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志賀廣太郎さん、俳優・スタッフから愛され続けたその人柄 『三匹のおっさん』追悼放送に寄せて

リアルサウンド

20/5/4(月) 19:00

 4月20日、俳優の志賀廣太郎さんが旅立った。享年71歳。深く響く低音ボイスと昭和的な雰囲気を武器に多くの映像作品で重要な役を演じ、視聴者に愛された志賀さん。わたしたちがその訃報を知ったのは、お身内でのご葬儀が終わった後だった。

参考:『三匹のおっさん』は現代に甦った勧善懲悪ドラマだ! 変わらぬ魅力と人気の理由

 じつはまだ志賀さんがいなくなったことに心の整理ができていない。なぜならわたしは演劇科の学生時代、彼にドイツ語を習い、学内での一人芝居を上演した際に演出を受け、卒業後も観劇やお酒をご一緒させてもらう後輩だったからだ。

 今回はおもにドラマでの志賀廣太郎さんの活躍を振り返りながら、彼の人となりを綴っていきたい。

 初めて志賀さんの映像での演技を目の当たりにしたのは2001年。『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)の『BLACK ROOM』で主人公(木村拓哉)の父親・湯ノ本カズオを演じる姿だった。CMディレクターでもある石井克人監督が描くブっ飛んだ世界を背負い、樹木希林さんと繰り広げる不条理夫婦漫才のような芝居は強烈で「うわあ、これは凄いゾーンに入ったな」と興奮したのを覚えている。

 翌年、2002年に深津絵里と堤真一共演の『恋ノチカラ』(フジテレビ系)で演じた楠木文具の社長・楠木賢明役が好評を博し、以降、遺作となった2019年の『きのう何食べた?』(テレビ東京系)まで志賀さんは途切れることなくドラマ出演を続けていく。

 俳優・志賀廣太郎の魅力のひとつがあの「なんともいえない昭和感」だ。特徴的な髪型、もはや顔の一部ともいえる眼鏡、スリムだがスタイルが良いのとは少し違う体形。そんなキャラクターが多くのドラマで重用された。

 映像出演が始まってからしばらくは、いわゆる「ちょっとダメなオヤジ」的な役を演じることも多かった志賀さんのひとつの転換が、2006年に篠原涼子主演でドラマ化された『アンフェア』(フジテレビ系)の安本正広役ではないだろうか。

 篠原演じる雪平を子どもの頃から可愛がり、父親のようにサポートして見守り続けた安本。が、じつは警察組織の解体を図る組織の一員で……という裏の顔を持つこの役が、彼のキャラクターに別の幅を持たせた。その新たなイメージが2007年の『ハゲタカ』(NHK総合)で演じた外資系ファンドの頭脳・中延五郎役や、同じく2007年『医龍-Team Medical Dragon-2』(フジテレビ系)最終話で物語のキーとなる善田秀樹役へと繋がっていく。

 また「番頭さん」的な役柄ではNHKの連続テレビ小説『マッサン』や役所広司主演の『陸王』(TBS系)での記憶も新しいし、『リバース』(TBS系)で見せた早くに息子を亡くす穏やかで強い父親役も印象的だった。

 あらためて志賀さんの出演作をリスト化してみると、テレビドラマだけでも大変な本数である。本格的なドラマデビューとなった2001年からの18年間、出演作が0本の年はないし、なんなら『ウルトラマンオーブ』(テレビ東京系)にまで顔を出している。と、ここまで書いて気になったので数えてみたら、レギュラー、ゲスト出演作を合わせて110作品以上のドラマに出演していた。アイドル並み……いやきっとそれ以上だ。

 彼が俳優として世に出たのは40歳を過ぎてから。41歳の時に「劇団 青年団」に入団したのをきっかけに、10数年ぶりに本格的に芝居の世界に戻り、舞台から映像まで活躍の場を広げていった。いわゆる“遅咲きのプレイヤー”である。

 わたしが志賀さんと出会ったのは演劇科の学生時代で、2年間ドイツ語の授業や舞台の演出を受けた。当時彼は(その後、俳優として名前が売れてからも)母校でドイツ語や演技の授業を講師として受け持っていたのだ。未来を夢見る学生と接することが好きだったんだな、と思う(ここだけの話、ドイツ語の授業は多くの時間が演劇に関する雑談だったけれど)。

 彼が演技者として復帰してからは、一緒に観劇したり、志賀さん出演の舞台を観に行ったりもした。ある小劇場作品に彼が出演した際、終演後にその劇場で打ち上げをするということでわたしも参加させてもらったのだが、宴の終わりに率先して場の後片づけをする姿がとても印象的だった。こういうお人柄だから、50歳を過ぎて映像の現場に入っていっても、スタッフや若手俳優に慕われ愛されるんだな……と、ひとつの答えをもらった気がする。

 一度、お酒の席で酔った勢いもあったのだろうが「俺、髪型変えたいんだけど」と真顔で言われ「……いや、それはマジでやめた方がいいよ……」と答えたこともあった。あれは冗談だったのだろうか。

 2013年の冬に、仕事として初めてインタビュー取材をさせていただき、志賀さん行きつけの魚がおいしい居酒屋さんで仕事の話を聞いた。その時「絶対に観てほしいドラマがある」というので「どんな作品?」と聞くと「北大路欣也さんと泉谷しげるさんと俺と3人で正義の味方になるドラマ」と返されて腰が抜けた。え、あの時代劇スターや伝説のフォーク歌手と?

 そう、そのドラマが2014年から第3シリーズにわたって放送され、2回のスペシャル版も製作された『三匹のおっさん』(テレビ東京系)である。

 代表作ともなった『三匹のおっさん』シリーズで志賀さんが演じたのは“頭脳派のノリ”こと有村則夫役。まさに「昭和のおじさん」感を活かしたノリのキャラクターは、どこかいたずらっ子のようでもあり、ご本人と重なる気もする。大御所ふたりに挟まれて、変な発明品で敵を撃退する様子は本当に楽しそうで、観ているこちらも笑顔になった。

 最後にひとつだけ書かせてほしい。

 さまざまなメディアがきっと好意的に使っている「名脇役」という単語が、わたしにはどうもしっくりこないのだ。確かに50歳を過ぎて世に出た彼が主役を張る機会はとても少なかったけれど、志賀さんはどの役も全力で、そして真摯に演じていたと思う。担うキャラクターに精いっぱいの光を当ててきた彼は「脇役」だったのだろうか。

 志賀廣太郎さん、千穐楽までお疲れさまでした。皆、ドラマの再放送であの低音ボイスが聞こえるたびにあなたのことを思い出すよ。忘れないよ。(上村由紀子)

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