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植草信和 映画は本も面白い 

"奇跡の映画"の関連本2冊とナチス映画の研究書

毎月連載

第32回

20/1/10(金)

『みんなの寅さんfrom1969』

『みんなの寅さんfrom1969』(佐藤利明著/アルファベータブックス/3800円+税)

年号が"令和"に改まった2019年、"奇跡の映画"と評したい2本の映画が生まれた。1本は『スター・ウォーズ』最終章の『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』、もう一本は『男はつらいよ』シリーズ50作目にして〈23年前に亡くなった渥美清主演〉の『男はつらいよ お帰り 寅さん』だ。

なぜ"奇跡の映画"なのかは読者のご想像に委ねたいのだが、この2作品に共通しているのは大衆の圧倒的支持のもとに完結したこと、そして夥しい関連書籍が作られていることだ。

最初に刊行された『男はつらいよ』関連書は1971年の『男はつらいよ大全集』(キネマ旬報社刊)。以降、“寅さん本”は数えきれないほど出版されてきた。

そのほとんどはビジュアル中心のガイド本だが、本書『みんなの寅さんfrom1969』は全50作品を能う限りのデータと情報を盛り込んで解説した唯一無二の決定版、654ページに及ぶコンプリート本といっていい。

構成はプロローグとエピローグを挟んだ全八章。文化放送で放送された『みんなの寅さん』公式サイト、夕刊フジ『みんなの寅さん』、デイリースポーツ『天才俳優・渥美清 泣いてたまるか人生』などの連載を集成している。

本書はこの連載でも紹介した『石原裕次郎 昭和太陽伝』の娯楽映画研究家・佐藤利明の最新刊。彼は序章で以下のように述べている。

「映画好きの両親の影響もあって、映画館で封切りの作品を観ることが、日常だったことが幸いして、渥美清さん演じる車寅次郎は、僕にとってかけがえのないヒーローになりました。(中略)中学、高校、そして成人してからも新作が次々と公開され、『男はつらいよ』は僕の人生とともにありました。」

つまり彼は、もの心ついたときから『男はつらいよ』に親しみ、現在に至るもその心を忘れていない筋金入りの『男はつらいよ』ファンなのだ。

そんな佐藤が『男はつらいよ』体験のすべてを込めた本書は、数多ある"寅さん本"の頂点を極めた一冊となった。

巻末の詳細なデータベース、全作品のロケ地、啖呵売、寅さんの歌、配役も貴重な資料だ。

『スター・ウォーズ禁断の真実(ダークサイド)』(高橋ヨシキ著/洋泉社/1000円+税)

『スター・ウォーズ禁断の真実(ダークサイド)』

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を観たとき、その終盤、ついに終わりが近づいてきたという感慨と感傷がこみ上げてきた。エンド・クレジットに流れるジョン・ウイリアムズのテーマ曲で更にそれは深まり、42年前の『スター・ウォーズ』を観終わったときの忘れ難いひと齣が甦る。

試写会場だった今はないテアトル東京の出口で会った小林信彦氏の言葉。やや高揚した面持ちの氏は、「C-3POとR2-D2は『隠し砦の三悪人』の千秋実と藤原釜足ですね」とおっしゃった。あゝ、観劇中のデジャヴはそれだったのか、と得心できた瞬間だった。

「ノスタルジーに基づく記述は避けるようにした」という本書『スター・ウォーズ禁断の真実(ダークサイド)』を紹介するのに相応しくない、ノスタルジックな思い出話を長々と書いてしまったのも、『スカイウォーカーの夜明け』がシリーズ最終章を飾るに相応しい傑作だったからだ。

本書は『シネマストリップ』『暗黒映画入門 悪魔が憐れむ歌』の高橋ヨシキの新著で、「『スター・ウォーズ』という〈ブラックホール〉のブラックホール性については一旦脇によけて、これまで公開された『スター・ウォーズ』映画を『スター・ウォーズ』世界の歴史の流れに沿って並べ、そのひとつひとつについて、それぞれ異なる側面からの考察を試みた」映画論考書。

構成は、「プリクエル三部作 1999~2005年」、「アンソロジー・シリーズ 2016~2018年」「トリロジー三部作 1977~1983年」「シークェル・トリロジー劇場公開作品 2015~2017年」の四章から成り、自由連想的に10作品を考察していく(執筆時点で『スカイウォーカーの夜明け』は未見)。

