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歌い手 Eveが「ドラマツルギー」で描いた“闇” 自らを解放して覚醒の期へ

リアルサウンド

18/7/4(水) 8:00

 2018年1月期に放送されたTBS系ドラマ『アンナチュラル』主題歌の米津玄師の「Lemon」は、6月8日に発表されたBillboard JAPAN上半期JAPAN HOT100で総合首位を獲得し、MV再生数は1億回を突破。もともと歌い手かつボカロPから活動をスタートした彼がポップミュージックシーンで着実に活動を重ね、このドラマ主題歌を機にさらに広く認知されたことは記憶に新しい。米津のように昨今では、“歌い手界”から一般のリスナーに名前を広げるアーティストも少なくない。例えば、「きみだけは。」がドラマ『#』(TOKYO MX)の主題歌に起用された天月-あまつき-や、の「ケイデンス」でTVアニメ『弱虫ペダル NEW GENERATION』のオープニングテーマを担当した夏代孝明などだ。

 中でも今回は、2017年から歌い手界に新風を巻き起こし始め、2017年10月に公開した「ドラマツルギー」が先日1000万再生を突破したEveについて紹介したい。現在、彼は歌い手・ボカロP・デザイナーの3つの顔を持つが、歌い手を始めるきっかけをくれたのはニコニコ動画に精通した友人だったという。2009年10月1日にニコニコ動画で、「TRAGIC BOY」を投稿したことから歌い手活動を開始。中性的な歌声が魅力的で聴きやすく、特に高音部分は虹のようにキラキラ輝いた透明感がある。

 その後もボカロ曲を歌ってきた彼だが、einie(アイ二ー)というバンドでギターボーカルとして作詞作曲を手掛けていた経験もあり、2015年8月12日にリリースした2ndアルバム『Round Robin』からは少しずつオリジナル楽曲も制作していくようになる。2017年からはボカロPとしての活動を始動。「ナンセンス文学」「ドラマツルギー」は瞬く間に多くの歌い手にカバーされ、認知度を一気に高めた。2017年12月13日にリリースした4thアルバム『文化』では収録曲の全てをオリジナル楽曲にして、自身の才能をふんだんに盛り込むスタイルに変化していった。

 また彼は、古着を中心とした個性的なスタイルで、ファッションリーダーといえるくらいの服好き。その趣味を活かすように自身がデザイナーとなりオリジナルの服や雑貨を販売する『はらぺこ商店』というショップを立ち上げ、2017年には期間限定で原宿にポップアップストアをオープンした。現在は全国各地に取扱い店舗を拡大している。彼は様々な領域において自身の目標を見事に達成している、稀有な歌い手なのだ。

 そんなEve自身が歌い、約8カ月間で1000万再生を達成した「ドラマツルギー」はアルバム『文化』収録曲で、彼の「歌ってみた」動画シリーズでは、他と比べ物にならないほどの再生回数を誇る。

ドラマツルギー – Eve MV

 ドラマツルギーとは、役割演技・印象操作を営むことにより社会と個人の関係が成り立つという分析手法をいう。主人公は周囲によって傷付き、臆病になってしまった少年。その少年が生きる社会を小さな劇場(はこ=現実)として例え、本当は劇場(現実)の外に逃げ出したいと葛藤する気持ちを歌った楽曲だ。〈優しさに温度も感じられない 差し伸べた手に疑いしかない〉というフレーズからも分かる通り、少年は深い闇を抱えている。

ナンセンス文学 – Eve MV

 「ドラマツルギー」より前の2017年5月に公開された「ナンセンス文学」(『文化』収録曲)という楽曲でもEveは“闇”を描いており、「ナンセンス文学」が彼のターニングポイントの一つでもあった。ナンセンス文学とは、意味のあるものと意味のないものを組み合わせて言葉を使う手法により、文学の倫理やルールを破壊していくような文学のことをいうが、闇を抱えている主人公を新しい自分へと解放させようとしている点が、「ドラマツルギー」と共通している。

 これは〈全て失ったって 誰になんと言われたって “己の感情と向き合ってるのかい” そうやって僕を取り戻すのだろう〉というフレーズがある「会心劇」(『文化』収録曲)にも通じる。先に挙げた「ドラマツルギー」「ナンセンス文学」含め、アルバム『文化』を通じて、腹を割って毒を吐くような内容の楽曲を初めて公開したことは、彼にとって大きな挑戦だっただろう。しかし、思い切った結果、リスナーから彼に対する好感度はより一層高まり、彼はまさしく“会心劇”といえる展開を迎えることができたのだ。「ドラマツルギー」の主人公のように、自分を解放したことで、さらなる幸運を掴んだといえる。

 「ナンセンス文学」と「ドラマツルギー」、どちらも文学的な要素が詰め込まれており、何かを訴えるために生まれた楽曲であることに違いはない。彼はTwitterで「ナンセンス文学を投稿してから今日で1年。この1年間で僕の中の何かがグシャッと変わってしまった感覚がすごくある、人生で1番濃い1年だった気がする」と投稿していた。『文化』を機に覚醒し、よりリリカルになった彼は一味違う。今後はどんな形で、どんなトリックを仕掛けた楽曲を生み出すのだろう。変幻自在な彼の名が、広く一般のリスナーに知られていくのもそう遠くなさそうだ。

■小町 碧音
1991年生まれ。歌い手、邦楽ロックを得意とする音楽メインのフリーライ
ター。高校生の頃から気になったアーティストのライブにはよく足を運んでます。『Real
Sound』『BASS ON TOP』『UtaTen』などに寄稿。
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