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加藤シゲアキ、作家としての実力示した『オルタネート』がランクイン 文芸書ランキング

リアルサウンド

21/1/18(月) 10:00

週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(1月6日トーハン調べ)

1位 『野良犬の値段』百田尚樹 幻冬舎
2位 『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』東野圭吾 光文社
3位 『異世界のんびり農家(9)』内藤騎之介/やすも(イラスト) KADOKAWA
4位 『オルタネート』加藤シゲアキ 新潮社
5位 『今度生まれたら』内館牧子 講談社
6位 『冒険者をクビになったので、錬金術師として出直します! 辺境開拓?よし、俺に任せとけ!(5)』佐々木さざめき/あれっくす(画) 双葉社
7位 『何がおかしい 新装版』佐藤愛子 中央公論新社
8位 『少年と犬』馳星周 文藝春秋
9位 『流浪の月』凪良ゆう 東京創元社
10位 『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』辻真先 東京創元社

 1月の文芸書週間ランキング、注目すべきはやはり直木賞候補で唯一ランクインした加藤シゲアキの『オルタネート』だろう。本業はジャニーズ事務所所属のアイドルで「NEWS」のメンバー。俳優としても活躍しながら、2012年に『ピンクとグレー』で小説家デビューして以来、精力的に執筆活動を続けている。本作は3年ぶりの新作長編、とはいえ、6作目の作品となり、もはや誰にも小説家としての活動が副業とは言えないだろう。彼はアイドルであり、俳優であり、そして小説家だ。こつこつと、真摯に、すべての仕事に自分のもてるすべての力を注ぎこんで向き合い続けている彼が、ここへきて直木賞候補という評価を勝ち取ったことには、敬服するよりほかはない。

 同作のタイトルは、作中に登場する高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」から。登録には学生証が必須となり、匿名性がないゆえに安全性が高く、およそ120万人もの学生が参加しているサービス。だが、テレビ番組の企画でマッチングアプリ事情を取材したことがあるという加藤は、賛否両方の意見をきいた経験をもとに「高校生限定のサービスが存在する世界で僕が高校生だったとして、僕はやらないタイプだなって思ったんですよね。だから、やらない子、めちゃくちゃハマる原理主義な子、やりたくてもやれない子、この三人を書きたいなと」思ったという。(引用元:https://www.bookbang.jp/review/article/653517

 これが加藤の強みなのではないか、と思う。本作は6作目と書いたが、加藤はもう1冊『できることならスティードで』というエッセイ集を刊行していて、そのなかでこんなことを述べている。〈人生はいくつになってもやり直せるし、好きに生きていける。自分もそう信じたいし、そういう社会でなければならない。しかし、いつでもスタートできるように、人は学べるときに学んでいなければいけないとも思うのだ。〉エッセイ集を読んでいて伝わってくるのは、常に学ぼうとする姿勢だ。人は弱いし、脆い。そう簡単に強くはなれないし、答えだって見つからない。間違いだって、おかしてばかりだ。けれどだからこそ加藤さんは、目の前に広がる景色からわずかでも何かを学びとり、そして見えていないけれど確実に存在しているものに触れようとする。そんな彼の書く小説が、おもしろくないわけがないし、人の心を打たないわけがない。

 タレントだから小説家デビューできた、ということに負い目を感じていたと加藤は語っていたが、タレントでもある彼だからこそ見える景色があり、触れられる真実があるのだと思う。今回の結果がどうあれ、読むべき価値のある作品であると思うし、これからも新作を楽しみに待ちたい。

 瑞々しい若さを描きだした『オルタネート』とは対照的なのが、5位の内館牧子『今度生まれたら』と10位の辻真先『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』だ。

 72歳の内館が新刊で描く主人公、70歳の夏江は夫の寝顔を見ながら「今度生まれたら、この人とは結婚しない」と思う。自分の人生は本当にこれでよかったのか? もっと別の道があったのでは? その疑念と後悔を、たぶん、多くの人が見ないふりしながら生きている。どうしたって人生をやりなおすことはできないのだから。

 「『今度生まれたら』で書きたかったのは「時を外すな」ということです。70代の方が、若い頃の夢を叶えられなかったことを虚しく思うばかりでなく、70代という「時」を外さずに、70代の「今」何をやるか。そのことをしっかり考えたいと思いました。」とインタビューで答えている(引用元:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77750)が、あえて虚しさに向き合うことで、今の自分にできることを見出していく力をもらえる小説だ。

 そして『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』。『このミステリーがすごい! 2021年版』国内編、〈週刊文春〉2020ミステリーベスト10 国内部門、〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 国内篇で1位を獲得。辻は88歳で、これは史上最高齢の快挙である。

 昭和24年、ミステリ作家をめざしている17歳の勝利(かつとし)が、修学旅行がわりの小旅行で密室殺人に巻き込まれ、キティ台風が襲来する夜には廃墟では首切り殺人が! というミステリ要素ももちろん読みごたえたっぷりなのだが、旧制中学の5年生だった勝利が、中学6年に進級するかわりに、戦後の学制改革によって男女共学となった高校の3年生になる……という設定もおもしろい。おもしろいといっても、それは実際の昭和24年に起きたこと。著者の地元・名古屋を舞台に、経験にもとづいた戦後の混乱が描きだされるのも、本作の肝である。上海から引き揚げてきた美少女への恋もあり、青春ミステリの赴きながら、重厚な歴史小説としての側面もある。とある人物がリンクする、『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』とあわせてお読みいただきたい。

■立花もも
 1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。

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