Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

植草信和 映画は本も面白い 

野村芳太郎の映画史を辿る、優れた〈映画監督研究書〉ほか

毎月連載

第42回

20/6/10(水)

『映画の匠 野村芳太郎』

『映画の匠 野村芳太郎』(小林淳著/ワイズ出版編集部編/野村芳樹監修/ワイズ出版・3,600円+税)

一昨年の『偽善への挑戦 映画監督川島雄三』『2001:キューブリック、クラーク』、昨年の『映画監督 神代辰巳』『小津安二郎大全』『無明 内田吐夢』など、近ごろ、優れた〈映画監督研究書〉が多く刊行されている。

その傾向が今年も途絶えていないと思えるのは、本書『映画の匠 野村芳太郎』が上記5冊に勝るとも劣らない〈映画監督研究書〉だからだ。

編著者のひとり小林淳が、野村芳太郎監督の「忘備録ともいえる製作・演出に関する長大な回想録ノート『SAKUHIN KIROKU』」を読んだことから、本書の編纂が始まった。

監修者で野村監督の子息であるプロデューサーの野村芳樹は、「オヤジさんが身体を悪くして現場を離れてから、一作目の『鳩』から最後の『危険な女たち』まで全作品のことを書き記していたんです。[…]亡くなってから家を整理したら出てきたんですよ」と、その回想録発見時の模様を語る。

その回想録が、「第二章 野村芳太郎、全監督作を語る」(全138ページ)に収められている。

野村芳太郎の代表作といえば『張込み』『砂の器』だが、一本の映画がどのような背景からから生まれ、監督は何を表現しようとしたのか。そしてその結果の興行成績はどうだったかなど、克明に、具体的に書かれたこの回想録は日本映画史の第一級史料といえる。

本書の構成は以下のようになっている。

「第一章 野村芳太郎 足跡とその作品」。編著者の小林が野村自身の証言、批評を引用しつつ野村の映画監督人生をたどる。

「第三章 野村芳太郎語録」は文字通り野村のエッセイ、インタビューでの発言、対談・座談を再録。川島雄三との対談、橋本忍、松本清張への言及が興味深い。

「第四章 関係者の証言」では岩下志麻、石濱朗、大竹しのぶ、野村芳樹ら一緒に仕事をした人たちが、小林とワイズ編集部の田中ひろこの質問に答える形で野村の仕事ぶりと人間性を語る。

「終章 フィルモグラフィー」は小林が膨大な資料を駆使して〈解説〉と〈概要〉を執筆、これ以上は望めないデータになっている。

巻頭は山田洋次監督の「野村さん、わが師」、巻末は弟子のひとりである仲倉重郎監督が寄稿、というのが本書の全容だ。

野村監督と彼が生きた映画史を、〈主観と客観を併存〉させた構成によって立体化に成功している本書は、野村監督がいかに"映画の匠" "映画製作のプロフェッショナル"だったことを教えてくれる。

『また、本音を申せば』(小林信彦著/文藝春秋・2,200円+税)

『また、本音を申せば』

「週刊文春」の名物コラム『本音を申せば』が、突然休載になったのは2017年5月18日号だった。

1998年から20年近くも続いている人気コラムの休載にも関わらず、誌面での「お断り」はなし。筆者の小林氏は当時すでに84歳という高齢だったので、健康問題が起きたのだろうかと心配した。

その昔、評者が在籍していた映画雑誌社で『小林旭読本―歌う大スターの伝説』というムック本の編集を担当してもらったり、雑誌の座談会にも出ていただいたりして、多少の面識を得ていたので他人事とは思えなかったのだ。

だが連載は程なく再開。その間の事情は昨年刊の『生還』に詳しく書かれている。

本書『また、本音を申せば』は、そんな長い歴史をもつ連載コラムをまとめた21冊目の本だ。

「2017年1月5日・12日号から2019年12月26日号までの『本音を申せば』と、その他の短文を集めて、この本を作りました。2017年に病気で倒れ、リハビリ生活を病院で送った期間のことは『生還』の題名ですでに出版されております。」、と著者は「あとがき」に記している。

本書は三つの章から成っている。第一章の2017年「ラジオと私」に17本、第二章の18年「弱者の生き方について」に13本、第三章の19年「映画の本が好き!」に27本。計57本のエッセイが収められている。

一読して嬉しくなるのは、映画に関する記述が圧倒的に多いことだ。過去の20冊にも映画の話は多いのだが、本書にも26本が映画関連で占められている。

タイトルが映画とは関係ないコラムにもしばしば映画の話が出て来て(例えば『真夏の夜の読書が始まる』では加藤武、『羽根木だより(二)』では芦川いづみについてふれている)、その数17本。

映画に関する文章が47タイトルもあることに驚かされる。

2017年から2019年、足掛け3年にわたる本書が以前に比べると"心優しい"文章が多くなった、と感じるのは心筋梗塞という病が影響しているのだろうか。

病を得たあとでも、松本穂香、綾瀬はるかに熱を上げている筆者の若々しさに驚嘆。ますますの健筆を祈るばかりだ。

『大杉漣/あるがままに』(佐野享責任編集/河出書房新社・1,300円+税)

『大杉漣/あるがままに』

大杉漣の『現場者(げんばもん)大杉漣/300の顔をもつ男』(マガジンハウス)は、2001年10月、彼が50歳のときに刊行された最初で最後の〈自叙伝〉だった。

「役の大きい小さいなど関係ない。関わったすべての作品がぼくの生きた証だ。[…]現場で喜び、現場で傷つき、そして現場で生きる。僕は現場者だ。」という一文で始まるこの自叙伝のなかに、彼の本質と役者の矜持を垣間見て感動したことを今でもよく覚えている。

それから17年後の2018年2月、変わることなく撮影現場を渡り歩き、『教誨師』という佳作を残して、大杉漣は66歳で逝去した。

本書『大杉漣/あるがままに』は、『現場者』以降に彼が書いたエッセイ、インタビュー、証言を中心にまとめられた追悼文集だ。

構成は、大杉自身の23篇のエッセイ、笑福亭鶴瓶、品川徹、黒沢清、稲垣吾郎、松重豊、佐向大など19人の監督や俳優による交遊録「漣さんと私」、西堂行人、吉田伊知郎らの「論考」、太田省吾、田口トモロウ、山崎まさよしらの「対談再録」、そして巻末には夫人の大杉弘美さんの「特別寄稿」が掲載されている。

若き日に全てをかけた劇団・転形劇場の解散から、ピンク映画で初めて知った映像の世界、北野武監督との出会い、名監督たちと独自の世界を作り上げていった過程まで、「24時間営業俳優」が語る演技論と撮影秘話はどれも興味津々でおもしろい。

掲載されたインタビューではもっとも新しい「死ぬまでにしたい大切なこと」の中で、「まだまだこれから先、可能性や希望を持ち続けている夢見るオッチャンなんで。やじろべえのように良い意味での不安定さを感じながら、生きていきたいですね。」という言葉が胸に突き刺さる。

プロフィール

植草信和(うえくさ・のぶかず)

1949年、千葉県市川市生まれ。フリー編集者。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。著書『証言 日中映画興亡史』(共著)、編著は多数。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む