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“女性同士の奇妙な関係”を描いた新たな秀作! 『GRETA グレタ』に漂う“孤独”と“狂気”

リアルサウンド

19/11/11(月) 12:00

 『GRETA グレタ』(2019年)は奇妙な映画だ。サイコサスペンスであり、ブラックコメディであり、孤独と狂気を描いた映画でもある。

参考:異常な数のメッセージ、着信80回……イザベル・ユペールの怪演が垣間見える『グレタ GRETA』本編映像

 母を失ったばかりのフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)は、帰りの電車で鞄を拾う。鞄の持ち主はグレタ(イザベル・ユペール)という中年女性だった。フランシスは都会の片隅で孤独に生きるグレタに、失った母の面影を見る。親友のエリカ(マイカ・モンロー)が止めるのも聞かず、フランシスはグレタに近づいていく。グレタもまた心優しいフランシスを歓迎し、2人は互いの孤独を埋め合うように寄り添い合って……。

 どの程度あらすじを書くべきか悩んでしまう。なぜなら本作は、どんな映画なのか知らずに観た方が楽しめるタイプの作品だからだ。とはいえ宣伝で既に明らかになっているので書いてしまうが……グレタの正体は決して“善き隣人”などではない。

 クロエがインタビューで「80~90年代の作品を思い出した」と本作を評しているが、たしかに本作は『ミザリー』(1990年)や『セブン』(1995年)といった作品を彷彿とさせる。しかし、最初に書いたように、こうしたサイコサスペンス的な恐怖と同時に、本作には悲劇と喜劇が同居している。それはひとえに、グレタ、フランシス、エリカという3人の女性のキャラクターと、奇妙な関係性によるものだ。

 フランシスはまだ幼さが残る女性だ。「少女」と言っていい未成熟な印象を受ける。母の死が深く影を落としており、見ていてどこか危なっかしい。逆に親友のエリカは明るく陽気で、たくましい印象を受ける。フランシスは遊んでいるシーンよりも職場で働いているシーンが多いのに対し、エリカはパーティーやヨガなど、自分が楽しんでいるシーンの方が多い。正反対な2人だが、その関係性は非常にスムーズだ。エリカが急に大腸洗浄の話を始めても、フランシスは(苦笑いしつつも)受け流す。この2人の関係性は軽やかな対比であり、フランシスを月とすれば、エリカは太陽だろう。

 そして、グレタである。本作最大の個性は彼女の存在だ。大都会の片隅にある小さな家に住み、ピアノを弾き、お菓子を作って暮らしている。どこかファンタジックで、彼女の周りだけ時間が数十年前で止まっているようだ。まさに絵に描いたような「母」。そして同時に、1人の人間としての孤独を抱えている。母親としての穏やかな存在感と、1人の人間としての孤独が、親を失ったばかりのフランシスを引きつけ、2人の間に強い絆を形成していく。フランシスにとってエリカが対局に位置する存在なら、グレタは確実に自分の側の人間だ。フランシスは月でエリカが太陽なら、グレタは地球のようなもの。自分に近く、自分と共に動いてくれる存在だ。フランシスはグレタの、グレタはフランシスの孤独を埋め合う。こうした互いを補い合うことで絆を育むのは、古くから多くの映画で見られる王道だ。女性同士の映画で言えば、『テルマ&ルイーズ』(1991年)、最近だと『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)などが挙げられるだろう。また人生の先輩と後輩の出会いという観点で言えば、本作序盤の手触りは(男同士になるが)『小説家を見つけたら』(2000年)や『最強のふたり』(2011年)などにも近い。

 穏やかな調子で始まる映画だが、ある印象的なシーンで一気に不穏な空気に包まれる。2人がディナーの準備をしているとき、フランシスはグレタの“秘密”を知ってしまう。グレタはフランシス側の人間でも、エリカ側の人間でもない。グレタは宇宙でたとえるなら『インデペンデンス・デイ』(1996年)に登場した、地球を焼け野原にしようと攻めて来た巨大UFOである。グレタの正体があらわになるや、演技派イザベル・ユペールの独壇場。彼女の凶行は、劇場で「目撃」する方がいいだろう。特に“クッキー作り”は必見。ショッキングだが、ブラックコメディのようにも見える。

 しかし、こうした狂気に陥りながら、グレタはフランシスの母であり、友達であり続けようとする。社会の常識も人の気持ちも無視して、孤独を埋める愛を求めるグレタを見ていると、恐怖を覚えるのと同時に、哀しみを覚える。そして人は孤独で狂気に走るのか? それとも狂気ゆえに孤独に陥るのか? ……とも、考えさせられる。グレタはまるで『バットマン』のジョーカーのようだ。もちろん凶悪性もジョーカー並で、イザベル・ユペールの演技も手伝って、私には一瞬、本当にジョーカーに見えた。

 本作は奇妙な映画である。大別すればサスペンス映画だが、サスペンスだけではない。切なく、怖く、笑えて、どこか哀しい1本である。そして、グレタという恐るべきキャラクターの出現に、まずは拍手を送りたい。(加藤よしき)

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