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GLIM SPANKYの“温故知新”の絶妙なバランスはどう培われている? 松尾レミ&亀本寛貴に聞く

リアルサウンド

19/11/19(火) 12:00

 GLIM SPANKYが3曲入りのニューシングル『ストーリーの先に』を11月20日にリリースする。

 表題曲は、10月クールドラマ『Re:フォロワー』(ABCテレビ・テレビ朝日)の主題歌として書き下ろしたもの。亀本寛貴による物悲しいギターフレーズに導かれ、リバーブの靄がかかった音像の中で松尾レミがソウルフルに歌い上げるこの曲は、いつものグリムらしいオーセンティックなロックアレンジが施されているものの、低音の処理やドラムの質感などモダンなサウンドプロダクションが「現在進行形」のロックユニットたらしめている。なお、すでに公開されているMVは今をときめくクリエイター集団・PERIMETRONが手がけており、最新技術を駆使した斬新な映像が話題だ。

 現在はワンマンツアー『Velvet Theater 2019』の真っ最中で、新たにOverLightShowによるリキッドライトショーを導入したというGLIM SPANKY。音楽のみならず衣装やアートワークにもこだわりながら、独自の世界観を作り上げてきた彼らが新作で伝えたかったこととは。松尾と亀本の2人に話を聞いた。(黒田隆憲)

(関連:GLIM SPANKYは“ロック仲間”とともにカルチャーを創造していく 新たな目標掲げた豊洲PIT公演

■「ストーリーの先に」で歌う、“本来の自分”を取り戻すということ

ーーリードトラック「ストーリーの先に」は、ドラマ『Re:フォロワー』の主題歌として書き下ろしたそうですが、ドラマの世界観などどのくらい意識しましたか?

松尾:実は、先方からのリクエストもそんなになくて、割とこちらにお任せな感じだったんです。ただ、ドラマの世界観が決して明るいものではなかったので、シリアスなムードもありつつちゃんと「希望」の見える楽曲にしようとは思いました。

ーー聴く人によって、様々な解釈が出来そうな歌詞ですよね。

松尾:そこは意識しました。例えば、〈嘘ばかりのストーリー〉というフレーズが何を指すのか、あえて明確にしないことで、人によっては「現代社会」のことと思うかもしれないし、「弱っている自分」や「退屈な日常」と捉えるかもしれない。そういう状況の中にいて、何かのきっかけで別の視点に気づくというか。そしてそのきっかけは、意外と身近にあるかもしれないということを歌っています。なので、聴いてくれた人の背中を強く押すようなメッセージソングではないんですよね。

ーー僕がこの曲を聴いた時に思ったのは、〈靄がかってる夜〉や〈嘘ばかりのストーリー〉というのは、フェイクニュースやヘイトスピーチが蔓延るインターネットの世界のことを指しているのではないかと。

松尾:はい。

ーーそして、そんなネットの世界に惑わされている自分を俯瞰してみると、そこには〈私と影〉だけがある。つまり自分のネガティブな感情を、ネットの世界に投影させているだけであり、自分の気持ちひとつでこの世界を変えることも可能なのだ、と。そういうメッセージが込められているのかなと思いました。

松尾:ありがとうございます。そうやって、色んな捉え方で聴いてもらえたらいいなと思っていたので嬉しいです。

ーーレミさん自身は、さっき話していた「別の視点に気づく」という出来事が実際にあったのですか?

松尾:すごく個人的な話をすると、様々な創作活動をしていく中で、すごく沼にはまり込んでしまう時ってあるんです。作っている曲についても「これ、本当にいい曲なのだろうか」「歌詞を書き上げられるのだろうか」なんて考えてしまい、やる気が起きなくなることもあって。もちろんそういう行き詰まりは、どんな仕事にもあると思うんですけど。そういう時はいつも、ずっと書きためている歌詞のノートや、昔から好きな小説や画集をもう一度眺めてみることによって、過去の自分……沼にはまり込んでしまう前の「本来の自分」を取り戻すようにしているんですよね。

ーー「本来の自分」ですか。

松尾:落ち込んでいる時って、本来の自分にとっては「まやかしの状態」にとらわれているというか。そういう病んでいる状態の時というのは、視野が狭くなって周りが見えなくなるんですよね。でも、何かしらのきっかけで本来の自分を取り戻して我に返る……この曲では最後に〈あなたに気付けた〉と歌っているのですが、この〈あなた〉というのは、今の話でいうと「本来の自分」のことなのかなと。そういう見方もできるわけです。

ーーなるほど。歌詞以外では今回、どんなことにこだわっていますか?

