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「自分の作品性にすごく近い」コラージュアーティスト・河村康輔が語る『哀愁しんでれら』

ぴあ

21/1/29(金) 12:00

土屋太鳳主演、田中圭共演で注目のサスペンス映画『哀愁しんでれら』が2月5日より全国公開される。同作は、平凡な毎日を送っていた小春(土屋太鳳)が怒涛の不幸に襲われ、そのどん底から一転、8歳の娘・ヒカリ(COCO)を男手ひとつで育てる、優しく裕福な開業医・大悟(田中圭)と出会い、結婚するというシンデレラストーリーからスタートする。土屋は、当初出演のオファーを3回断ったほどの難役を演じきり、脚本に惚れ込んだ田中の笑顔はこれまで見たことのないような狂気をまとう。いびつな家族の肖像も実に意味深だが、今回、映画のポスターやホームページに使用されているアートワークを手がけるコラージュアーティスト・河村康輔に話を聞いた。

河村康輔

予想を大きく裏切る二面性の表出
映画の中で幸せの形がどんどん変わっていく

——河村さんのアート作品はコラージュの手法ですとか、シュレッダーにかけた紙幣の作品などが特徴的で、世界的にご活躍ですが、映画『哀愁しんでれら』を拝見して、この映画のさまざまな要素が交差していく感じや毒の部分など、河村さんにアートワークのオファーがいったことに「なるほど」と思いました。

河村 映画、すごかったですよね。ちょうどアートワークの制作をはじめるくらいに観たのですが、自分の作品性にすごく近いなと思って。もともと僕のアートワークよりも先にティザーチラシがあって、それを参考に見せていただいていたのですが。

——映画にも出てくる、塙雅夫さんが手がけた家族の肖像画ですね。未完成なのか、3人の目も黒目のない不気味な絵で。

河村 そういう絵を見せていただいて、勝手に映画の内容を想像していたのですが、全然違う流れになっていって、とにかく予想を裏切られるという。かなりおもしろかったですね。

塙雅夫が手がけた肖像画を使用したティザー画像

——イメージが変わった部分は、どのようなところですか。

河村 アートワークの打ち合わせでも、ざっくりお話の流れと二面性というキーワードをうかがっていて。観る前は一般的な二面性のイメージでとらえていたんですね。僕自身は自分の作品に二面性があるとは思っていないのですが、この映画はいろんなものを組み合わせて構成されていたし、さらにその二面性というイメージも、最初は表裏というくらいの簡単なものを想像していたんですけど、中盤くらいから、もう全然想像していた二面性と違っていて、ふた山くらいきて、「うわ!まじっ!」っていう。だから納得したというか。伏線も随所に張られているんですが、予想とは大きく裏切られ、頭を混乱させられ、オチがまったく読めませんでした。

——お話のスピード感もすごいですよね。冒頭もアコーディオンの軽快な音楽が流れている中で、次々と不幸が起きていくという。

河村 落差がすごいんですよね。観ているほうは、それに飲まれていく。ベタな幸せのシーンを高揚して観ていたところから、「アレ!?」となって、その二面性という意味合いがゼロ地点と最後では完全に表と裏がひっくりかえっている。映画の中で幸せの形がどんどん変わっていくんですね。

この映画の速度とこだわり、情報量に ギミックは必要ない

——二面性の形として表現されているディテールもおもしろく、インテリアデザインや配色などにもこだわりが感じられました。

河村 あの綺麗さが逆に不気味だったりして。意図的にやっていると思いますが、考えさせる隙間を与えないくらいの速度感と細部のこだわり、情報量の詰め込み方というか。視覚と聴覚とテンポ的なところで、結構前半に感覚を麻痺させられるんです。僕は大悟の家が「これ、どこ!?」っていうところから気になって、そういうディテールに気をそらされましたし、小春と大悟が速攻で結婚しちゃう、あのテンション感も、全体を通して冷静に考えると普通に狂っているというか。ただ、不思議と、このシーン飛ばしたいなとか、ムカついたりとかすることがなくて。あからさまなコメディ要素が入っているわけではないのに、いい意味で嫌な気持ちにもならずに、ひたすら「ヤバイ、ヤバイ、どうなっていくんだろう!?」って引きこまれるんです。

