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ブラッド・ピットが体現する“白人男性”の光と影 ハリウッドを変える力を持つ唯一無二のスターへ

リアルサウンド

19/10/1(火) 8:10

 ハリウッドのキラキラ組だけど実力もある俳優ーー。ブラッド・ピットに対する印象は一般的にはこんなものではないかと思う。実は、彼が名プロデューサーで、今を時めく映画制作会社「プランBエンターテインメント」(以下、プランB)を経営している事実については、知らない人のほうが多いのかもしれない。

 現在公開中の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『アド・アストラ』も興行収入と作品/演技評価ともにすこぶる好調。今年は、アンジェリーナ・ジョリーとの泥沼離婚にもやっと終止符が打たれ、新作にも恵まれた彼のキャリアを振り返ってみよう。

■『テルマ&ルイーズ』でイケメン俳優の仲間入り

 ミズーリ州の中流家庭で育ったブラッド・ピットは大学でジャーナリズムを専攻していたが、小さな頃から抱いていた俳優への憧れが忘れられず、大学卒業真近に中退し、325ドルを握りしめてLAへと飛び立った。LAで運転手や引越し業者として働きながら演技を磨いたピットは、1980年代後半にテレビや映画に出演し始める。(※1)

 彼の大きな転機となったのは、リドリー・スコット監督のヒット作『テルマ&ルイーズ』(1991)でジーナ・デイヴィスの一夜のロマンスの相手を演じたとき。このときに見せた肉体美とラブシーンでピットは世界中から注目の的に。

 ちなみにジーナ・デイヴィスとは当時ジュリエット・ルイスという恋人がいたのにも関わらず、撮影中に短期間付き合っていたとう。

■俳優として3度のアカデミー賞ノミネート

 その後数々の話題作に出演し、1995年にはピープル誌の「最もセクシーな男」に選ばれるなど90年代のイケメン俳優のトップを突っ走りながら、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)のタンディ・ニュートン、『セブン』(1995)のグウィニス・パルトロー、『ジョー・ブラックをよろしく』(1998)のクレア・フォーラニら共演者とも浮名を流すが(パルトローとは婚約に至るものの謎の理由で破局)、その間も演じる役柄の幅を広げ役者として開花していったピット。

 過去30年以上も年に1~3本ほどの作品にコンスタントに出演してきた彼の俳優人生において、アカデミー賞にノミネートされたのは、助演男優賞の『12モンキーズ』(1995)、主演男優賞の『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)と『マネーボール』(2011)の計3回。残念ながら受賞には至っていない。

■ホワイト・プリビレッジの光と影を体現するピット

 これら3作を振り返ると、ピットの俳優としての強みはホワイト・プリビレッジの光と影を象徴しているキャラクター表現にあるのではないかと筆者は思う。ホワイト・プリビレッジとは格差社会のアメリカにおいて、“マジョリティである白人男性が受ける優遇”を指す概念だ。アメリカの権力中枢は白人男性がマジョリティを占めていることから、白人男性は有色人種よりも社会的・経済的に優遇される。例えば、白人男性は有色人種の男性よりも、警察官に路上で職務質問をされる頻度が少ないことや、昇進のスピードが速いことなどがよく話題に上る。

 しかし、このホワイト・プリビレッジは白人男性にとって諸刃の剣だ。なぜなら、貧困地域の白人男性はプリビレッジなぞもはや享受できないのに、白人男性だからといって優秀でいることを当然のように求められ、期待と現実のギャップに苦しむこともある。また、成功した白人男性とて、自身が築いた成功がプリビレッジの結果だと過小評価されてしまうこともあるだろう。

 ブロンドヘア、ブルーアイ、整った顔立ちに角張った顎は、アングロサクソン的な“男らしい美しさ”の特徴だ。これらをすべて兼ね備えた中流家庭出身のピットはホワイト・プリビレッジの光を浴びて育ってきただろう。だが、彼はプリビレッジの影を映し出した役柄に本領を発揮するように見える。

