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新井浩文の逮捕により『台風家族』公開延期に 不祥事が作品公開に及ぼす影響を、弁護士に聞く

リアルサウンド

19/2/7(木) 18:00

 俳優の新井浩文が強制性交容疑で逮捕されたことを受けて、NHKの有料動画配信サービス「NHKオンデマンド」は、新井容疑者が出演した10番組の新規販売を停止。また、6月公開を予定していた新井容疑者が出演する映画『台風家族』も、配給会社・キノフィルムズが同映画の公開の延期を発表している。

参考:<a href=”https://www.realsound.jp/movie/2019/02/post-314703.html”>米アニー賞受賞 細田守監督作『未来のミライ』が海外で高い評価を勝ち得る理由</a>

 役者や監督、製作陣の不祥事によって作品の上映が中止されたり、作品内容自体が編集されるケースは過去にも多々ある。2016年8月には強姦致傷容疑で逮捕(後に不起訴処分)された高畑裕太の出演ドラマ『侠飯~おとこめし~』(テレビ東京系)が、一部撮り直しのうえ、高畑の出演シーンをカットして放映され、2017年6月に、未成年との飲酒及び不適切な関係を認めた俳優・小出恵介が出演していた映画『愚行録』は上映中止にもなった。

 一方で作品に罪はないという見方も。新井容疑者の現状を法的に整理すると、現時点では逮捕勾留され取調べなどの捜査が行われている段階。この後、捜査が進んで事実が固まれば検察官が公訴提起するかどうかの判断を下す。公訴提起されれば裁判となり、最終的には裁判官が有罪か無罪か、有罪の場合は罰の重さ等を決めることになる。今回の「NHKオンデマンド」販売停止においては、刑の確定後、少なくとも起訴後の処置にすべきでは、という議論もある。

 エンターテインメントに詳しい弁護士・小杉俊介氏は、今回のNHKの販売停止の判断について、「捜査中の事件であり詳細は不明なのであくまで一般論ですが、性犯罪は示談が成立した等の事情によって不起訴処分で終わる可能性も高い類型の犯罪です。現時点では、法的には何も決定していない段階とも言えるでしょう。なので、この段階での配信中止は法的リスクというよりレピュテーションリスク(企業に対する否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険度)を考慮しての素早い判断と捉えることができます」と語る。

 海外においても似通ったケースはある。俳優のケヴィン・スペイシーは2017年10月、同じく俳優のアンソニー・ラップから「14歳の時にスペイシーにセクシャルハラスメントを受けた」と告発。その後、各地でも同様の被害を訴える声が上がった。それを受けて、公開間近であった映画『ゲティ家の身代金』は、クリストファー・プラマーが代役に立てられ、スペイシーの全出演シーンが撮り直された。Netflix初のオリジナル・コンテンツでもありスペイシーが主演兼エグゼクティブ・プロデューサーを務めていた『ハウス・オブ・カード』ではシーズン6以降のキャスト及び製作からスペイシーは外れ、Netflixもスペイシーとの関係を打ち切り、主演映画『Gore』の製作を中止している。

 一方で、スペイシーが主演を務めてきたそれまでの『ハウス・オブ・カード』は現在も観ることができる。また、スペイシーが出演した映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』(2018)は、告発より前の2016年に完成していたこともあり、セクシャルハラスメントを黙認しない旨とキャスト・スタッフの努力を届けたいという思いを配給側が発表した上で、スペイシーの出演シーンもそのまま公開している。

 「スペイシーの場合は、セクハラの告発による民事での争いのため、今回とは論点が異なるかと思います。世間の目が厳しくなっているという現状もありますが、新井容疑者の場合には、警察も動いている刑事事件であり、そのまま配信を続けたり、映画を公開することによる、配給会社や製作会社のイメージダウンもより大きいものと考えられます」

 では、映画を公開した際においては製作者、配給会社、宣伝会社などが法的な責任を負う可能性はあるのだろうか?

 「法律の一般論でいうと、公開した側が責任を負うことはまずありません。もちろん、公開によって被害者が不快な思いをすることも考えられますが、それを保護する理屈が法的に成り立つかというとなかなか難しいでしょう。一方、契約書に出演者の品位保持条項などが入っていて、それを破ったとして、そういった会社(製作会社、配給会社、宣伝会社など)から容疑者への、債務不履行を根拠とした損害賠償が成り立つ可能性はあります。契約書がなかった、もしくは契約書に明記されていなかった場合においても、品位の保持は義務であるという解釈で契約不履行になる可能性はあります」

 このようなケースにおいて問題となるのは、法的な問題よりも「イメージ」低下のリスクだと小杉弁護士は指摘する。映画やドラマなどの作品をある種の「商品」として捉えると、その商品を売るか否かは、売り手が個々のリスクを考慮して決めるということになる。

 「どうしても映画などの芸術作品は観る側も思い入れを抱きます。しかし性的暴行という罪状も踏まえ、仮に公開を強行した際、作品を観ない人からすれば、『性犯罪被害を重くとらえていない』『性犯罪に甘い』『世評を気にしていない』などのイメージを持たれかねず企業イメージの低下は必至であり、例えば今回のNHK側のオンデマンド配信中止の対処を“過剰反応”の一言で済ませられるものではありません。推定無罪(“何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される”という、近代法の基本原則)というのはあくまで刑事司法の原則であって、報道や企業の判断も一様にその原則に従うべき、とまでは言えないのではないでしょうか」

 確かに作品に罪はない。作品を観たいという鑑賞者の思いも考慮されるべきであろう。しかし、作品を公開するということは、多くの人間の目に入るということでもあり、そのために製作者や出演俳優はあらゆる責任を背負うこととなる。改めてその責任の重さを感じる事件となった。

(取材・文=編集部)

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