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写真提供:アルファエージェンシー

樋口尚文 銀幕の個性派たち

浜田晃、正義も悪徳もワンストップの強面

隔週連載

第27回

19/7/4(木)

 映画やテレビの作り手側ならいざ知らず、「浜田晃」という名前ですぐに「ああ、あの俳優さん」と頷く観客や視聴者は少ないかもしれない。だが、「浜田晃」の顔を映像で観たなら、多くの人が「ああ、この人!」と弾んだ反応を返してくるに違いない。

 確かに個性派バイプレーヤーの代表選手と言うべき浜田晃には圧倒的な代表作も主演作もないかもしれないが、もはやその顔がドラマ史であり映画史なのである。1941年、太平洋戦争勃発の直前に生まれた浜田は、早稲田大学文学部演劇科を卒業後、文学座演劇研究所に入る。文学座演劇研究所は、1961年に創設されたばかりであったが、1期生には樹木希林、北村総一朗、寺田農らがいて、浜田は3期生だった。ここを経て文学座の俳優としてデビューした浜田は、早々にテレビドラマに顔を出していた。

 その皮切りが1963年のまさに太平洋戦争開戦の日にNHKで放映された、吉田直哉演出の伝説のドラマ『魚住中尉命中』で、人間魚雷回天の悲劇を描くこの作品が浜田の最初のドラマ作品だった。続いて64年の三島由紀夫原作、髙橋一郎演出のTBSドラマ『剣』など、テレビドラマの成長期に鮮やかに記憶される作品に参加している。だが、面白いのはそのややいかめしい日本的な風貌の影響か、この時期から70年代初頭あたりにまでに舞い込んでくる作品に刑事物やそれに類するアクション、サスペンス系の作品、そして時代劇が自然と多くなる。64年の『ダイヤル110番』、69年の『東京バイパス指令』、67年の『七人の刑事』、69年の『五番目の刑事』、70年の『ザ・ガードマン』、71年の『キイ・ハンター』、72年の『荒野の素浪人』『木枯し紋次郎』といったテレビ作品に続々客演する。

 そんな折から浜田は1972年に文学座を退団するのだが、これはひょっとするとこういったオファー相次ぐなかで、浜田がきっぱりと映像の仕事のバイプレーヤーに舵をきった「転換点」だったかもしれない。実際その直後の大人気刑事ドラマ『太陽にほえろ!』には、シリーズを通して10本以上も呼ばれる人気ぶりだった(役柄のほとんどは暴力団の幹部であったが!)。ちなみにくだんの『キイ・ハンター』にはもっと短い期間のうちになんと7回、『荒野の素浪人』にも5回招かれるほどスタッフに重宝され、なまじ主役にこだわるよりもこの現場の手ごたえに応えようとした浜田のあり方は正解だった。

 以後もこの刑事物、アクション物と時代劇という2つのコースで浜田は引っ張りだことなり、73年の『非情のライセンス』『アイフル大作戦』、74年の『バーディ大作戦』、75年の『Gメン’75』といった前者の人気シリーズの一方で、やはりこの時期を通して浜田のイメージを決定づけたのは、70年代前半から80年代後半まで連作された『必殺』シリーズに違いない。シリーズ中の20話近いエピソードに呼ばれた浜田の役は多彩な悪役ばかりであったが、この時分ともなると役柄上の「悪相」にも磨きがかかり、もちろん同じ時代劇でも大河ドラマの『勝海舟』『花神』などにも招かれているのだが、やはり視聴者にアピールしたのは劇画的な勧善懲悪時代劇の悪役のほうだろう。

 この悪役の魅力は子ども番組でも好評を得た。1975年の『仮面ライダーストロンガー』で演じた謎の紳士一つ目タイタンは、その大振りな洒落た演技がお子さまたちを魅了し、やがて世紀をまたいだ『仮面ライダーオーズ/OOO』『仮面ライダービルド』への客演はちょっと感動的であった。

 強面で警察側も悪役側もこなす浜田は人気シリーズ『踊る大捜査線』では捜査一課長に扮し、設定上の役のポストも上がっていったが(ちなみに『アンフェア』では警察庁長官、『ミッドナイト・イーグル』では陸上幕僚長だった)、極め付きは2016年の映画『シン・ゴジラ』の総務大臣だろう。近年のバイプレーヤーを総動員した感のあるこの作品だが、樋口真嗣監督と浜田晃の記憶を話したら、筆頭にあがったのはあの傑作『新幹線大爆破』で極左逃亡犯の山本圭を発見して拳銃をぶっ放す刑事の役だった! それは私とて同じで、当時匿名のバイプレーヤーが見せた渾身の表情は、本人の思いをはるかに超えて観る者の心に生き残るのである。

データ

『シン・ゴジラ』
2016年7月29日公開 配給:東宝
監督:庵野秀明/樋口真嗣 脚本:庵野秀明
出演:長谷川博己/竹野内豊/石原さとみ/市川実日子/小出恵介/鶴見辰吾/平泉成/余貴美子/渡辺哲/大杉漣/國村隼/高良健吾/斎藤工/柄本明/KREVA/ピエール瀧



プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が9/20(金)に全国ロードショー。

『葬式の名人』(c)“The Master of Funerals” Film Partners

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