 例えば、『12モンキーズ』の精神病者ジェフリー・ゴインズはイカれたことばかり言っているが、よく耳をすませると現代の消費社会やヒューマニティについて哲学的な批判をしているし、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の生まれながらに老人で歳をとるごとに若返るベンジャミンは現代社会における人間の“生き方”が既に死んでいるのではと我々に問いかけるメタファーだ。名門大学を蹴ってプロの野球選手となったのに、選手としては芽が出ず引退し、ゼネラルマネージャーとして弱小球団を改革していく『マネーボール』のビリー・ビーンは、まさに白人男性の理想と現実の格差を映し出している。

 現在公開中のタランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でピットが演じるクリフは、レオナルド・ディカプリオ演じる落ちぶれ俳優のリックの運転手でもあり、友人でもあるスタントマン。ともすれば傷つきやすく弱々しいリックに対し、クリフは白人男性が社会から期待される“アメリカ人らしい忠誠心、強さや男らしさ”を補う役割があるが、どこか影を抱えているキャラクターだ。ピットのパフォーマンスは、オスカー助演男優賞ノミネート確実視という声も上がるほど素晴らしい。

 一方、プランBが制作にも関わり、ピットが主演している最新作『アド・アストラ』はジェームズ・グレイが監督し、リアルで壮大な映像や音響、ヒューマニティや現代社会を示唆した深い物語性が批評家からも高く評価されている。

 ピットが演じる宇宙飛行士ロイ・マクブライドはどんな非常事態でも脈拍が乱れぬほど冷静沈着で勇敢な“男らしい”男だが、それが故に妻にも捨てられる。本作は、命の源である宇宙を舞台に父親探しをするという謎を通して、現代社会における男性のジェンダー・ロールや人生の価値観に問題提起した物語なのだ。

 やはり、ピットの得意とする表現はホワイト・プレビレッジを恩恵を受けていたかと思われる男が、実は脆く壊れているというキャラクターにあるのではないだろうか。そして、そこにマジョリティもマイノリティの観客も共感してしまうのかもしれない。

■ジェニファー・アニストンとプランBを創設

 さて、ピットは、プロデューサーとしても『マネーボール』、『それでも夜は明ける』(2013)、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)の3作でアカデミー賞作品賞にノミネートされたほどの実力の持ち主だ。

 2001年にブラッド・ピット、ジェニファー・アニストンとプロデューサーのブラッド・グレイが創立した映画制作会社「プランB」は、2005年にピットとアニストンが離婚し、グレイがパラマウント・ピクチャーズのCEOに就任してからはピットが単独オーナーとなり、映画プロデューサーであるディード・ガードナーとジェレミー・クライナーが共同社長に加わった。

 ピットが出演した『トロイ』(2004)、『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007) 、『ツリー・オブ・ライフ』(2011) 、『ジャッキー・コーガン』(2012) 、『ワールド・ウォーZ』(2013)、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の他にも、アカデミー賞作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』と『ムーンライト 』(2016)、近年ではアカデミー賞8部門ノミネートを果たしたクリスチャン・ベール主演『バイス』(2018)やティモシー・シャラメ主演作『ビューティフル・ボーイ』(2018)など、話題作に事欠かない。

 ついでながら、「Plan B」とは英語で、一番目のプランAが上手くいかなかったときに使う二番目のプランBという意味があり、このネーミングもなかなか興味深い。

■#OscarsSoWhiteに抗ったプランB

 #OscarsSoWhiteがSNS上を騒がせ始めたのは2015年。2012年頃からハリウッドにおけるダイバーシティの欠如は議論され始めていたが、2015年になってもアカデミー賞の俳優部門にノミネートされたのが全員白人だったことに抗議したハッシュタグである。ところが、2016年の候補者もこれまた全員白人。これを受けてスパイク・リー監督は自身のインスタグラムにアカデミー賞をボイコットすることを表明した。