松尾:個人的にこの曲では歌い方にこだわりましたね。これまでの私は、歪み成分多めの歌い方をしてきたのですが、今回は歪むか歪まないかくらいの喉の開き具合を意識しつつ、Aメロではすごく力を抜いて、しかもかなり後ろノリな感じで歌っているんです。喉の開きはサビに向けてどんどん大きくなっていくんですけど、サビに入った時でも声をそんなに歪ませていなくて。しかも最後のサビでは「ミックスボイスを歪ませる」という技を駆使している。「ミックスボイス」というのは地声と裏声の間の微妙な声のこと。その歪みのニュアンスを、喉の開き具合によってコントロールするワザをツアー中に開発したんです。それをレコーディングでも実践してみることにしました。

ーーそれって、かなり画期的だったのでは?

松尾:元々私の声って勝手に歪むので、今までコントロールすることが出来なかったんです。でも、今回は2時間のワンマンツアーを30本、時には連続して続くこともあって。しかも空いている時はレコーディングやラジオの収録を入れていると、正直しんどい時もあるんですよね。でも、自分は常に納得のいくライブをやりたいし、コンディションの良し悪しはあるにしても、一定のクオリティを保ちたいと思った時に、喉の使い方を開発できたのはかなり大きかったです。

 あと、声をどこから出すのかって、歌っている時にイメージがあるんです。よく、音楽の先生が「頭のてっぺんから声を出すように」って言うけど、私の場合、それよりはもうちょっとお腹の中をぐるっと回って前に出すっていうイメージ(笑)。その、正面に出す声の角度をちょっとだけ上に上げていくと、キレイにミックスボイスが出るようになって(笑)。さらにそのミックスボイスで、ちょっとだけ声帯を横に引っ張るようにすると歪みが生じるんですよね。

亀本:むず! そんなことやってたのかよ。すごいね。

松尾:(笑)。ミックスボイスを使うと、枯れても声がスパーンと前に出るから便利なんだよね。それを開発できたことで、自分の中に新しい引き出しが一つ増えた気がしています。

ーー曲作りの手順はいつも通り?

松尾:今回は、曲作りの前に亀から「こういうギターコードどう思う?」という提案があったんです。

亀本:ちょうどその頃、Florence and the Machineの最近の2作(『High As Hope』『How Big, How Blue, How Beautiful』)をめっちゃ聴いていて。その感じがかなり自分の中で流行っていたので、そのモードは入っていると思います。

松尾:それを聴いて「いいねいいね!」ってなって、そこからコードとメロディだけで、ワンコーラス分作ってから細かいアレンジ作業に入っていきました。なので亀が提案してくれた、湿度の高いギターサウンドにも引きずられて〈靄がかってる夜〉というフレーズが生まれたのかなって思います。

ーーアレンジそのものはオーセンティックですが、低音の鳴り方などがすごくモダンですよね。

亀本:低音は今回いろいろやっていますね。例えば「Breaking Down Blues」では、シンセベースを導入しているんですよ。中尾憲太郎さんが弾いてくれた生ベースがバキバキに歪んでいるので、それだけだとどうしてもロー感が失われてしまう。中尾さんのめちゃくちゃカッコいいピック弾きベースのフレーズを活かしつつも、低音をしっかり支えるにはどうしたらいいか考えた結果、そこを補強する意味でシンベを重ねるという、今まであまりやってこなかったことにも挑戦していますね。

ーーそういえば『NEW GENE, inspired from Phoenix』(手塚治虫『火の鳥』トリビュートアルバム)に提供した「Circle Of Time」でもシンセベースを入れていましたよね?

亀本:そうなんです。もともとシンセベースの音が好きで、これまでもちょいちょい入れてたのですが、「Circle Of Time」では初めて全編にわたってシンセベースを弾きました。

ーー話を戻すと、「ストーリーの先に」のMVはPERIMETRONが手がけています。

松尾:2年前のフジロックでTempalayの(小原)綾斗くんと飲んでたら、PERIMETRONさんたちがワーッと来て、「GLIM SPANKY、すごい好きなんです」って言ってくれて。そこから仲良くなったんですよ。同世代で、同じようにカルチャーが好きで、新しいことにもどんどん挑戦をしていて。しかも私たちの音楽を「好き」だと言ってくれている。そういう人たちとぜひ一緒に仕事をしたいと思っていたところ、亀からも強い「推し」もあり(笑)、それでお願いすることになりました。

亀本:今回は、メンバーが出演しない映像が撮りたいというPERIMETRON側の要望があったんだよね?

