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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

タメ語の美容師さんと僕

毎週連載

第107回

20/12/12(土)

今年の秋はアルバムのプロモーションでテレビ、ラジオ、雑誌とかに出させてもらっていました。アルバムを出して嬉しいことのひとつは、こういった場で何年かぶりに会える人が結構いること。どの取材もいろんな人に会えて楽しかったです。

なんだけどさ、この前微妙な出来事がありました。「取材が続く」「いろんな人に会う」ってことでボサボサの髪じゃマズいから久しぶりに美容室に行ったんだけど、そのときのこと。本当は「馴染みの床屋さんに行こう」と思ったんだけど、たまたま定休日だったので「しょうがない。美容室にすっか」と思ってネットで色々調べてね。その中から良さそうなお店に行ってみたの。

初めての美容室って、なんかソワソワするでしょ。だからこそ僕は「よろしくお願いしまーす」ってお店に入っていったの。僕の担当になった人は、20代後半くらいの若い男性スタッフなんだけど、コムアイさんみたいな髪型で、シャツをズボンにインしててさ。シティポップとかを聴いてそうな雰囲気だった。

それは別に良いんだけど、僕が「ちょっとパーマをかけようかなと思って来ました」って言ったら、その美容師、「へぇ……そうなんだ」みたいにいきなりタメ語。さらに僕の髪の毛を触りながら「あ、直毛だ。硬っ!」みたいなことを平気で言うわけ。初対面でだよ。明らかに僕のことを年下か同世代に思ってる感じなんだよ。

それでさ「お兄さんさ、髪が超硬いみたいだから、キツ目のパーマ液でやっていくね」って言うわけ。イライラしちゃって「もしお店を出るとしたら今かな」と一瞬頭によぎったの。でもさ、ここでキレるのも大人げないじゃん。「これは修行なんだ」と思い直してさ、我慢してその人にパーマを当ててもらうことにしたんです。

美容室ってさ、昔なら鏡の前に雑誌がズラっと並んでて、そのうちの1冊を読んで、髪をいじってもらってる時間をしのぐ感じだったでしょ。でも、今は雑誌はなくて、iPadがあって、画面の中から読みたい雑誌を選んで読む。このとき僕はさ、『文春』を選んで、アレコレ読んでたんだけど、その美容師はガンガン話しかけてくる。もちろんタメ語で。

「お兄さん家近いの?」
「まぁ近いっす」
「へぇ。どうやってこの店決めたの?」
「……ネットで見て」

こんなやりとりをしてたんだけど、いちいちイライラするから心の中で「喋りかけないでくれ!」と念じながら、とにかく僕は『文春』を読み込むようにしてたんだ。

僕が読んだ『文春』には、中日ドラゴンズの落合監督の逸話が載ってたの。
落合監督は、シーズン優勝を狙うために、「ミスタードラゴンズ」とまで言われた立浪和義選手もスタメンからハズして、若手だった森野将彦選手を使ったことがあったの。スタメンでなくなった立浪選手なんだけど、ある試合の9回裏に代打で出場して、その打席でホームランを打ってサヨナラ勝ちをおさめたんだって。その日のヒーローインタビューで立浪選手が涙を流して答えたっていう話が載ってたんです。

またさ、森野選手は森野選手で、若手なのにいきなりレギュラーでしょ。他のスタメンはみんな先輩だから、話しかけてもらえなかったりして肩身が狭い思いをしてたんだって。でも、森野選手もストイックだから「立浪さんに絶対に負けないように俺もがんばる」「みんなに認めてもらえるようにがんばる」って、試合の6時間前には球場入りしてひとりでランニングしてたんだって。

そしたらさ、誰もいないグラウンドで、先を走ってる選手がひとりいたらしくて。「誰だろう」と思ったら、スタメンからハズされた立浪選手だったんだって。グラウンドではさ、お互いに目も合わせず、通り過ぎるときも特別な会釈もせず、ただ黙々とふたりだけで走ってたんだって。その男ふたりのさ、ライバルでありながらお互いに負けないためのストイックな姿勢と友情が『文春』に載ってて、僕はこれを読んで感動してたの。

「俺もこの美容師にキレたらダメだ。今は俺も走ってるんだ、グラウンドを」って思ってさ。どんな不躾なことを言われても「そうです」「お願いします」って対応してたの。

パーマだからそれなりに時間がかかったけど、ようやく終わり、やっと帰れることになった。「大変なお店に来ちゃったな」と思って会計を済ませようと思ったら、会計の女性スタッフが僕の顔を見てなんかキョドってる。そのキョドってる女性スタッフの隣には、相変わらずあの美容師がニタニタしながら立ってる。さらにその右側には、店長らしき人が僕がお金を払い終えるのを見守ってるわけ。

お釣りをもらって「ありがとうございました」って外に出ようとしたら、その店長らしき人が寄ってきて。「すみません……もしかしたら銀杏BOYZの峯田さんですか? 良かったら握手してください」って小声で言ってくるんだ。

「今の時期、新型コロナの件で握手は控えさせていただいているんです。ごめんなさい」って丁重に断ったんだけど、さらにその後、一連の流れを見てたあの美容師が、オロオロしながら追いかけてきて。「すみません、これを渡すのを忘れてました」っつって会員証を渡してくれたんだけど……その手が震えてんのよ。もうさっきまでのタメ語とは180度真逆なんだ。

「なんだ、それ! タメ語ならタメ語で徹底してくれよ」と思ったけどさ、同時に「なんか変な緊張感を持たせた僕が悪い」みたいな気分にもなって、今度は僕自身が凹んだりして。本当に大変でしたよ、あの美容室(笑)。

髪伸びっぱなしだったので、パーマを当てられたこと自体は良かったです。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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