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田中泰の「クラシック新発見」

ピアソラ生誕100周年に香り立つ“タンゴとクラシック音楽の蜜月”

隔週連載

第7回

小松亮太

今年2021年は、アルゼンチンのバンドネオン奏者で作曲家アストル・ピアソラ(1921-1992)生誕100周年のメモリアルイヤーだ。

本国アルゼンチンでは、世界3大オペラハウスの1つにも数えられるブエノスアイレスの「コロン劇場」において、2週間にも及ぶ記念イベントが開催され、その模様が世界中にオンライン配信されたのだから素晴らしい。一方、タンゴ人気の高い日本においては、“バンドネオンの第1人者”小松亮太による『バンドネオン協奏曲』のライブ・アルバムに注目が集まる。

ピアソラの後期クラシック系作品の中でも重要な位置を占める『バンドネオン協奏曲』が作曲されたのは1979年。小松曰く「ポピュラー音楽とシンフォニー・オーケストラとの接点」と表現するこの作品のインパクトは絶大だ。バンドネオンとオーケストラが競奏する最初の音を聞いた瞬間に、気分は南米ブエノスアイレスへ瞬間移動する。

『ピアソラ:バンドネオン協奏曲 他』

1998年のCDデビュー以来、23年ぶりとなる今回の取材においても、小松亮太のタンゴ愛と雄弁な語り口は全く変わっていない。必要に応じて愛用のバンドネオンを奏でながら語るその姿は、1980年代に来日公演で体験したアストル・ピアソラを彷彿とさせる。今回のアルバムで小松亮太と共演したのは、フランスの名匠ミシェル・プラッソンだ。マエストロの印象はどうだったのだろう。

「マエストロ・プラッソンとは今回が初共演でした。彼はかつてトゥールーズのオーケストラを率いてアルゼンチンやパリでカルロス・ガルデル(1890-1935)の作品を演奏しているのです。僕はそのアルバムを以前から持っていただけに不思議な縁を感じますね。そして今回、コンサートの後半に客席で聴いたベルリオーズ『幻想交響曲』の素晴らしさ。緩徐楽章が香水をふりかけたような美しさだったのです。フランスのクラシックはこうなんだというサウンドを日本のオーケストラから引き出す力に驚きました。出来上がった録音を聴いてみても、強い音楽ではあるけれど力任せではない。余裕を感じさせるところが凄いと思います」。まさに“理想の共演者”を得て躍動する小松亮太のバンドネオンに注目だ。

ピアソラ初期の傑作『シンフォニア・ブエノスアイレス』の日本初演(アンドレア・バッティストーニ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団)を始めとするコンサート活動にも注目したい。その内訳は、1940年代から1980年代に至るピアソラの軌跡を辿るという凝りに凝ったもの。個人的には、フランス留学時代のピアソラが、伝説の名教師ナディア・ブーランジェ(1887-1979)から「あなたはタンゴで生きるべきよ」と進言されるきっかけとなった作品『トリウンファル(勝利)』を聴いてみたい。

そのピアソラの素晴らしさを認めつつ、彼に関する現状の誤った認識についても熱く語る小松亮太。興味をお持ちの方は彼の近著『タンゴの真実』(旬報社刊)を手にとってほしい。タンゴの歴史はもちろん、その音楽性や巨匠たちの素顔、そして時代との関わりなど「タンゴのすべて」が紹介された決定版だ。まさに読み応え充分! ピアソラ生誕100周年に小松亮太が躍動する。

『タンゴの真実』

プロフィール

小松亮太 ( バンドネオン)

1973年 東京 足立区出身。さそり座 AB型。
高校時代より才能を発揮し、伝説的歌手である藤沢嵐子の91年のラスト・ステージではバンドネオン・ソロで伴奏を担当。
98年のCDデビューを果たして以来、カーネギーホールやアルゼンチン・ブエノスアイレスなどで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現している。
アルバムはソニーミュージックより20枚以上を制作。「ライブ・イン・TOKYO〜2002」がアルゼンチンで高く評価され、03年にはアルゼンチン音楽家組合(AADI)、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された。15年にリリースした大貫妙子との共同名義アルバム『Tint』は、第57回輝く! 日本レコード大賞「優秀アルバム賞」を受賞。
08年にはアストル・ピアソラの幻のオラトリオ「若き民衆」を東京オペラシティで日本初演。13年にはピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」をピアソラ元夫人の歌手アメリータ・バルタールと共演し、ライブアルバムをリリース。
タンゴ界にとどまらず、ソニーのコンピレーション・アルバム「image」と、同ライブツアー「live image」には初回から参加。作曲活動も旺盛で、フジテレビ系アニメ『モノノ怪』OP曲「下弦の月」、TBS系列『THE世界遺産』OP曲「風の詩」、映画「グスコーブドリの伝記」(ワーナーブラザース配給・手塚プロダクション制作)、「体脂肪計タニタの社員食堂」(角川映画)、NHKドラマ「ご縁ハンター」のサウンドトラックなど多数を手掛けている。
これまでのタンゴ界以外での共演者は、ミッシェル・ルグラン、バホフォンド、イジョク(Juck Lee)、ジェイク・シマブクロ、ブロドスキ―・カルテット、ミルバ、上妻宏光、石井一孝、NHK交響楽団、小曽根真、織田哲郎、佐渡裕、葉加瀬太郎、宮沢和史など。タンゴ界ではビクトル・ラバジェン、ラウル・ラビエ、マリア・グラーニャ、オスバルド・ベリンジェリ、フアン・カルロス・コーペス、藤沢嵐子など。
16年12月「小松亮太meetsワールドバンドネオンプレイヤーズ」開催、17年7月にイ・ムジチ合奏団と共演するなど海外アーティストとの公演も重ねている。
2018年度より洗足学園音楽大学客員教授。

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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