松尾:そう。これまでのビデオは全て自分たちが出演していたし、それによって音源のアートワークと映像の世界観がたとえかけ離れていても、ある程度は統一感が出せたと思うんですよ。でも今回、音源のアートワークや衣装をヨーロッパに寄せていたのに対して、MVの撮影場所が台湾だと聞いて正直ちょっと心配でした。それで、主演の織田梨沙さんに私の衣装を着てもらったり、ソファにかけてある服も私の私物にしてもらったりして、そこで世界観をつなげることにしたんです。完成された映像を観たら、違和感なくハマっていて安心しましたね。

亀本:ほんと不思議だよね。僕はFlorence and the Machineのイメージで作っているし、アートワークや衣装もヨーロッパに寄せていたけど、意外と台湾の風景にも合っていて。

松尾:きっとリバーブのかかった音像と、台湾の湿度の相性が良かったんだろうね。あとは、まだあまり使われていない顔認識システム(AI技術)を導入し織田さんの顔を入れ替えるという、映像的に面白い挑戦をしてくれたので、とっても面白かったし満足しています。

ーーそれと今回、初回限定盤にはレミさんがデザインしたボディバッグが付くんですよね。

松尾:そうなんです。前から亀が「ボディバッグを作ってくれ!」って言ってて。そこから生まれたグッズです(笑)。グリムのお客さんって、女の子から私の父よりも上の世代までいらっしゃるので、誰でも身につけられて、しかもちゃんとポップさがあって、しかも「音楽好き」というのが分かるデザイン……という条件を考えた時に「やっぱりレコードかな」って。「ストーリーの先に」のシングル盤という体で、ちゃんとタイトルや分数なんかも表記してあるんです。

ーーとても可愛いし、こだわりも感じられるし、しかもオマケとは思えないくらい作りがしっかりしてますよね。

松尾:作りにもすごくこだわりました。デザインも、エンジと黄色ってイギリスの制服みたいで可愛いなって。

亀本:ポケットもたくさん付いててさ、大きさの割には色々入るんだよね。めっちゃ便利だしフェスでも重宝しそう。あとこのデザイン、遠くから見るとアナコンダっぽくない? 僕、爬虫類が好きだからそこもいいなと思ったよ。

松尾:ええ? アナコンダ? わかんない……。

■希望を持って茨の道に飛び込んでいく人たちにエールを

ーー (笑)。もう一つのタイアップ曲「Tiny Bird」では、挑戦することの大切さや難しさを歌っていますよね。

松尾:実はこの曲、去年の夏くらいに出来てたんですよ。「すごくいい曲が書けた!」って盛り上がって、一番いいタイミングで出せるようにあたためておいたんです。それでドラマのタイアップの話が出た時に「バラードがいい」というリクエストがあって。この曲だったらジョージ・ハリスンの初期ソロ作のような、ストリングスを大々的に導入したロックなバラードになると思って歌詞を書き始めました。

 ちょうどその頃、すごく仲良くしていた友人たちが、仕事を辞めたり、東京で目指した夢を諦めて実家に帰ったり、私を含めてターニングポイントが重なっていたんですよね。「一歩踏み出すことの怖さ」とか「メリットデメリット関係なく、環境を変えることの恐怖」というものを、いつも以上に強く感じていた時期で。

ーーそうだったんですね。

松尾:今の状況をどうしても変えたいとき、変えるべきとき、どこかに希望を見出したいと思うとき、きっと私たちは「今よりも良くなる」という希望を持って茨の道に飛び込んでいくと思うんです。そういう人たちへのエールとなるような楽曲があったらいいなと。

ーー〈真面目に働く平凡なこの暮らしにさよなら 読めない明日の方が命は喜ぶよ〉とか、〈どこかへ渡る小さな鳥みたいに 震えて進め どんな世界も〉というラインにグッと来ました。

松尾:ありがとうございます。あと、これも私の友人の話なのですが、長く付き合っていた恋人と別れ、しかも仕事を変えなきゃいけない時期に、ふと私に「今まで全然好きじゃなかったベタな恋愛の曲が、街中でふと流れてきた時にすごく感動しちゃったんだよね」と話してくれて。そのエピソードを思い出した時にAメロの〈響くことのなかったあの歌が 突き刺さった〉というラインが生まれました。

 今まで嫌いだったものが急に好きになったり、環境を変えたことで新しい感性が芽生えたり、そういう経験ってきっとみんなあると思うんですよね。そうやって好きなものが広がっていくのは、「希望」でもあるんじゃないかなという思いをこのラインに込めました。

ーーグリム自身は、何か新しいことに挑戦していますか?

