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Cornelius、OGRE YOU ASSHOLE、betcover!!…晩夏のチル/サイケデリック新譜8選

リアルサウンド

19/9/1(日) 8:00

 今回のキュレーション連載は「晩夏のチル/サイケデリック」というテーマ。もう9月になってしまったけれど、夏が終わってもまだまだ残暑が長く残る昨今は、火照った身体を冷ましてくれるような曲を聴きたくなる気分。国内のミュージシャンの最近の作品から選びました。

 Cornelius「サウナ好きすぎ」

 Cornelius がドラマ25『サ道』(テレビ東京系)の主題歌に書き下ろした曲。ドラマの原作は近年拡大を続けているサウナ人気の火付け役でもある漫画家・タナカカツキの『サ道』で、この曲の歌詞もタナカが書き下ろし。タイトル通り、サウナをテーマにした曲で、アンビエントなサウンドにCorneliusのつぶやくような歌が乗る。

 サウナ好きたちのバイブルと言われる『サ道』の功績の一つは「サウナ→水風呂→休憩」の繰り返しで得られる恍惚や快楽を「ととのう」という言葉であらわしたこと。で、Corneliusはこの曲で、まさにその「ととのう」という感覚を音にしている。具体的に言うと3分10秒からの数秒間がそれ。

 まさに文字通りの「チル」の感覚を表現した一曲だと思う。

OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』

2019.9.4 Release OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』Album digest

 ただの逃避でも、ただの酩酊でもなく「今の時代にサイケデリックな音楽を鳴らすとはどういうことか」という明晰な意志を備えていることが、OGRE YOU ASSHOLEというバンドの大きな強みだと思う。

 3年ぶりのニューアルバムは、新たにスタートしたレーベル<花瓶>から9月4日にリリース。フレーズの一つ一つは穏やかで、ゆったりとしたテンポで、ミニマルなリズムが繰り返される。声を張り上げる歌い方もしない。けれど、そこには現実の「もう一つの可能性」を示すような、とても鋭い批評性を感じる。前作『ハンドルを放す前に』もそうだったけれど、今作はさらにその先を突き詰めたような一枚。「新しい人」の〈新しい感情が 生まれてくる〉とか、「動物的/人間的(Album Ver.)」の〈恥ずかしいこと はじめよう〉というフレーズが象徴的だけれど、今までにない感覚の扉を開くような、予兆の音楽を鳴らしている。

The fin.『Wash Away』

The fin. – Gravity (Official Video)

 9月13日にリリースされるThe fin.の新作EP『Wash Away』。いち早く聴かせてもらったのだが、かなり素晴らしい仕上がりになっている。昨年リリースされたアルバム『There』以降、あきらかにプロダクションが変わった印象。先行配信されている「Come Further」や「Gravity」でも明らかだが、サウンドの骨組みがバンドからエレクトロニックミュージックに移行している感じがある。サイケデリックな夢想の音楽を鳴らしているのは前と変わらないけれど、そこに風格のようなものが備わってきている。

 イギリスに拠点を移して約3年半。新作はRadioheadやalt-Jを手掛けたブラッドレイ・スペンス、ビョークやArcaを手がけるジェイク・ミラーと共同プロデュースだという。アジア各国、特に中国でライブ動員が飛躍的に伸びていて、9月から行われている中国ツアーも1000人以上のキャパがソールドアウトらしい。

 ほんと、誰も通ったことのない道を歩んでいる。

 betcover!!『中学生』

betcover!! / 決壊

 多摩出身、20歳のヤナセジロウによるソロプロジェクト、betcover!!によるメジャーデビューアルバム。基本はアコースティックギターをベースにした歌モノの曲が並んでいるんだけれど、じっくり聴いていると“飛ばされる”ような酩酊感が宿っている。たぶん彼の音響とサウンドに対しての一筋縄ではいかない意識がもたらすものなのだろう。

 たとえば「水泳教室」や「決壊」のリズムやベースラインにはダブ/レゲエやロックステディを経由した、「異星人」など全体を通した重低音のサウンドメイキングにはトラップ以降の感性を感じる。

 ヤナセジロウはインタビューなどでもフィッシュマンズからの影響についてたびたび語っているが、たしかに90年代のフィッシュマンズの持っていた革新性を今の時代に蘇らせるならこういう音楽になるかも。レコーディングエンジニアをつとめたのはYogee New Wavesやnever young beachを手掛ける池田洋。その功績も大きいはず。