『スター・ウォーズ』史を鳥瞰した記述が、示唆に富んでいる。例えば。

「『エピソード1』の製作作業は、非常に大きく複雑きわまりないパズルに例えることができる。実際、多くの場面はパズルのようにして組み立てられた。俳優やセット、CGIや模型はパズルのピースだ。」

「『シスの復讐』は、ルーカス版の〈ベトナム戦争映画〉の序章だ。そこではニクソン大統領が緊急事態を宣言してヒトラーのように全権委任法を成立させたように、形骸化していた共和国が独裁体制へと〈合法的に〉移行する。」

『スター・ウォーズ』マニアの解釈がどうかは知らないが、オリジナル・トリロジーとプリクエル三部作、シークェル三部作がうまく連動できない高齢者には、そのような「目からウロコ」的な記述が多く、説得力に満ちている。

もっと早く読んでいれば見る楽しみが何倍にもなっただろうにと、ない物ねだりをしたくなる本でもある。

『ナチス映画論──ヒトラー・キッチュ・現代』(渋谷哲也・夏目深雪編/森話社/3000円+税)

『ナチス映画論──ヒトラー・キッチュ・現代』

『戦場のピアニスト』(2002年)、或いは『ヒトラー~最期の12日間~』(2004年)の製作・公開以降、〈ナチス/ホロコースト映画〉が急激に増え始めた。その全てを見ているわけではないが、『サウルの息子』(2015年)の“ゾンダーコマンド”、『否定と肯定』(2016年)の“ホロコースト否定論者”の存在を知り、強い衝撃をうけた。

なぜ今、ヒトラーがクローズアップされるのか? なぜ〈ナチス/ホロコースト映画〉が多く作られるようになったのか?  それが世界各国での右傾化、排外主義の台頭とどうリンクしているのか……。

その現象の考察を主目的にした本書『ナチス映画論──ヒトラー・キッチュ・現代』の刊行は、実に時宜に適っている。

編者は『躍動する東南アジア映画』の著者で批評家・編集者、本アプリ「水先案内」でもお馴染みの夏目深雪と、『ドイツ映画零年』の著書をもつドイツ映画研究家・東京国際大学教授の渋谷哲也。

執筆者は田中純、森達也、生井英考、田野大輔、高橋英寿、四方田犬彦、野崎歓、鴻英良、古後奈緒子の諸氏で、「ナチス、ヒトラー、ホロコーストというテーマを政治・経済・歴史・文化のコンテクストのなかで実証的に読み解く」13の論考が収められている。

それぞれ興味深い内容だが、中でも異彩を放っているのは甲南大学教授・田野大輔のレポートだ。

田野は、ドイツの高校教師がはじめた"独裁制"の体験授業が生徒たちを過激な行動へと駆り立てていくさまを描いた『THE WAVE ウェイブ』(2008)のシナリオを下敷きに、「ファシズムの体験学習」と題する特別授業を実施。

指導者(田野)に忠誠を誓わせる敬礼(ナチス式ハイル・ヒトラー敬礼)、隊列行進などを繰り返すうちに生徒の感情が昂揚し、社会的に許されない行為にも平気になっていく様子が読み取れるようになった(実際はもっと複雑な行程を踏んでいるのだが)と述べている。

現在も存続している独裁体制国家を見れば、洗脳がナチス特有の現象でないことは一目瞭然。人間は〈洗脳に鈍感な生き物〉なのだ。

個人的に興味深かったのは四方田の「石鹸と沈黙──イスラエル映画に見る生還者の表徴」で、スピルバーグの『シンドラーのリスト』の安易なラスト・シーンを批判した文章に同感できた。

かつて、〈ナチスと映画〉をテーマにした書籍には、岩崎昶著『ヒトラーと映画』、瀬川裕司著『ナチ娯楽映画の世界』、草森紳一編著『宣伝的人間の研究 ゲッベルス』などあるが、本書はそれらに続く〈ナチス/ホロコースト映画〉研究書として歴史に刻まれる一冊だ。

プロフィール

植草信和(うえくさ・のぶかず)

1949年、千葉県市川市生まれ。フリー編集者。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。著書『証言 日中映画興亡史』(共著)、編著は多数。

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