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『赤い雪』永瀬正敏×菜葉菜対談。「やっとがっつり顔を合わせての共演が実現」

ぴあ

19/1/30(水) 18:00

(左から)菜葉菜、永瀬正敏

今後の飛躍が期待される新鋭、甲斐さやか監督のオリジナル脚本による長編デビュー作『赤い雪』。日本の原風景であるはずの雪深い街を幻想世界に感じさせるような映像美を背景に、記憶をめぐり、心に深い闇を抱えた人間同士が生々しい感情のやりとりをするミステリー仕立ての作品は、日本映画界を代表する俳優たちが顔を揃えた。その中で、主演を務めた永瀬正敏と菜葉菜の対談が実現。作品について語り尽くす。

日本映画で長きに渡り活躍し、数多くの作品に出演してきたふたり。フィルモグラフィーを振り返り、共演作を探すと、2002年『自殺サークル』までさかのぼる。

菜葉菜「私はデビュー作で、ほんのひと言だけの役だったんですけど、出ていたんです。永瀬さんと共演というにはほど遠いですけど」

永瀬「そうだったんだと僕もこの前気づいて。その後も同じ作品に何度か出てはいるけど、ただ、直接絡むようなシーンがなかなかなかった」

菜葉菜「がっつりと顔を合わせての共演は今回が初めて。私自身はすごく楽しみにしていました」

こうして主演を務めることになったふたりだが、まず口を揃えて脚本に驚いたという。

永瀬「脚本をいただいて読み始めたら、止まることなく一気に最後まで読んでしまった。明確な結末が用意されているわけではない。人によってまったく解釈が異なってくるのではないだろうか? そんな余白が存在していて。こういう一筋縄ではいかない映画は、僕が若いころはいっぱいありましたけど、近年は久しく出会っていなかった。しかも、監督は初の長編でオリジナル脚本とのこと。それがまずは驚きで、甲斐監督が創り上げたこの物語の世界に身を置いてみたいと素直に思いました」

菜葉菜「私も永瀬さんと近い感覚があって衝撃でした。最近の日本映画にはないスケールというか。規格外のところがあって。わかりやすい例で言えば、私が演じた早百合のようなある種、モンスターのような女性が登場する作品なんてほとんどないですよね。そんな強烈な性格をはらんだ人物を配置しながら、作り物っぽくないというか。少年失踪事件で、人生を狂わせた人間たちの生々しい感情のやりとりを描いたドラマが展開していく。圧倒されましたね」

永瀬「30年前に起きた未解決の少年失踪事件がまずあって。その容疑者に浮かんだ母のひとり娘が菜葉菜さん演じる早百合で、僕が演じる一希は、被害者少年の兄。そのふたりが30年の時を経て、偶然か必然か向き合うわけだけど、どちらも心の中は深い闇に覆われている。甲斐監督はこの両者の心の闇を容赦なく描こうというか。勇気をもって人間の心に宿る怨みや悪意、残虐さを描こうとしている。その潔さには感銘を受けましたね。こうしたなかなか理解をえずらい人間の負の部分を描くことは度胸がいることですから」

早百合も一希も心に蓋をしたような人物。ほとんど周囲と関わろうとはせず、自らの本心を吐露することもない。セリフも限られた中、言葉ではなく肉体そのものを駆使して何かを伝えていく難役といっていい。

菜葉菜「監督からこう言われたんですよ。「通りすがりで、まったく知らない人でも、すれ違った瞬間に〝この人とは関わったら絶対にダメ〟と思う人いるよね。そういう危うさを体から漂わせてほしい」と。言葉でどうこうできることではないから、はじめはどうしようかと悩みました。最後は、自分の中にある負の感情を総動員した感じで(笑)。あと、ひとつ大きな力になってくれたことが。それは舞踏。監督からリクエストがあったんです。事前に舞踏を習ってほしいと。それでスナックのママ役で本作にも出演している中嶋夏さんのもとで数カ月間学んだのですが、これが大きな力になってくれた気がします。監督には、いまの私に足りないものがきっと身に付くといわれたんですけど、納得です。舞踏は決められたリズムもなければ型のようなものもない。心と身体のつながりを一体化させるのが重要で。心が先走ってもダメだし、体で形だけを作ろうとしてもダメ。心から生まれるものが手の指先から頭のてっぺんまでの動きへと自然に流れるようにつながることが大切。心のともなった動作になって、ひとつひとつのしぐさや肉体の動きが自然にみえないといけない。その気づきがあったから、今回の役が演じられた気がします」