 そして2017年、プランBが制作した『ムーンライト』が『ラ・ラ・ランド』を押しのけて作品賞に輝いた出来事は記憶に新しいだろう。とはいえ、アカデミー賞委員会のマジョリティはいまだに白人男性。ハリウッドの資本と権力を握るのは白人男性だからこそ、メインストリーム映画の主人公は白人男性が多く、大手スタジオは安定した利益を得るために白人男性が主役のマーベル・シネマティック・ユニバースやDCエクステンデッド・ユニバースを展開して、過去のヒット作の焼き直しを続けているといえよう。

■『ムーンライト』がオスカーを受賞するまで

 2001年の設立以来、ティム・バートンの『チャーリーとチョコレート工場』(2005)、マーティン・スコセッシの『ディパーテッド』(2006)やテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』(2011)などそうそうたる面々の監督を迎えて毎年新作を送り込んできたプランBが、“革新的な映画制作会社”だというイメージを世界に印象付けたのは、アフリカ系イギリス人スティーブ・マックイーンが監督した2013年の『それでも夜は明ける』がきっかけだ。この作品は、19世紀にアメリカ北部で誘拐された自由アフリカ系アメリカ人が南部で奴隷にされてしまった実話を映画化したもので、スティーブ・マックイーンは、アフリカ系映画監督の作品として初めてアカデミー賞作品賞を受賞した。

 翌年2014年には、マーティン・ルーサー・キング・Jr牧師が1965年にアラバマ州セルマで先導したデモを映画化した『グローリー/明日への行進』をオプラ・ウィンフリーと共同プロデュース。アフリカ系女性エイヴァ・マリー・デュヴァーネイが共同脚本・監督した本作は、ゴールデングローブ賞監督賞とアカデミー賞作品賞にアフリカ系女性監督として初めてノミネートされた。この2作品が、2017年に『ムーンライト』が起こした快挙の礎を築いたのである。

 1980年代から90年代のマイアミを舞台にアフリカ系アメリカ人のゲイの少年の成長物語を描いた『ムーンライト』の脚本が、アフリカ系アメリカ人バリー・ジェンキンスによって執筆され、プランBからの投資の下、当時インディーズの配給会社であったA24が資金管理と世界配給を担当して、プランBとA24による合同制作から『ムーンライト』が生まれた(これを機にA24は制作会社にもなった)。

 本作が2017年のゴールデングローブ賞で5部門ノミネートされて作品賞を受賞、アカデミー賞では8部門ノミネートされて作品賞、助演男優賞と脚色賞と3部門で受賞した画期的な出来事は、アフリカ系アメリカ人がこれまでハリウッドで排除されてきた歴史におけるマイルストーンとなったのは言うまでもない。

 注目されているマイノリティの人材を見つけ出し、彼らの才能を輝かせて、人種差別や社会的問題をあぶり出す社会派作品を輩出し続けてきたのが、プランBなのだ。(※2)

■ブラッド・ピットがハリウッドを変えられる理由

 プランBの社長であるガードナーはヴァニティ・フェア誌にこう語った。

「誰もが声を上げる必要がある。白人男性がエンターテインメントを形付けているけれど、それはおかしい。歴史を気にするなら、世の中の物語はすべての人種、文化、ジェンダー、性向や信念から語られるべきだと思う」(※3)

 今後は俳優業よりもプロデュース業に力を入れると言うピットは、ハリウッドにおける自身の役割と責任を自覚しているようだ。“アメリカ人の強く男らしい”ハンサムなルックス、スター性、富、華麗な女性遍歴……ホワイト・プリビレッジを一身に集めたブラッド・ピットだからこそ、ハリウッドを変える力をもっているのかもしれない。白人男性優位社会が変わるには、マジョリティである白人男性自身が変革を起こさなければいけないのだから。(文=此花わか)

<参考>
※1…10 Little-Known Facts About Brad Pitt(10 About His Hometown)
※2…Is Brad Pitt the wokest white man in Hollywood? – The Undefeated
※3…Selma Producer on Historical Accuracy Flap: “It’s Dismaying” – Vanity Fair

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