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Juice=Juice 宮本佳林は、光と影を内に抱える少女だったーー卒業公演とともに振り返る“アイドル人生”

リアルサウンド

 12月10日、宮本佳林がJuice=Juiceおよびハロー!プロジェクトを卒業した。日本武道館で行われたこの卒業コンサートは6月に予定されていたものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって延期。あくまでも有観客での開催にこだわる宮本本人の意向を受け、感染予防対策を厳重に取ったうえで6500人の観客を集めて開催された。今後、宮本はソロとして活動していく。

 私にとって宮本は、ハロー!プロジェクトの中でも特に思い入れのあるメンバーの1人だ。これまで様々な媒体でインタビュー取材をさせてもらったし、そのたびに新たな発見があった。雑誌の企画で松本伊代や浅香唯と対談企画をセッティングしたときは、心酔するレジェンドを前に宮本の緊張と興奮が爆発。相手の目を見ることもままならず、いかに自分が昭和のアイドルに憧れていたかを早口でまくし立てたことが印象に残っている。

 午後6時半、コンサート開演。自身のメンバーカラーであるブドウ色のサイリウムが輝く中、ステージに1人で現れた宮本は「「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?」のイントロ部分をアカペラで歌い始める。声援が禁止されている中、固唾を飲んで見守るファンに対し「Juice=Juice、行くぞーッ!!」と宣言。これを契機に弾けるようにして他の8人もステージに飛び出してきた。こぶしファクトリーに在籍していた井上玲音が新たに加わったことを除けば、おおむねいつも通りのJuice=Juiceといっていい。メンバーはそのまま「好きって言ってよ」、「プラトニック・プラネット」と繋ぎ、会場の熱量を一気に上げていく。

 コンサート中は様々な思いが胸に去来した。とはいっても、それは「佳林ちゃんがいなくなるなんて寂しい……」という感傷的な気分ではない。むしろそれよりは1人の繊細な少女がアイドルとして成長していく過程を見ていたからこその親心にも似た心境。「佳林ちゃん、本当に立派になったなぁ」と頼もしい雄姿に目を細めるばかりだった。

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 私が宮本を初めて取材したのは、彼女がまだハロプロ研修生にいた頃だった。3人程度でのインタビューだったと記憶しているが、屈託のない瞳でハキハキ受け応えする様子がまるで子役女優みたいだなというのが第一印象。そんな彼女に将来の夢を尋ねると、「アイドル革命」という聞きなれないフレーズが飛び出したのだった。

 アイドル革命とは、宮本の説明によると次のようなものだ。まず自分がハロプロでデビューし、そのグループは国民的人気となる。それによってアイドルシーン全体が活性化。社会はアイドルの存在を無視できなくなっていく。たとえばニュース番組は「政治」「経済」「社会」「スポーツ」などコーナーごとに報じられることが多いが、ここに「アイドル」の項目が加わることになる。同様に一般の新聞もアイドルの動向を詳細に報じるように──。

 要するに“アイドルの市民権獲得”を宮本は目論んでいた。たしかにこのジャンルはセールスのいかんにかかわらず、「しょせんアイドルでしょ?」と世間から一段下に見られる傾向はある。しかしだからといって中学生になったばかりの……それもまだデビュー前の少女がそんなことを考えていることに私は度肝を抜かれた。将来の目標として「武道館」「紅白出場」などを挙げる現役アイドルは多いが、宮本は“その先”を見据えていたのだ。

 そもそも自身もアイドル村の住民であるのに、内部から村社会の論理を破壊しようという発想はなかなか持てるものではない。こうした現状打破の精神は坂本龍馬やチェ・ゲバラと通じるところがあり、本人が革命と呼ぶのもあながち大袈裟ではないなと膝を打った。だとしたら、私は宮本が革命遂行する際の目撃者になるしかない。こうして自分の中で宮本佳林は特別な存在となっていく。

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 『Juice=Juice コンサート2020 ~続いていくSTORY~ 宮本佳林卒業スペシャル』は、アリーナ中央に設置されたステージが360度を観客に囲まれるかたちで行われた。コロナ禍ということを考慮してのことだろう。ステージセットらしきものもほとんどなく、派手なサプライズ演出や特効も皆無。しかしこうしたシンプル極まりない環境だからこそ、Juice=Juiceの実力者ぶりが存分に伝わってくる。歌とダンスのクオリティに定評のあるハロプロにおいても、今、一番パフォーマンスの完成度が高いのがJuice=Juiceだと言い切っていいだろう。

「みなさんが幸せな気持ちで帰っていただけたらいいなと思っています。最後まで楽しんでいきましょう!」

 最初のMCで宮本がそう口にすると、再びメンバーは「禁断少女」、「愛・愛・傘」、「銀色のテレパシー」といった王道アイドル路線の代表曲を熱唱していく。松田聖子に心酔する宮本だけあって、ラブリーでキラキラした表現はお手の物。表情や仕草からして輝きが違う。本当につくづくアイドルに向いている人だなと感じた。

