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斉藤和義のドラマ主題歌が残す斬新なインパクト 『アレ』に反映された最新型の音楽的モードを読む

リアルサウンド

19/2/20(水) 19:00

 斉藤和義がニューシングル『アレ』をリリースする。北川景子主演のドラマ『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)の主題歌として書き下ろされた表題曲は、打ち込みのビートを軸に、ファンク経由のベース、ワウギターなどを融合したダンサブルなナンバー。日常の風景に潜むちょっとした違和感、そのなかで生じる感情を綴った歌詞を含めて、斬新なインパクトを残す楽曲に仕上がっている。

 まずは、その特徴的なサウンドメイクについて。プリンスが愛用したことで知られる“Sequential Circuits TOM”、Daft Punk、Squarepusherなども使用していた“Roland TR-707”という2台のビンテージドラムマシンを駆使して構築されたリズムは、テン年代以降のネオファンクの流れを汲みつつ、レトロフューチャリスティックなムードを醸し出している。そこに乗るベース、ギターも印象的。80年代の音楽(たとえばThe Rolling Stonesの「Undercover of the Nighht」)などを想起させるフレーズをさりげなく取り入れながら、過去と現在をつなぐ音像へと導いているのだ。

 続いては歌詞。〈夕暮れどきに電車に乗ったら、乗客のほぼ全員がスマホを見ている〉という、多くの人が見たことがある風景からこの歌は始まる。日常のなかにある何気ないシーンだが、少し離れた視点から見てみると、“これって、なんだかおかしいよな”という違和感を覚えてしまう……というのがおそらく、「アレ」の軸だろう。奇妙な圧迫感を生み出し続けるSNS社会、不平等や不公平がはびこる風潮に翻弄される現代社会を描きながら、斉藤は最後に〈頼りない自分に鞭打って 真っ暗闇にお月様 グッドナイト〉というフレーズによって、ギリギリのポジティブ感を聴く者に与えるのだ。この曲についてドラマ『家売るオンナの逆襲』のプロデューサー・小田玲奈氏は「言いたいことも言えない今の時代に、主人公・三軒家万智がキレイごとじゃないことをバシッと言って、 視聴者の心を解き放ちたい。……このドラマでやりたいことをお話したら、こんな素晴らしい曲があがってきました」とコメント。ドラマのテーマを正確に吸い上げながら、“いかにもタイアップ曲”という商業的な匂いを微塵も感じさせず、自身の音楽的モードを反映させた“最新型の斉藤和義”を提示する。この絶妙なバランス感覚もまた、他のアーティストにはない、彼の大きな特長だと思う。

 ドラマや映画の主題歌、CMソングなどを手がけてきた斉藤和義は、今回の「アレ」と同様、過去のタイアップ曲でも、数々のインパクトを残してきた。もっとも知られているのは、『家政婦のミタ』の主題歌「やさしくなりたい」(2011年)だろう。松嶋菜々子が演じる冷徹で有能な家政婦を主人公にしたこのドラマは、最終回の視聴率が40%に達するなど、驚異的なヒットを記録。それに伴い、「やさしくなりたい」も大きな注目を集めた。エッジの効いた煌びやかなギターフレーズにリードされたこの曲は、〈愛なき時代に生まれたわけじゃない〉という強いフレーズが込められたアッパーチューン。ドラマの内容に寄り添うというより、そこに込められたメッセージ性を自分の表現に取り込み、幅広い層のリスナーに訴求する楽曲へと導いているのだ。「ずっと好きだった」(資生堂『IN&ON』CMソング)、「歩いて帰ろう」(子供番組『ポンキッキーズ』オープニングテーマ)などを含め、タイアップの効果を上手く活かし、自らのオリジナリティと幅広く受け入れられるポピュラリティを兼ね備えた楽曲へとつなげる斉藤ならではのスタンスは、彼が四半世紀に渡って強い支持を得ている理由の一つだろう。

 シングル『アレ』には、表題曲のほか、昨年9月に札幌で行われた『KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 After Party at Zepp Sapporo』の音源を収録。これは25周年ライブツアーのアフターパーティとして、斉藤、隅倉弘至(Ba)、玉田豊夢(Dr)の3ピースで開催されたライブで、通常盤には6曲、初回限定盤にはなんと13曲が収められている。「ずっと好きだった」「やさしくなりたい」「歩いて帰ろう」といった代表曲、ヒット曲を生々しいバンドサウンドとともに体感できる貴重な音源だが、ここからは、ライブパフォーマーとしてのさらなる充実ぶりが伝わってくる。

 以前から「いちばんやりたいのはライブ。ツアーをやるために新曲を書いている」という趣旨の発言を繰り返している斉藤だが、その魅力をもっとも強く感じられるのは、やはりステージなのだ。4月からは弾き語り全国ツアー『Time in the Garage』がスタート。求められること、やりたいことを同時に体現しつつ、しなやかに自らのキャリアを進み続ける斉藤和義。25周年のアニバーサリーを超え、その活動はさらに深みを増していきそうだ。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■リリース情報
48thシングル『アレ』
2月20日(水)リリース
日本テレビ系水曜ドラマ『家売るオンナの逆襲』主題歌
iTunes、レコチョク、mora他主要ダウンロードサイト、Apple Music、LINE MUSIC、Spotify他、主要サブスクリプションサービスにて配信中

初回限定盤 ¥1,800+税(初回限定盤のみ豪華三方背ケース仕様)
※初回限定盤には「25周年ライブのアフターパーティとして札幌のみで開催されたライブ音源が13曲、通常盤には6曲収録。斉藤和義、隅倉弘至、玉田豊夢の3ピースで行われた貴重なライブ音源。

<収録曲>
01 アレ
02 Would you join me? (Live Ver.)
03 幸福な朝食 退屈な夕食(Live Ver.)
04 男節(Live Ver.)
05 ずっと好きだった(Live Ver.)
06 Good Luck Baby(Live Ver.)
07 月光(Live Ver.)
08 やさしくなりたい(Live Ver.)
09 FIRE DOG(Live Ver.)
10 マディウォーター(Live Ver.)
11 Hello! Everybody! (Live Ver.)
12 歩いて帰ろう(Live Ver.)
13 ベリー ベリー ストロング〜アイネクライネ〜(Live Ver.)
14 月影 (Live Ver.)
※02〜14は、『KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 
25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 After Party at Zepp Sapporo 2018.09.19』よりライブ収録音源

通常盤 ¥1,200+税
<収録曲>
01 アレ
02 幸福な朝食 退屈な夕食(Live Ver.)
03 ずっと好きだった(Live Ver.)
04 やさしくなりたい(Live Ver.)
05 歩いて帰ろう(Live Ver.)
06 ベリー ベリー ストロング〜アイネクライネ〜(Live Ver.)
07月影(Live Ver.)
※02〜07は、『KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 
25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 After Party at Zepp Sapporo 2018.09.19』よりライブ収録音源

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