松尾:亀はいつも、新しいものに対して敏感だよね。サブスクの音質を聴き比べたり、今流行っている音楽に対していつもアンテナを張っていたり。そういうところを私はすごく尊敬しています。

亀本:そう?(笑)。

松尾:だからこそ私は、自分の好きなものをディープに掘り下げていますね。今は60年代のアシッドフォークとか……当時、数百枚とかしかプレスされていなかったレア盤のリイシューを探したり(笑)、そのアートワークを楽しんだり、そういう方向にどんどん進んでいます。当時、コミューンで作ってライブ会場で手売りしていたような音源や、手書きの歌詞カード……そういうDIY精神の中に、本当のサイケデリアがあるんじゃないかと思って最近はハマっていますね。

ーー現在『Velvet Theater 2019』の真っ最中ですけど、そこではOverLightShowのリキッドライトショーを導入したそうですね。それも新たな試みといえるのでは?

松尾:リキッドライトはもともと大好きで。デビューシングル曲「焦燥」のMVでもやってもらったんですよ。それを私はライブでもやりたかったんですけど、「(予算的に)まだ無理だ」と言われてしまって。それが悔しくて「いつかやりたい」とずっと思っていたんです。しかも今回、味園ユニバースやキネマ倶楽部のような素晴らしい会場だし、それに賛同してくださるお客さんも増えた。全てが重なって、リキッドショーを始めるなら今のこのタイミングしかないということでお願いしました。

ーー念願のリキッドライトショーはどうですか?

松尾:もう、めっちゃ最高です。まるで1968年のフィルモア・イーストという気分ですね(笑)。自分たちが目指す、「温故知新」の精神につながるステージが出来てとても嬉しいです。

ーー松尾さんが昔の音楽を掘り下げ、ソングライティングに活かし、そこに亀本さんが現代的なプロダクションを施していくという。GLIM SPANKYの音楽性は、本当に絶妙なバランスで成り立っていますよね。

亀本:僕はThe Beatlesが大好きなんですけど、彼らは当時、常に新しいものを取り入れて、「一番新しいものを作ろう」という意識が強かったと思うんですよ。アルバムを出すごとに、いや、曲を作るたびにそう思っていたはずで。最近だとArctic Monkeysがそうですよね。彼らってアルバムごとに、見た目も含めて「こいつら誰だよ?」ってくらい変わる。そこがめちゃめちゃカッコいいんです。バンドってそういうものだと思っているから、グリムでも僕は常にそういうモードでやっていますね。一度作ったものは、もう「古いもの」として毎回更新していくというか。

ーーまさに「Tiny Bird」の〈古いあのギターも手放して旅立つんだ〉という歌詞の世界に通じますよね。

亀本:そうですね。レコーディングでギターを入れるときも、「バンドだからまあ、歪みのギター入れるでしょ」みたいな、何の疑いもなく弾くことには違和感があるんですよ。ちゃんと毎回、そこに疑問を持つべきというか。「ここはギター、本当に要るのか?」みたいな気持ちは常に忘れないでいたいですね。

ーーそろそろ、次のアルバムに向けての準備を始めているところですか?

松尾:テーマは結構前から何となく考えていますね。「こういうアートワークで、こういう歌詞世界で」みたいなことは、亀と話し合っています。まだちょっと内緒なんですけどね(笑)。

 ただ、さっきも言ったように『Velvet Theater 2019』でディープな世界観を提示しているところなので、それを曲でも表現したいのと、今趣味で集めているレコードや文学、アートの世界を現代の感覚と自分の言葉で落とし込めたらいいなと思っています。これまではアルバムのスパンが結構短かったから、そういうことをじっくり考えていられなかったんですよ。ようやく創作らしい創作を考える時間があるので楽しみです。

亀本:結構スパンが空いたし商業的にもガツンといけるものにしたいな。それは最低ノルマとしてある。そういう挑戦も面白いと思っているからさ。

松尾:そうだね、二人のそういう要素が組み合わさったアルバムになったらいいなと思っています。

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