 思えば正式にデビューする前から、宮本は常にファンの間で話題の中心にいた。それもそのはずで、活躍の機会が圧倒的に多かったのだ。研修生の定期公演で歌割を多く任されていたことはもちろんのこと、ミュージカル『リボーン〜命のオーディション〜』などの舞台作品、ドラマ『数学♥女子学園』(日本テレビ系)や映画『星砂の島のちいさな天使 〜マーメイドスマイル〜』といった映像作品にも大抜擢。

 中でもコピンク名義で出演した『ピンクス』『コピンクス!』(静岡朝日テレビ)は宮本のキラキラしたアイドル性が存分に発揮された当たり役といえるだろう。宮本が歌うテーマ曲「カリーナノッテ(feat.コピンク)」を含むミニアルバム『コピンクス!メロディーズ〜star chart〜』は、その魅力を知る最良のテキストなのでぜひ聴いていただきたい。

 しかし、華やかな活躍の一方で辛酸を舐めることも多かった。デビューがなかなか決まらなかったからだ。モーニング娘。9期メンバーのオーディションを皮切りに、同10期、スマイレージ2期などに次々と落選。このあたりのことは現在、新設された個人ブログで本人が生々しく振り返っているが、「重すぎる」「想像もつかないようなずぶずぶのネガティブ沼」と記されているように精神的にはどん底にあったようである。

 最終的に小田さくら1人が加入することになったモーニング娘。11期オーディションは一般枠と研修生枠が別枠で進められたのだが、宮本は研修生枠でエントリー。現場で密着取材していた私は、宮本が高レベルの歌やダンスを披露しながらもあえなく途中離脱したことに到底納得がいかなかった。オーディション終了後のコメント取材時、勢い余ってプロデューサー・つんく♂氏に「なぜ宮本さんじゃダメだったんですか!? これ以上、何を研修させるのですか!?」と詰め寄ってしまったほどである。いずれにせよ、宮本は光と影のアンビバレンツな要素を内に抱える少女だった。

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 2回目となるMCで、リーダー・金澤朋子は「Juice=Juiceの単独公演は今年2月のライブハウスツアー以来であること」「大会場での単独公演という点では、昨年11月の代々木第一体育館以来になること」「このように人前で歌えることに改めて幸せを感じていること」を述べていく。そして「でも、今日の主役は宮本佳林さん。佳林にしっかり花を持たせてやりたいと思います!」と苦楽を共にした同僚に笑顔を向けた。

 中盤のメドレーコーナーでは、宮本と各メンバーが1人ずつデュエットで熱唱していく。昨年6月に加入した工藤由愛との「アレコレしたい!」や松永里愛との「背伸び」では、先輩らしくパフォーマンスでリードする一面も。最後は金澤、宮本、高木紗友希、植村あかりのオリジナルメンバー4人で「大人の事情」を披露。NEXT YOU名義で発表された、ドラマ『武道館』(フジテレビ系)の挿入歌だ。

 宮本は「噛みしめましたね。この曲のときはこんなことがあったよな、と考えながら歌わせていただきました」と感無量の表情でコメントしていたが、その気持ちはファンも同じだろう。Juice=Juiceとして歩んできた7年間がいかに濃厚だったかは、なによりも楽曲が雄弁に物語っていた。

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 宮本がJuice=Juiceのメンバーに選抜されてデビューを果たしたのは2013年2月のこと。ちょうど中2から中3に上がるタイミングだった。小4からハロプロエッグ(ハロプロ研修生の前身)で活動していた宮本は、「中2が終わるまでに結果が出せなかったら、アイドルは諦めて学業に専念する」と両親に約束していた。まさに崖っぷちのタイミングだったのである。

 6人体制でスタートしたJuice=Juiceは民主的な傾向が強く、明確なセンターを設けない方針を採っていた。昔も今もそのことは一貫しており、メンバーや運営サイドもしばしば「Juice=Juiceは全員が主役」と公言している。だが、ファンの見方は違った。どう考えてもJuice=Juiceのエースは宮本であり、グループの顔として注目度は段違い。人前に立つ仕事をする者として恵まれたことではあるが、「グループを牽引しなくては……」というプレッシャーが宮本を徐々に追い詰めていく。

 もともと高いプロ意識を持っていた宮本だが、ストイックさに磨きがかかったのはこの頃からだ。大事な撮影の前はフラフラになるまでジム通いとダイエットに励み、足を骨折した状態でもステージで踊り続け、心身ともに満身創痍であっても笑顔を振り撒き続ける。まさに「アイドルサイボーグ」。自らに対し絶対に妥協を許さないため、「そこまでしなくても……」と周囲からは言われることも多かったが、宮本は口癖のように「私には頑張ることしかできないから」とつぶやいた。たかがアイドル、されどアイドル。宮本にとってアイドル活動は生半可な気持ちで続けられるものではなかった。殉死する覚悟でステージに上がり続けていたのだ。

 コンサートが進むにつれ、メンバーのボルテージはますます上がってくる。「CHOICE & CHANCE」では間奏パートで井上がボイスパーカッションを豪快に決め、それに合わせて歌うメンバーとの間に新たなグルーヴを生み出していた。

