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ヴァリアント・コミックスはマーベル、DCに続くか? 『ブラッドショット』映画化の経緯を辿る

リアルサウンド

20/6/16(火) 10:00

 ヴィン・ディーゼル主演の『ブラッドショット』がイオンシネマ系で劇場公開を迎えました。体の中に特殊なナノマシンを移植され、不死身の体となった兵士が活躍するスーパーアクション! ヴィン・ディーゼル×『ロボコップ』×『ターミネーター』×『オール・ユー・ニード・イズ・キル』×『トータル・リコール』みたいなエンターテインメントです。映画の面白さもさることながら、これはコロナ禍で新作がほとんど公開されない状況において本当に嬉しいリリースでした。そしてアメコミ映画ファンにとっては、アメコミヒーローが映画館活動再開のための“露払い”になってくれたことも誇らしい。

参考:詳細はこちらから

 そう、『ブラッドショット』はアメコミ原作のヒーロー映画なのです。え、じゃあ『アベンジャーズ』や『スパイダーマン』と同じマーベル? それとも『バットマン』や『スーパーマン』と同じDC? いえマーベルでもDCでもない、ヴァリアント(バリアントと表記している方もいます。また会社としての名前はヴァリアント・エンターテインメント)という出版社のヒーローです。ヴァリアントはヒーローコミックを多く出版していて、マーベルやDC同様、それらのヒーローが同じ世界観の中にいるというヴァリアント・ユニバースを形成しています。現在、アメコミの出版社の中でこういうヒーロー・ユニバース路線を継続しているのは、マーベル、DC、そしてヴァリアントではないでしょうか。日本ではその中の1つ『クァンタム&ウッディ:世界最悪のスーパーヒーロー』という作品が翻訳されています。

 このブラッドショットはヴァリアントの中でも人気キャラの一人。したがって映画『ブラッドショット』を皮切りにマーベル・シネマティック・ユニバースのようなヴァリアント・シネマティック・ユニバースが始まるのではないか? それはYESでもありNOでもあります。どういうことかご説明しましょう。

 2008年にパラマウント映画がヴァリアント・コミックスの『ハービンジャ―(Harbinger)』という作品の映画化権を手に入れます。超能力を持った若者集団の戦いを描いた作品。2008年というのは『アイアンマン』『ダークナイト』が公開され、アメコミヒーロー映画の人気が加速した年。パラマウントとしてもシリーズ化が見込めるアメコミコンテンツが欲しかったのでしょう。内容的にうまくやれば『X-MEN』的な作品に仕上げられるわけですからね。

 そうした中、2012年にソニー・ピクチャーズが『ブラッドショット』の映画化権を手にいれたと発表。2012年のアメコミ映画事情は、マーベル原作映画ですと『X-MEN』の映画化権は20世紀フォックス、『スパイダーマン』の映画化権はソニー、そして『アイアンマン』『アベンジャーズ』などいわゆるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)はディズニー……と3ライン存在していたので、ヴァリアント・コミックス原作映画も『ハービンジャー』はパラマウント、『ブラッドショット』はソニーと、2ラインにまたがると思われていました。ところが2015年にソニー・ピクチャーズがパラマウントから『ハービンジャー』の映画化権をゲット! まず『ブラッドショット』を作り、次に『ハービンジャー』を映画化。そして『ブラッドショット』と『ハービンジャ―』がクロスオーバーする『ハービンジャー・ウォーズ』なる作品を公開すると伝えられました。

 つまり、ソニーがヴァリアント・シネマティック・ユニバースを作るというわけです。さらにソニーは『ハービンジャー』に登場する、ぽっちゃり女性ヒーローを主人公にした『フェイス(FAITH)』も映画化すると発表。ソニー仕掛けのヴァリアント・シネマティック・ユニバース路線はもう確定と思われました。

 ヴァリアント・シネマティック・ユニバース構想に拍車がかかったのは、ヴァリアントがDMGエンターテインメントという中国資本の総合メディア&エンタメ企業に買収されたことが大きいのかもしれません。DMGは2014年にヴァリアント・エンターテインメントの筆頭株主になり、2018年にここを完全子会社化。出版の枠を超えたコンテンツビジネスにのりだします。これはあくまで僕の推測ですがソニー・ピクチャーズが『ハービンジャー』の映画権をパラマウントから買い取ったのはDMGの意向があったのではないかと思います。つまり、DMGはソニー・ピクチャーズと組んでヴァリアント・シネマティック・ユニバースを作りたかったのでは?