 アルバムは12分を超えるラストの大曲「中学生」が特に素晴らしい。ジャンルとしてではなく、現実世界に穴を開けるという意味での「サイケデリック」を鳴らしている。

okkaaa『okkaaa – EP』

 1999年生まれで20歳のラッパー/トラックメーカー/文筆家、okkaaa(おっかー、と読むらしい)のEP。自主リリース。最初に聴いたのはたぶんSpotifyのプレイリストがきっかけで、そこからハマってしまった。

 なんというか、いろんなものが「見えてる」才能だと思う。ダウナーで、少し切ないテイストのあるトラックに、声を張り上げず、つぶやくようなラップ。その背景にいろんな文脈を感じる。たとえばトラックメイキングにはNujabesの再評価から「lo-fi chill beats」というタグで海外に広まりつつあるローファイヒップホップの流れを感じるし、たとえば「シティーシティー」のボーカルには、88rising発のライジングスターになったJojiの歌に通じるようなところもある。たとえば「ビーピーエム」にはJ・ディラなどネオソウルのルーツも感じる。

 配信リリースされている『okkaaa – EP』に加えて、タワレコ渋谷店限定でCDリリースされた『界雷都市』もいい。当たり前にこういう才能が世に出てくる時代なんだなと思う。

4s4ki『NEMNEM』

4s4ki – 幻 feat. いつか(Charisma.com)

 4s4kiと書いて「アサキ」と読む。ダウナーなトラックに、はかない歌声。1998年生まれのラップシンガー/ソングライターで、プライベートレーベル<SAD15mg>からリリースされたのが、このEP『NEMNEM』。

 リードトラックの「超破滅的思考」や、Charisma.comのいつかを客演に迎えた「幻 feat.いつか(Charisma.com)」が象徴的だけれど、押しの強いシンセの音と内省的な声が絶妙にマッチしている。

 EPに続けて新曲も立て続けにリリースされていく予定とのことで、9月4日リリースの「欠けるもの」は、泉まくらやドレスコーズ「もろびとほろびて」の編曲を手掛けたmaeshima soshiを共同プロデュースに迎えた曲。

 4s4kiもそうだが、泉まくらやmaeshima soshiも含めて、レーベル<術ノ穴>や<ササクレクト>周辺に集まる才能たちが、メランコリックなビートミュージックの一つの潮流を作っている感じもする。

MINAKEKKE『OBLIVION e.p.』

MINAKEKKE | Acid (Official Music Video)

 シンガーソングライターのユイミナコによるソロユニット、MINAKEKKE。読み方は「ミーナケッケ」。2017年にリリースしたデビューアルバム『TINGLES』から2年ぶりとなる作品が、この『OBLIVION e.p.』。

 一聴して感じたのが、ゴシックで退廃的なムード。Portisheadにも通じるような、研ぎ澄まされたビートと悲哀を感じさせるメロディセンスだ。特に「Acid」の、ノイズとストリングスのループを基調にビートレスでも研ぎ澄まされたグルーヴがいい。

 ラナ・デル・レイのニューアルバム『Norman Fucking Rockwell』も素晴らしかったが、そこに通じるものも感じる。抑えた憂鬱の美しさ。

MON/KU『m.p』

MON/KU – S I N K | Ano(t)raks

 ダークでエクスペリメンタルで、でも並々ならぬセンスを感じるトラックメイカー/シンガーソングライター。彼の名前を知ったきっかけは、やはりSpotifyとTwitterだった。ネットレーベル<Ano(t)raks>から配信リリースされた初EPが、この『m.p』。音楽活動を開始したのは2018年12月。今年1月にSoundCloudにて公開された初楽曲「S I N K」、そして6月に<Ano(t)raks>からリリースされた「if」が評判を呼んでいて、聴いてみたらたしかにかなり惹き込まれた。

 想起したのはジェイムス・ブレイクやFKA Twigsあたりで、アバンギャルドなエレクトロニックミュージックなんだけれど、同時に「歌」としての強度もある楽曲。

 こういう人が出てくるところに、日本のアンダーグラウンドの奥深さを感じる昨今。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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