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『さよならテレビ』から『空に聞く』まで 2020年のドキュメンタリー映画を振り返る

リアルサウンド

20/12/31(木) 10:00

 ここ数年、ドキュメンタリー映画を観る機会が増えた……というか、「面白いドキュメンタリー映画を観たい」という思いが、年々強くなっている。「記録映像」としての意義はもとより、自分の知らない「世界」、あるいは知らなかった「事態」、そして「人物」を、関係者たちの「声」や「解説」によって、より立体的に理解させてくれる映像作品。そんなドキュメンタリー映画を、今年も数多く観ることができた。けれども、それに順位をつけるのは、どうも違うような気がしている。ドキュメンタリーは、ときとして、その作品の「強度」や「完成度」以上に、そこで描かれている事件の「重要性」や、そこに込められた人々の「思い」そのものに価値があるのだから。よってここでは、自分が今年観て印象に残ったドキュメンタリー映画を時系列に沿って並べながら、2020年を振り返ってみることにしたい。これもひとつのドキュメント(記録)だと思うから。

 まずは、年明け早々に公開された『さよならテレビ』。『ヤクザと憲法』(2015年)や『人生フルーツ』(2016年)といった作品で広く知られるようになった、東海テレビ「ドキュメンタリー劇場」の第12弾である。2018年、東海テレビの開局60周年記念番組として放送されたものの再編集劇場版となる本作が問うのは、ズバリ「テレビメディアの存在意義」だ。東海テレビで働く3人の人物を通して浮き彫りとなるテレビメディアの矛盾と問題点。忖度なしに突き付けられるそれらの問題は、やがてそれを求める視聴者、すなわち我々自身にも跳ね返ってくるのだった。仮に、視聴者の「欲望」に応えるのがメディアであるとするならば、その「欲望」の正体とは何なのか。それ以前に、我々はその「欲望」について、どこまで自覚的であるのか。安易な「結論」を導き出すのではなく、その内部にいる人間がひたすら自問自答し、悩み続ける姿を描いた「人物ドキュメンタリー」としても秀逸な一作だった。

 3月20日に公開された『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』も、とりわけ強い印象が残っている。1963年5月、東大駒場キャンパスに三島由紀夫を招いて行われた討論会の模様を記録した秘蔵映像を再編集し、そこに関係者や識者の新たなコメントを挟み込んだ構成となった本作。三島を迎え撃つのは、当時隆盛を誇った東大全共闘の面々だ。そこで強く印象に残っているのは、ときに無礼な言葉を投げ掛けながら、三島を怒らせ論破しようとする学生たちの話にしっかりと耳を傾け、彼らに対して思うこと、伝えたいことを真摯に語ろうとする三島の、どこまでも人間的な姿勢なのだった。周知の通り、三島は同年11月、割腹自殺する。そこから50年が経った今、その文学的達成によって、ともすれば神格化されようとしている三島由紀夫という人物の「生身の姿」、そしてその「人を惹きつける力」を知るには格好のドキュメンタリー映画だ。

 一方、その頃アメリカでは、3月20日からNetflixで配信が開始されたドキュメンタリー・シリーズ『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』(全7話+1)が、大ブームを巻き起こそうとしていた。その主人公は、オクラホマ州で私設動物園を営む、非常にエキセントリックな人物、ジョー・エキゾチックだ。トラの繁殖ビジネスも行っている彼の「怪しさ」と「胡散臭さ」を、密着カメラと関係者たちの声によって明らかにしようとする本作。というか、その関係者たちも十分「エキセントリック」で「怪しい」というのが、本作の見どころなのだろう。2018年に逮捕、懲役22年の判決を言い渡され、現在も獄中にいるジョーは、果たしてどんな罪を犯したのか。その底なしの「自己顕示欲」の奥底には、果たしてどんな「闇」があったのか。新型コロナウイルスによる外出自粛という状況も、大いに影響したのだろう。この異形の「人間ドラマ」に世界が大興奮したことも、ある意味2020年を象徴するひとつの出来事だったのかもしれない。