『哀愁しんでれら』

——同時に、問題提起というか、突きつけられるものがあって。

河村 そうですね。幸せの形って本当にひとそれぞれで怖いものだと思いました。今の世の流れを考えてもそうですし、子どもにまつわる問題も実際にある話だから、いろいろと考えさせられるというか。ものづくりをする上で、何かを新たに生み出すにしても、まったくないものや見たこともないところからは生まれないと思うんです。宇宙には行ったことがなくても宇宙を描けるのは、宇宙という言葉はあるし、見たり聞いたりして想像はつくからで。まったく見たこともない、言葉もないものって、やはり想像はできない。この映画は極端な描かれ方に見えると思うんですけど、起こらない話ではないなというか。そう考えると、自分が思い描く幸せも、はたから見たらめちゃくちゃ狂っているかもしれないし、そうだったらどうしようとか。いろんな恋愛もあるだろうし、価値観の違いもあると思うのですが、考えさせられましたね。

——そのように受けとった映画に対して、いざアートワークを手がける際には何を大事にされましたか。

河村 最初は、映画の中に出てくるシーンやプロップ(映画の撮影用に使われる道具)的なものを使って、ギミックを入れて、もっとごちゃごちゃとコラージュしようかと考えていたんです。すごく幸せそうな場面写真、それに対比するような怖いシーンなど、いろんな素材を集めてもらっていて。でも、その最中に映画を観て。「こんな小細工する必要ないかも」と。

——そんなに潔く、方向転換できるものなのですか。

河村 そうですね。きっぱりと元のアイデアはあきらめられました。すごく考えさせられる映画でしたし、僕自身がビジュアルを作るのはいい意味で楽で、絶対にいいビジュアルになるなと潔くなれました。なんだろう、映画のほうにこんなにスパンとやられちゃったら、こっちも応えなければならないというか。そこは決断が早かったですね。最初の考えは捨てて、グラデーションにするでもなく、白か黒かくらいのわりきった二面性、ゼロ地点と最後の100を両極端で表すことにしました。映画のスピード感も考えて、やぶったら別の顔が出てくるくらいの極端さがあってもいいなと、ティザーチラシの家族の肖像画と同じアングルで家族写真の2枚だけで構成するという。

——上に家族写真が重ねてあって、ヒビが入ったようにやぶれた部分に下の肖像画が見えてくるという。シュレッダーアートの表現もありますね。

河村 そうですね。俳優さんの顔がわかる範囲でシュレッダーのテイストを入れて、今回の物語でいうところの崩れ落ちていく感じというか。

——ズレとかボタンの掛け違いという感じがはまっていますよね。

河村 そうやってズレて壊れていくんですけど、再構築されているという。まさに、あの家族の肖像というか。「ああ、そこまで結びつけて発注してくれたのかな」とやりながらぴったりだなと思って。今回、僕はメインのビジュアルだけ作らせてもらって、デザイナーさんが童話のような可愛さとか不穏な感じ、現代の心の闇なんかを、映画の情報量のまま、最強に料理してくれているのですが、映画を表すイメージになりましたね。

『哀愁しんでれら』

——2月5日にいよいよ全国公開されます。

河村 そうですね。いろんな方に観てほしいと思うのですが、この作品は僕も早く劇場で観たいなと。青と赤と黄色とか基調の色が多いので、ディテールがどういう感じで見えるのかなと、高解像度で観たいですし、映画館で、怖い“あれ”を体験したいなと。すごく楽しみです!

取材・文/古城久美子

『哀愁しんでれら』
2月5日 (金)・全国ロードショー
(C)2021 『哀愁しんでれら』製作委員会

脚本・監督:渡部亮平
音楽:フジモトヨシタカ
土屋太鳳/田中圭/COCO/山田杏奈/ティーチャ/石橋凌

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