 宮本はソロ名義の新曲「未来のフィラメント」も披露。昨年、発表したソロ曲「どうして僕らにはやる気がないのか」とも意匠の異なる浮遊感のあるナンバーで、歌手としての新境地をアピールした。また宮本を除いた8人も新曲バラード「がんばれないよ」を熱唱し、これから始まる新体制でも前を向いて進み続けると歌を通じて主張していた。

 「後輩たちの成長した姿を見て卒業することを決めました」とはアイドルが卒業するときによく出る言葉。たしかに今のJuice=Juiceは宮本抜きでも十分に成立するだろう。残されたメンバー、特に後輩たちは宮本から多くのことを学んだはずだ。グループの未来は明るい。

 後半戦は「微炭酸」を皮切りに、インディーズデビュー曲「私が言う前に抱きしめなきゃね」、メジャーデビュー曲「ロマンスの途中」、ソウルフルな魅力が凝縮された「生まれたてのBaby Love」などを矢継ぎ早にパフォーマンス。本編ラストは「泣いていいよ」を情感たっぷりに歌い上げ、充実感みなぎる表情のままメンバーはステージを去った。

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 『Wonderful World/Ça va ? Ça va ?』で初めてのオリコン週間チャート1位獲得、架空のグループ・NEXT YOUを演じたドラマ『武道館』(フジテレビ系/宮本は主人公・日高愛子役)、大盛況に終わった初の海外単独公演、怒涛の225公演を完走した全国ツアー『Juice=Juice LIVE MISSION 220』、そして念願の武道館公演……5人体制のグループは着実にステップアップしていった。結成当時は“ハロプロの妹分“としてフレッシュな魅力を振りまいていたメンバーも、タフなツアーを繰り返すことで地力が備わってくる。ボイトレを菅井秀憲氏が担当するようになったことも、グループのパフォーマンス力向上に大きく寄与したようだ。

 そんな中、宮本の言動にも変化が生じていく。取材で会うたびに「最近、キックボクシングに通っているんですよ」「DTMを始めて気づきましたけど、やっぱりビートルズって改めて天才ですね」といった調子で近況報告してくれる宮本。趣味がすべてアイドル活動に直結しているという点はストイシズム全開なままだが、その口調からはどこか肩の力が抜けたような柔らかさも感じられる。ライブのMCでも自虐エピソードを披露するなど、本来持っていたコミカルな面がファンからも注目され始めた。

 思えば2017年から18年にかけては機能性発声障害や突発性難聴によって戦線離脱を余儀なくされたが、おそらくこれも精神的なことが関係あったのだろう。ある意味、ここで「考えたところで仕方ない」と開き直るようになったのかもしれない。あるいは17年以降、グループの後輩メンバーが加わるようになったことで、先輩としての度量や人間的な余裕が生じたのかもしれない。いずれにせよ、このあたりで人間的に一皮剥けたことは間違いない。そして“アイドル・宮本佳林”が完成形に近づいたからこそ……皮肉なことに“卒業”という選択肢が現実味を帯びてくるのである。

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 「ありがとうの気持ちを言葉で伝えるのが恥ずかしいから、パフォーマンスで伝えるなんて普段は言っていますが……今日は言葉でも言わせてください。こんな私を応援してくれているJuice=Juice Familyのみなさん、本当にありがとうございます! そしてこんな変な私を理解して居場所をくれたメンバーのみんなも本当にありがとう! このライブが終わったら、宮本佳林として新しい一歩を踏み出して、人間もパフォーマンスも磨いていきます! Juice=Juiceの宮本佳林を愛してくれて、ありがとうございました!」

 アンコール明け、頭にティアラを乗せドレス姿で登場した宮本は「続いていくSTORY」を歌いつつ、曲間にメッセージを挟み込む。感動的な雰囲気に包まれたまま、ラストスパートは「Magic of Love」からの「Wonderful World」。メンバーの中には涙を流す者もいたが、この日の主役・宮本は最後まで笑顔のままステージを降りた。100点満点のラストライブである。

 終演後、私は宮本に「今日はすごくカッコよかったです。今まで本当にいろいろお世話になりました」と感謝の気持ちを伝えた。すると宮本は「いやいや、そうじゃないですよね~」とはにかみながら、「これからもよろしくお願いします!」と笑顔で続けた。たしかにそうなのだ。ソロ歌手としての歩みはここから始まるのだから、私も過去形で語るべきではなかった。なにしろグループを卒業するとはいえ、宮本の“革命”はまだまだ道半ば。きっと宮本なら、グループ時代とはまた違う素敵な光景を私たちに届けてくれることだろう。ソロアーティスト・宮本佳林を心から応援したいと思う。

■小野田衛
おのだ・まもる◎出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆を行っている。ハロプロメンバーへの取材も多数。著書に「韓流エンタメ日本侵攻戦略」(扶桑社新書)、「アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実」(竹書房)がある。芸能以外の得意ジャンルは貧困問題、サウナ、プロレス、フィギュアスケート。

Juice=Juice公式HP

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