 4月7日に発令された緊急事態宣言が、やがて全国へと広がり……2カ月近くものあいだ全国の映画館の灯が消えるという、前代未聞の異常事態を経た6月13日に公開された『なぜ君は総理大臣になれないのか』も、今年大いに話題となった一本だ。ある国会議員の17年を追ったドキュメンタリー。「ただ社会を良くしたい」……地盤、看板、カバンなしで選挙戦をはじめ、2005年に晴れて衆議院議員となった彼を待ち構えていたのは、さまざまな力学によって動いている「ニッポンの政治」だった。そのなかでもとりわけ印象的だったのは、2017年の政局だ。当時、民進党に所属していた彼は、小池百合子率いる「希望の党」によって、ある重要な選択を迫られる。そう、この映画の公開から間もない7月に、東京都知事選挙があったことも、忘れずに記憶しておくべきだろう。そして、本来であれば、その月の下旬から、東京オリンピックが開催されていたであろうことも。

 9月4日に公開された『行き止まりの世界に生まれて』も、個人的には実に忘れがたい一本だ。スケートボードを介して繋がる少年たち……という意味では、同時期に公開された俳優ジョナ・ヒルの初監督作『mid90s ミッドナインティーズ』も良かったけれど、90年代のロサンゼルスを描いた『mid90s』に対して、本作の舞台となるのはイリノイ州のロックフォードという街。いわゆる「ラストベルト」と呼ばれる地域だ。そんな夢も希望もない場所で生きる少年たちが、スケートボードを通じて繋がり合う……という構図は『mid90s』と同じだが、実在する人々の「生の記録」であるという意味で、あるいはそれが照射する「現代アメリカの姿」という意味で、本作が醸し出す「説得力」と「切実さ」は、かなり胸に響くものがあった。劇映画も含めた今年のベストに数えられてしかるべき「強度」と「美しさ」を持った映画だ。

 9月9日からNetflixで世界一斉配信が開始された『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』も、今年大きな注目を集めた一作だ。いささかミスリーディングを誘う日本語タイトルではあるけれど、原題は端的に「ソーシャル・ジレンマ」。要は、インターネット、そしてスマートフォンの登場が人々にもたらせた「恩恵」と、それによって失われつつある我々の「自由意志」のジレンマを、ソーシャルメディア企業の内部にいたことのある人々をはじめとする関係者らの証言を通じて、わかりやすく解説しようというのが本作の試みだ。物事をやや単純化、図式化しているという批判もあるようだけれど、まずはこの共通認識から始めよう……それが恐らく、本作の作り手たちの「狙い」なのだろう。実際に起こった出来事を、より細密に究明しながら、現状に警鐘を鳴らすドキュメンタリー『グレート・ハック:SNS史上最悪のスキャンダル』も、合わせて観ることをおすすめする。

 必ずしも上映規模は大きくなかったけれど、今年、音楽ファンのあいだで大きな注目を集めたのは、9月18日に公開されたドキュメンタリー映画『メイキング・オブ・モータウン』だった。いわゆる「デジタル化」がもたらせたアーカイブの充実とアクセスのしやすさも関係しているのだろう、昨今の音楽ドキュメンタリーの充実には目を見張るものがあるけれど、本作が扱っているのは、60年代からポップ・ミュージックを牽引し続けてきた老舗音楽レーベル「モータウン」だ。その創業者であり、今年御年91歳となるベリー・ゴーディ自らが語る、モータウンの歴史。彼の「語り」が、とにかく明るいのだ。とりわけ、彼の「戦友」とも言えるミュージシャン、スモーキー・ロビンソンとの掛け合いは、観ているこちらも楽しくなるような明るさと勢いを打ち放っており……この「明るさ」こそが、モータウンの何よりの「色」なのだろう。もはやスタンダートと言える歴代のヒット曲に彩られながら描き出されるモータウンの歴史。観ていて実に楽しい、とても多幸感溢れる「音楽ドキュメンタリー」だった。

