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SUPER BEAVERが全てをふり絞って届けた歌と演奏ーー結成15周年を記念した日比谷野音ライブを観て

リアルサウンド

20/10/6(火) 20:00

 今年、結成15周年を迎え、さらにはメジャー再契約を果たしたSUPER BEAVER。しかし、世界がコロナウイルスの流行に見舞われたことで、記念すべきツアーは中止に。そんな困難にぶつかってもビーバーは、7月に無観客ライブを開催するなど、歩みを止めなかった。そしてついに決定した『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP〜ラクダビルディング&ビルディング〜』。感染防止のためのガイドラインを遵守しながらの有観客と、配信というふたつの形で、ライブが開催されることになったのだ。

 開演を控えて、会場である日比谷野外大音楽堂の様子が映し出される。当日は秋晴れで、絶好の野音日和。客席にマスクをしたオーディエンスが並ぶ風景だけが、以前と違う。しかし18時を迎えると、声を出せない代わりに万雷の拍手がステージに降り注ぐ。そして渋谷龍太(Vo)が歌い出した――〈ありがとう 見つけてくれて ありがとう〉。「ありがとう」で、1曲目の歌い出しから感謝を伝えてくれるセットリスト。ああ、しょっぱなからビーバーらしいなぁと、胸が熱くなる。客席のオーディエンスも涙をこらえていたけれど、この日が迎えられた喜びを噛みしめているのは、きっと私たちだけではない。メンバー4人の切実な表情も、ていねいな演奏も、すべてをとりこぼさないようにしているように見えた。〈言わなきゃね 死んじゃうから僕らは ありがとね 愛している〉――この歌詞が、リアリティを伴った2020年。でも、演奏を終えた渋谷は「うまくいかないことも、やろうと思っていたことで叶わなかったことも、たくさん経験してきた。ひとつ言えることは、あなたと一緒に生きている今が、俺たちのハイライト!」と叫ぶ。そう、未曽有の事態以前から、彼らは山も谷も駆け抜けてきたのだ。その彼らが歌う言葉、鳴らす音の説得力はハンパではない。客席も――きっと画面の向こうの一人ひとりも、ともに「ハイライト」を作るかのように、思い切り手を伸ばす。いつもはオーディエンスが歌う“♪ララララ”は、柳沢亮太(Gt)と上杉研太(Ba)が絶唱。ふたりにはオーディエンスの気持ちがのりうつっていたに違いない。

 渋谷は「8カ月ぶりです、人の前で歌うのは」と言うと、カメラをのぞき込み「あなたにも感謝です」と呼びかける。コロナ禍以前にも、様々な事情で現場に行けずもどかしい思いをしていたリスナーはいると思う。そういった人たちは、この言葉と画面からほとばしるエモーションが泣けるほど嬉しかったのではないだろうか。そして「あなたがいなけりゃ意味がない! これが俺たちの証明!」と叫び、「証明」へ。これまで築き上げてきた信頼関係が、この状況だからこそ露わになっていく。シンガロングの代わりに手が千切れんばかりのハンドクラップを贈る客席。カメラに「見えてるぞ!」と言う渋谷。きっと本当だったと思う。

 客席に向けられたマイクへ“心の声”でオーディエンスが歌った「閃光」、藤原”32才”広明(Dr)の力強いドラミングが響いた「361°」と畳みかけ、「誰のせいでもないのがつらいところね。反応がないのもつらいところね」と本音をこぼす渋谷に、精いっぱいの熱がこもった“反応”として拍手が起こる。メンバー一人ひとりのMCでは、「全国各地で配信を観てくれているあなた、ありがとうございます。一人ひとりの選択がすべて正しいと思っています」(柳沢)、「帰ってきた感ありますね。幸せです。やれることをやっていくしかない」(上杉)、「こんな状況だけど少しでも楽しいこと、これからもやるのでよろしくお願いします」(藤原)と、それぞれ誠実な気持ちを話してくれた。渋谷も「いろんなこと考えたね、この8カ月。俺は一体なんのためにいるんだってまで思った。何が正解かわからないけれど、今日はやってよかったって思っている」と胸を張って言い、「やっぱり俺は、あなたの自慢になりたいと心から思います」と、10月21日にリリースされる新曲「自慢になりたい」を披露した。

 「一歩でもあなたの近くに!」と連呼しながら、葛藤も苦難も吐き出す「27」を経て、「声を出せないということが、何か理由になります?」と彼らしい煽り方から「東京流星群」へ。メジャーからインディに戻ったころから、彼らの歴史を作ってきた歌だ。〈輝きはいつでも 何処に居ても 変わりはしないだろう〉――画面の前にいるあなたの輝きも、きっと日比谷に届いていたに違いない。そして渋谷が「今日この日が、僕たちの、そしてあなたの突破口になりますように」と願いを込めた、新曲の「突破口」。藤原の渾身のドラムの連打! 本当に分厚い壁に、深い闇に、穴が開きそうな楽曲だ。そして4人とも、人前で新曲を披露できることが、本当に嬉しそう。そんなライブを実現に導いてくれたスタッフに対して、渋谷がオーディエンスから拍手を贈ってほしいと伝えると、あまりの大きさに今度は嫉妬する渋谷。微笑ましいほど素直だ。そして「愛すべきあなたのお手を拝借」と述べ、「美しい日」へ。声を出せなくても、跳んで、手をあげて、美しい光景を作り上げていく。演奏を終えて渋谷も「あなたのおかげで、美しい日になりました」と笑顔を見せた。

 今を生きるすべての人の代弁のように〈楽しい予感のする方へ〉と歌う「予感」。「あなたが見てくれていたら大丈夫。胸張ってバンドマン稼業、これからも続けていきます」と多くのバンドマンの代弁のような言葉から、声なきコールアンドレスポンスを展開した「秘密」。そして、「4人で成し遂げてきたことはない。誰かと音楽を鳴らしている気持ちでいます」と彼らの歩みを象徴するような話からのラストナンバーは「ひとりで生きていたならば」。すべてをふり絞るような歌と演奏が終わり、アンコールの声も響く中、重大発表のアナウンスが聞こえ、配信は重大発表の映像へシフト――なんと、12月8日・9日に、横浜アリーナで生配信ライブを行うという! 明日を生きる糧を心に残して、ライブは幕を閉じた。

 「秘密」の最初と最後、渋谷は「本当はあなたと歌いたかった」と念を押すように言った。もちろん歯がゆさもあったと思う。しかし、これは紛れもなく、ライブだ――そう思えるコミュニケーションは、この日たしかに生まれていた。私自身も、辛い時こそ響くと感じているビーバーの音楽。生演奏に宿る救済や後押しに、体中の血が巡ったようなライブだった。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

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