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世間の厳しい目を跳ね返す? ドラマ版『映像研』がもたらしたキャラクタードラマの可能性

リアルサウンド

20/4/14(火) 8:00

 先週スタートした連続ドラマ『映像研には手を出すな!』(MBS/TBS、以下『映像研』)は、芝浜高校というダンジョンのような学校を舞台に、浅草みどり(齋藤飛鳥)、金森さやか(梅澤美波)、水崎ツバメ(山下美月)の三人の女子高生がアニメを作るために映像研究同好会を立ち上げる話だ。

【写真】齋藤飛鳥演じる実写版の浅草みどり

 原作は『月刊!スピリッツ』(小学館)で連載されていれる大童澄瞳の漫画。今年の1月に湯浅政明監督によるアニメシリーズがNHKで放送され、絶大な支持を受けていただけに、その直後に始まるドラマ版は厳しい勝負になるだろうなぁと、思っていた。それでなくても人気漫画の実写映像化に対して世間の目は厳しい。しかも、本作は乃木坂46の3人が主演を務めるアイドルドラマ(アイドルドラマに対する目も世間は厳しい)でもあり、先行して発表されたポスターのビジュアルを見ても(漫画の浅草や金森とくらべて)かわいすぎるのではないかと思っていたのだが、はじまったドラマはそういった不安要素を全部跳ね返した上で、漫画ともアニメとも違う実写映像だからこそできるセンス・オブ・ワンダーに溢れた作品に仕上がっていた。

 変な言い方になるかもしれないが、「ついに実写映像でも、ここまでアニメがやれるようになったのだ」と感慨深かった。

 アニメ版『映像研』は完璧だった。アニメを作る女子高生たちの話をアニメで作り、作中には浅草が考えた設定画やツバメが考えたキャラクターが登場するのだから、本作にもっとも適した映像表現がアニメであることは疑いようがない事実だろう。アニメという表現を通してアニメの魅力を解説していく手法も「これしかない」という感じで、まさにアニメによるアニメ賛歌だったと言える。

 対してドラマ版『映像研』は、生身の俳優とCGを組み合わせることで、アニメや漫画の持つ魅力にどこまで肉薄できるのか?という勝負に全力で挑んでいる。これは技術的な意味だけでなく「漫画だなぁ」とか「アニメだなぁ」という言葉に内包される「荒唐無稽な物語」を実写で作るという意味も含まれる。よりわかりやすく言うと、実写で『未来少年コナン』や『ルパン三世 カリオストロの城』といった宮崎駿のアニメが作れるのか?という挑戦だ。そう考えると、一見無駄に見える応援部や生徒會直属の警備部が出てくるごちゃごちゃとした場面も納得できる。おそらくあれは宮崎駿のアニメに出てくるモブシーンの再現だ。

 監督の英勉は乃木坂46主演の映画『あさひなぐ』の監督だが、『映像研』と同じMBS制作のドラマ『賭ケグルイ』の監督として知られている。『賭ケグルイ』も役者の演技や編集のテンポ、照明のバランスが極端に誇張された漫画的な演出で、ギャンブル対決における登場人物の極限状態の心理を表現していたが、今回の『映像研』はより洗練されており、すべてのコンセプトが見事にハマっている。

 『イノセンス』等のアニメ映画の監督として知られる押井守は「すべての映画はアニメになる」と、かつて語っていたが『映像研』は、それを証明するようなドラマだ。

 浅草たちが妄想するアニメのイメージを再現したCG映像はもちろんのこと、役者の演技やテンポの良い編集を通して、アニメや漫画の持つ2.5次元の快楽をてらいなく追求している。

 それは演技に対するアプローチにもっとも現れている。絵で描かれたアニメは、何でも表現できてしまうが故に、リアリティの根拠が必要となる。だからこそ浅草の声優は女優の伊藤沙莉であり、演技の面においては地に足がついており、アニメ的な自由度はむしろ抑制されていた。対して実写映像の場合は、生身の俳優がカメラの前にいるという事実においてリアリティが担保されている。だから演技の面でいくらでも飛躍することができる。

 その意味で、今回もっとも驚いたのは浅草みどりを演じる齋藤飛鳥の存在感だ。本当に、アニメのキャラクターが現実に飛び出してきたようである。このあたりは齋藤たちが、アイドルという虚像を演じる存在だから相性が良かったのだろう。

 『ゆるキャン△』(テレビ東京系)の福原遥や大原優乃の演技を観た時も思ったが、今の若手女優は漫画やアニメのキャラクターを演じるのがとても上手い。漫画やアニメを原作としたドラマ、あるいは漫画やアニメのエッセンスを実写に持ち込んだドラマを、筆者は“キャラクタードラマ”と呼んでいる。キャラクタードラマは、90年代に大きく発展し、脚本では『南くんの恋人』等のテレビ朝日のドラマで岡田惠和が、演出では『金田一少年の事件簿』等の日本テレビのドラマで堤幸彦が切り開いたユニークな映像表現である。

 漫画やアニメを実写化すると、出演俳優のイメージがキャラクターと合っているかどうかが賛否を呼び、ネガティブなものとして捉えられることが多い。しかし『映像研』のようなドラマを観ると、キャラクタードラマにはまだまだ無限の可能性があるのだとわかる。今後が楽しみである。

(成馬零一)

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