 その一方でDMGは『Ninjak vs. the Valiant Universe』という実写ドラマシリーズをWebで公開します。これはヴァリアント・コミックスの異色の忍者スパイ・ニンジャックがブラッドショットらほかのヒーローと戦っていくというもの。配信ドラマというよりはヴァリアントヒーローたちの紹介を目的としたプロモーションビデオ的な意味合いの作品。こうした一連の動きはヒーロービジネスにおいてマーベル、DCの次にヴァリアントが来る! と大いに期待させてくれるものでした。しかもソニー・ピクチャーズによるヴァリアント映画第1弾『ブラッドショット』はあのヴィン・ディーゼル主演! キックオフとしては申し分ない。

 ところが! ここでまたまたビックリすることが起こります。2020年の『ブラッドショット』の公開を待たず、突如ソニー・ピクチャーズは『ハービンジャ―』の映画化権をパラマウントに売ってしまうのです。2019年秋のことでした。これはややこしいので、もう一度書きますが、2015年にソニー・ピクチャーズは『ハービンジャ―』の映画化権をパラマウントから買ったのに今度はパラマウントがソニー・ピクチャーズから買い戻したというわけです。当然、この売買の裏にはDMGも関与していることでしょう。

 この動きから推測されることは、

<1>ソニー・ピクチャーズは『ブラッドショット』の映画は作ったが、もうそれ以上のヴァリアント・コミックス原作映画を作る気はない。(映画『ブラッドショット』をご覧になった方はおわかりになると思いますが、あの作品にはこの先ほかのヒーローが出てきそうな“匂わせ”はほとんどありません。つまりこれ単品で終わらせる感じでしたよね)

<2>この先、DMGとパラマウントが『ハービンジャ―』を核にしてヴァリアント・シネマティック・ユニバースを作っていく可能性がある。DMGはパートナーとしてパラマウントを選んだ。

 ということです。

 ソニー・ピクチャーズがなぜヴァリアント・シネマティック・ユニバース構想から降りたのか、その真意はわかりません。ただ、『スパイダーマン』『ゴーストバスターズ』『メン・イン・ブラック』『チャーリーズ・エンジェル』などの映画化権を持つソニー・ピクチャーズとしては、こっちのヒーローたちのフランチャイズに注力することの方が大事と思ったのかもしれません。特にスパイダーマンはそもそもマーベル・コミックのヒーローで、ディズニーとコラボしてMCUとも良好な関係にありますから、これ以上コミック原作のユニバースは要らないと判断したとも考えられます。

 一方、パラマウントは『トランスフォーマー』『G.I.ジョー』『スター・トレック』といった人気シリーズを抱えていますが、これらはアメコミ原作ではないので、アメコミベースのコンテンツが欲しかったのでしょうか? 今のところ、パラマウントが『ハービンジャ―』以外のヴァリアント・コミックスのヒーローの映画権を入手したとの情報はないのですが、この先その可能性は大いにあります。

 となると、

・マーベルのヒーローものはディズニー(スパイダーマン系映画のみソニー・ピクチャーズ)
・DCのヒーローものはワーナー(そもそもワーナーはDCの親会社)
・ヴァリアントのヒーロー物はパラマウント

 という風になっていく?

 ただ現時点で、まだパラマウントは『ハービンジャ―』の映画を作っていないわけですから、まずはそこからお手並み拝見でしょうか?

 もちろんパラマウントがヴァリアント・シネマティック・ユニバースを構築しても、しばらくはそこにはブラッドショットはいないわけです。今のところ『ブラッドショット』のみソニー・ピクチャーズの作品だから。けれどヴァリアント・コミックにはまだまだ沢山の魅力的なヒーローがいるので、『ブラッドショット』抜きでもヴァリアント・シネマティック・ユニバースを作ることは可能です。

 そもそもMCUも「『スパイダーマン』はソニー・ピクチャーズ、『X-MEN』は20世紀フォックスに映画権を渡していた」けれど、彼ら抜きで立ち上げてここまでの大成功に導いたわけですから。ヴァリアント・シネマティック・ユニバースの誕生に期待したいですね。 (文=杉山すぴ豊)

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