永瀬「僕は今回はあえて事前準備はしなかったんですよ。漆職人なので、実際の職人さんから指導をうけましたけど、それぐらい。あと、一希とは全然状況は違いますけど、僕にも失った弟がいるので、その当時の感情をちょっと考えたぐらいかな。事前準備はやろうと思えばいくらでもありました。例えば同じような事件について調べて、遺族の感情を知るとか。ただ、今回は僕自身、甲斐監督がどんなことを求めてくるかにすごく興味があったので。あえてまっさらな状況にしておいて、もう思う存分、監督の意のままに自分をいかようにも染めてほしいなと。そんな気持ちがありました。今回は甲斐監督ファースト。監督と現場で一緒に一希を作り上げていくのがベストかなと。でも、早百合は苦しい役だったでしょう。現場で見ていても、辛そうだなと(苦笑)。心がすり減る役だから」

菜葉菜「終わったときは、精魂尽き果てました(笑)。永瀬さんをはじめ、井浦(新)さん、佐藤(浩市)さん、直接の共演シーンはありませんでしたけど夏川(結衣)さん、いずれもすばらしい役者さんばかり。だから、共演に関しては何の心配もなかったんです。何をしてもしっかり受け止めてくれる方々で。私は思いっきりぶつかっていけばいいだけなので。ただ、セリフの応酬があるわけでもなく、肉体が激しくぶつかり合うようなアクションがあるわけではない。でも、肉体と肉体のぶつかり合いに匹敵するするような濃度の魂と魂のせめぎ合い、感情のやりとりがある。しかも、早百合は周囲の人間を凌駕しなくてはいけない存在ですから、周囲のペースに惑わされてはいけない。それは演技する上でも注意が必要で。ちょっと気を許すとやっぱり、その甘さが出ちゃう。佐藤さんをはじめみなさん芝居の熱量が半端ないですから、ついついそのペースに呑まれそうになる。でも、それだとダメなんです。早百合は呑まれるのではなく、呑み込む役ですから。だから、相手をねじ伏せるぐらい気を張らないと。だから常に斬るか斬られるかの勝負に挑むような緊張感があって、疲れました(笑)」

そんな一希と早百合が激しく互いの魂をぶつけあるシーンが後半に用意されている。ふたりは雪に覆われた山の中で追いつ追われつしながら、互いの感情をぶつけ合う。

永瀬「あまり詳細を話すと興味が薄れると思うので、これは見てもらうしかないんですけど、あのシーンはあの場所でのリハーサルができない。新雪で足跡がついてしまうので。一発勝負でした」

菜葉菜「このシーンはほんとうに魂のぶつかりあいになっているから、大事と思っていて。もう私としては全力でいこうと」

永瀬「僕は追い駆ける立場だからまだいいんだけど、新雪の上で下がどのような状況かまったくわからない。だから、菜葉菜さんは怖かっただろうなと。後ろから追い駆けて行ったぼくもひやひやしてましたから。途中でちょっとしたくぼみがあったりして、はまって急に姿が消えるんじゃないかと思って(笑)。まあ、撮り始めたら僕も必死でそれどころじゃなくなりましたけど」

菜葉菜「あんな決死のシーンに臨むこともそうそうない経験ですよね」

永瀬「あと、早百合にかぶせるものがあるんですけど。あのモノの厚さに監督はかなりこだわっていましたよね(笑)」

菜葉菜「確かにこだわっていました。絶妙の見え加減じゃないとダメだと(笑)」

これも詳細は明かせないが、実際に撮影していないのではないかと思うぐらい幻想的なシーンになっているラストカットもまた過酷な撮影だったそうだ。

永瀬「手前でやるかと思ってたんですけど、こんな遠くまでいくのかと」

菜葉菜「このシーンに関しては雪山よりも寒かったかも。震えがとまらなかった」

永瀬「遠くまでいくから、これ、もし菜葉菜さんの身に何かあったら、俺が救助しないといけないんだよなとか考えてました(苦笑)」

最後にこうメッセージを寄せる。

永瀬「登場人物を通して、自分の奥底にあるさまざまな感情を揺さぶられる作品だと思います。そしてなにより、デビューを果たす甲斐監督の才能にぜひ触れてほしい。『赤い雪』が公開というときですけど、僕はもう彼女の次の作品を期待しています。またご一緒できたらうれしいですけど、自身が出演しようがしまいが、僕は甲斐監督の作品を追い駆けていきたい。この作品で甲斐監督に出会ってもらえたらと思います」

菜葉菜「監督から最初に、私にぴったりの役といわれときは、“私って、こんなイメージなの!”って思ったんですけど(笑)、どこか自分もこういう一般的に言うと汚れ役というか。かわいくて、綺麗な女性というよりは、得体の知れない負のオーラをまとった役をいつかやってみたい気持ちがありました。早百合はおそらく多くの人に共感される人物ではありません。でも、私としてはついに巡り合えた念願の役で精一杯演じました。決して気持ちのいい話ではないかもしれません。でも、ひとりでも多くの方に届いてくれることを願っています」

取材・文:水上賢治
撮影:源賀津己

『赤い雪 Red Snow』
2月1日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開

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