 10月2日に公開された『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』は、ウルグアイの元大統領、ホセ・ムヒカの思想と人生を描いた一作だ。今年はもう一本、『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ムヒカ』というエミール・クストリッツァ監督によるドキュメンタリー映画があったけれど、こちらはムヒカと日本の知られざる繋がり、そして大統領職を退いたのち、2016年に来日したときの模様を描いているという意味で、我々日本人にとっては、より近しいものとなっている。ちなみに、その最後に映し出される、東京外語大で行われたムヒカのスピーチには、かなり感じるところがあった。周知の通り、「経済成長」を旗印に進んできた「資本主義」社会は今、大きな岐路に立っている。この先、必要なのは、新しい価値観なのではないか。そのヒントが、この映画のなかにある。それにしても、「世界でいちばん貧しい大統領」という呼称は、やはり少々引っ掛かる。「貧しい」とは、どういうことを指すのか……奇しくもその答えは、本作のなかでムヒカ自身の口から語られている。

 10月31日に公開された『私たちの青春、台湾』も、かなり衝撃的なドキュメンタリー映画だった。台湾学生運動の中心人物と、台湾の社会運動に参加する中国人留学生……そんな2人の姿に「未来」を感じ、カメラを回し始めた若い女性監督が、彼/彼女たちと共に中国、そして香港を回りながら、確かに感じた「若者たちの力」と彼/彼女たちの緩やかな「連帯」。しかし彼女はやがて、大きな衝撃と共に、自らの内なる「思い」と向き合わざるを得なくなるのだった。この映画は必ずしも「成功」を描いた映画ではない。けれども、やがてそれぞれの道を歩み始めた彼/彼女たちの姿には、確かな「希望」があった。台湾、香港、中国、あるいはタイ……若者たちを中心に今、大きく揺れ動きつつあるアジア情勢のなかで、私たちは何を思うのか。何者でもない人たち……とりわけ若者たちの心を揺り動かす確かな力が、この映画には宿っているように思う。ドキュメンタリーではあるものの、今年観た「青春映画」のなかでベストと言える作品だった。

 そして、最後に紹介するのは、11月21日に公開された『空に聞く』だ。2017年、被災した陸前高田で暮らす「種屋」の風変わりな主人に密着した映画『息の跡』で注目を集めた小森はるか監督が、実はそれと並行して撮影を続けていたという本作。今回彼女が密着したのは、陸前高田のコミュティFMでパーソナリティを務める女性だ。彼女の日常を淡々と捉え続けるカメラ。無論、その前段には、東日本大震災があるのだが……カメラは、あくまでも彼女の「現在」を捉え続け、彼女のまわりに広がる「世界」そのものを静かに浮かび上がらせてゆく。自身も陸前高田に移り住み、そこで暮らす人々を記録し続ける映像作家・小森はるか。決して何かを物語るわけではなく、そこに生きる彼/彼女たちを静かに見つめながら、まさしく映画でしかありえない奇跡的なショットをカメラに収めてしまう彼女の一連の活動は、「人物ドキュメンタリー」の在り方に新たな「ヒント」と「文体」を与えるような、とても画期的な試みのように思えた。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■公開情報
『行き止まりの世界に生まれて』
監督・製作・撮影・編集:ビン・リュー
出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リューほか
エグゼクティブ・プロデューサー:スティーヴ・ジェームスほか
配給:ビターズ・エンド
93分/アメリカ/2018年/英題:Minding the Gap
(c)2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:bitters.co.jp/ikidomari
公式Twitter:@ikdiomari_movie
公式Instagram:@ikidomari_movie
公式Facebook:@ikidomari.movie

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