬師丸ひろ子)が現れ、夫婦の対面が実現。10年ぶりに姿を見せた夫をどう受け止めて良いかわからない光子が安堵の表情を見せたのは、安隆が発した「黒蜜」という言葉だった。天国から妻と娘たちを見守ってきた安隆が、光子との間で夫婦の呼吸を取り戻すのに時間はかからなかった。万感の思いを込めたダンスを踊り終えて、夫婦の話題は三女の梅(森七菜)に移る。

 「父、帰る」では、幽霊になった父親と遭遇した家族それぞれの反応もおもしろい。吟は絶叫して逃げ出し、光子と音は意外にすんなりとその存在を受け入れた。対する梅は安隆を見てもまったく動じることがない。「幽霊なんて文学じゃありふれとるよ」と生粋の文学少女ぶりを父に見せつける。

 小説家を目指す梅だが、新人賞を受賞した幸文子が幼なじみの結だったことを知って塞ぎがちになり、筆も止まってしまった。幽霊の安隆は愛娘に「自分の弱さを見せたくないんか?」と問いかける。結の小説を褒めつつも浮かない表情の梅に、安隆は「負けを認めるってことは大切なことだ」と自身の経験を通して語る。安隆が負けを認めた相手は岩城であり、岩城と出会った安隆は職人をやめて経営に専念したのだった。

 「父、帰る」であらためて光が当たったのが安隆の人間性だ。友の成功を素直に喜び、岩城と光子の再婚を梅からほのめかされても「お父さんは嬉しい」と笑顔で返す。その理由が「2人とも大好きだから」というのもなかなか言えないことで、嫉妬や独占欲と無縁の安隆の包容力を感じさせる。それと同時に、この父親を失うということが関内家にとってどれだけ大変なことだったかもわかる。

 父の言葉を聞いた梅は「私、今まで全てのことを斜めから見すぎとったかもしれん」と述懐。「これからはまっすぐ生きてみる」とありのままの自分を表現することを誓った。子ども時代の梅が結に読み聞かせていたのが夏目漱石の『こころ』だったことは偶然ではない。安隆の大きな愛情は結への感情で前が見えなくなっていた梅を救った。

 極めつけは岩城との最後のシーンで、光子との「再婚を許す」という安隆に対して岩城が「安隆さんといるおかみさんが好きなんです」と返すくだりは、まさに一幅の名画のようだった。残された伏線を回収しながら、さらりと深いものに触れた「父、帰る」だった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む