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井上ひさしの初期戯曲『日の浦姫物語』をこまつ座が上演

ぴあ

19/9/6(金) 0:00

こまつ座『日の浦姫物語』の出演者。左から辻萬長、朝海ひかる、平埜生成、毬谷友子 撮影:田中亜紀

井上ひさしが初めて文学座と女優・杉村春子に『日の浦姫物語』を書き下ろしたのは、1978年のこと。杉村は70代を迎えていたが、宿命に翻弄される日の浦姫の15歳から53歳までを見事に演じきり話題となった。そんな井上の初期戯曲を、本日9月6日から東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで、こまつ座が上演する。日の浦姫を演じるのは、2年前のこまつ座公演『私はだれでしょう』での好演も記憶に新しい朝海ひかる。演出は、文学座の所属で、井上作品も多く手がけ、その手腕が高い評価を得ている鵜山仁が担当する。

舞台は平安時代の奥州米田庄。母の命と引き換えに生まれた双子、日の浦姫(朝海)と稲若(平埜生成)は、父・藤原成親が亡くなった日に禁忌を犯してしまう。稲若の子を身ごもった日の浦姫は、稲若と引き離され、生まれた子も“罪の子”として小舟に乗せ海に流される。18年後。小舟が流れ着いた漁村で青年となった魚名(平埜の2役)は、両親を探す旅の途中で米田庄に立ち寄る。そこで横暴な男・金勢資永を制した魚名と、助けられた日の浦姫は、互いを親子とは知らず惹かれ合い……。

本作の発想は、井上が中学3年から高校卒業まで入っていた仙台の孤児院で聞いた、聖人伝だという。中でも、教皇グレゴリウス1世(グレゴリウス聖歌の由来になった)の人生が、井上の興味をひいた。魚名と同じ “罪の子”であり、17年間の懺悔の生活を送った末、神に見いだされて教皇になった彼の生涯は、「兄妹や母を持たない“孤児たち”に激しい衝撃を与えた」と井上は語っている。そこに『今昔物語』『今昔説話抄』など、日本の近親相姦の系譜を重ねて描いたのが本作。極私的な体験に普遍的な視点を加え、鮮やかな物語を紡ぎ出す井上流の作劇は、ここでも健在だ。

日の浦姫役に挑む朝海は、元宝塚トップスターという経歴を持ちながら、近年は脇の役どころも堅調に演じ、今春上演されたチェーホフ『かもめ』ではアルカージナ役をオーディションで勝ちとるなど、芝居そのものへの“覚悟”が見てとれる。稲若と魚名を2役で演じる平埜は、映画やテレビドラマのほか、先述の舞台『私はだれでしょう』では、読売演劇大賞男優賞候補に名前が挙がるなど、いま注目の若手俳優。“井上組”ともいえる辻萬長や、たかお鷹のほか、独特な存在感を放つ毬谷友子、さらに文学座の座員たちと、盤石の布陣で贈る本作。この座組みなら、戯曲が放つ繊細なきらめきを、存分に味わえそうだ。

文:佐藤さくら

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