Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

何者にも変異する俳優 菅田将暉にとっての“音楽” 人間としてのエネルギーをぶつける歌に込められた力

リアルサウンド

20/9/22(火) 12:00

 菅田将暉、27歳。一種異様な存在感を放つ俳優だ。その若さで、早くも唯一無二の立ち位置を構築してしまった。

 彼はほとんど常に何らかの「役」として私たちの前に存在していて、心ときめき惹かれもすれば、心底憎らしくなる瞬間もある。「菅田将暉」とはいったい、何者なのだろうか。

何者にも変異する俳優・菅田将暉

 『MIU404』(TBS系)にどっぷりとハマった筆者は、とりわけ最終回までの数週間、本気で菅田将暉が憎らしかった。もちろん、憎らしいのは彼が演じた「クズミ」であって菅田ではないのだが、菅田自身を嫌いになってしまいそうなほど、その表情、言葉遣い、すべてに腹が立っていた。

 最終回。実際は「何も持たざる者」だった自分に気付いた瞬間のクズミの表情、そして最後の、生きながら死ぬことを選んだかのような態度が胸を衝いた。あれほど憎らしかったクズミもまた人間だったのだと、一体なにが彼をここまで狂わせたのかと、同情さえ芽生えたことに筆者自身、驚いた。

 クズミが最後まで心のない悪役でいてくれたら、あの結末を「せいせいした」とスッキリして忘れられるのに。菅田がクズミに命を吹き込んでしまったものだから、彼が最後に見せたあの姿が、今なお切なくてたまらない。

 『MIU404』の放送中、何度も目にした映画『糸』のコマーシャル。断片的な予告だけで、切なさに胸が締めつけられた。綺麗な瞳をもつこの人とクズミが、同一人物だとはとても思えなかった。

 役者・菅田将暉を見ていると、彼自身を見失ってしまいそうになる。菅田は、正義に悪にも、白にも黒にも染まる俳優。そのさまは憑依ではなく、もはや変異と言っていいだろう。

「菅田将暉らしさ」を感じられるものこそが、音楽

 昨今、歌がうまい俳優は数多く存在する。その多くは「俳優が歌う意味」を体現し、楽曲の世界観を演じることに長けている。

 しかし菅田は、俳優として楽曲を演じるのではなく、菅田将暉という「人間」として、音楽にエネルギーをぶつけていると感じる。何色にも染まる俳優・菅田将暉の「人間くささ」「菅田将暉らしさ」を感じられるツールこそ、音楽ではないだろうか。

 御多分に漏れず、筆者は「まちがいさがし」が好きだ。菅田は、こうした「陰」の気配をまとう楽曲がよく似合う。

 同曲を提供した米津玄師と菅田の、出会いと親和性は奇跡。音域、歌詞、世界観、全てが菅田にハマっている。菅田でなければ誰が歌うのかというほど、菅田将暉がその声で、その感性で歌うべき楽曲だ。

 歌い出しのフレーズは、多くの人の心を刺す。誰もが心当たりを持ちつつ、生きていくために見て見ぬふりをしてきたことを、彼らは言語化してしまった。けれど、傷をえぐるのでもなければとどめを差すのでもない。「共鳴」し、心のモヤを晴らすように、歌に変えて昇華した。

 同曲のMVで菅田は、冷え切ったような目で、内にこもった熱を歌う。力強さのなかに、どこか脆さを感じる。それはテレビで見る、穏やかな関西弁を話す菅田将暉の表情ではない。幾度となく見せてきた「演じている」表情ともまた違う。この姿こそ、菅田将暉の輪郭であり、本質に近いのではないかと感じた。

 そして菅田が歌う”陰”、楽曲が持つエネルギーは、誰かの心を支え得るものだろう。

菅田将暉 『まちがいさがし』

自身の作詞曲、数々のコラボレーションも話題に

 彼の歌唱の強みは、低音域でも失われないクリアな響きと、聴き手に迷いなく届く、太くまっすぐな声。ファルセットもナチュラルで、音域も広い。日本語を大切に歌うことで、歌詞がしっかり伝わるのも、菅田の歌唱の魅力だ。

 父親の影響を受け、吉田拓郎の大ファンだという菅田。日常の小さなことを、飾らぬ自身の言葉で歌にしたためるフォークソング、それが吉田拓郎の世界観だ。そうしたルーツを持つからか、菅田は、日常のスキマをすくいとり、人間の真理をついてくる作家との相性が良い。そして菅田自身の作詞曲も、独自の着眼点が面白く、それでいて普遍的だ。

菅田将暉 『さよならエレジー』

 「さよならエレジー」を提供した石崎ひゅーいが作曲を、菅田が作詞をつとめた「いいんだよ、きっと」という楽曲がある。耳なじみが良く、男女問わず歌いやすいキー。ほんの少し昭和の香りが漂うメロディと、菅田の声がマッチしている。

 なんといっても歌詞が良い。偶然見かけた男の子の姿から妄想を膨らませて書いたという歌詞には、日常めいた歌詞が並ぶ。歌手は必ずしも、カッコイイことや壮大なことを歌う必要はない。感じたことを自由に歌い、残せば良い。些細なことを歌にし、メッセージとして放つことができる菅田の感性は、稀有なものだと感じた。

「いいんだよ、きっと」

 2020年に入ってからは、Creepy Nuts、石崎ひゅーい、OKAMOTO’S、中村倫也、とコンスタントにコラボ作品をリリースしている。菅田は、置かれた環境にスッと染まってゆくのがうまいと常々感じる。けれど、相手に合わせるのでも、楽曲を演じるのでもない。「菅田将暉」という人のまま、ナチュラルに融和する。これこそ菅田特有の、「変異」の正体なのかもしれない。

 7月1日、Creepy Nutsとのコラボ曲「サントラ」をリリース。菅田のラジオにCreepy Nutsがゲスト出演したことをきっかけに話が盛り上がり、コラボレーションが実現した。3人は『ミュージックステーション』にも出演、音を全身で楽しみ、無邪気な表情を見せる菅田が印象的だった。

Creepy Nuts × 菅田将暉 / サントラ【MV】

 同じく7月には、既知の仲である石崎ひゅーい、そして亀田誠治とともに中島みゆきの名曲「糸」をカバー。声に深みを持たせたまっすぐな表現には、強さと優しさがある。原曲へのリスペクトを感じる、実直なカバーだった。

「糸」

 8月には、OKAMOTO’Sとのコラボによるシングル「Keep On Running」を配信リリース。CMにも起用されている同曲は、キャッチーなサビを持ちつつ、サウンドにはOKAMOTO’Sらしいトガリがあり、どこかレトロな匂いを感じるロックナンバーに仕上がっている。菅田とOKAMOTO’S、双方の魅力が引き出された化学反応。「まさにコラボ」という1曲だ。

菅田将暉×OKAMOTO’S 『Keep On Running』

 同じ事務所の中村倫也とのコラボシングル「サンキュー神様」の配信リリースも話題になっている。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、エンターテインメントの動きが鈍くなっていることを感じた菅田が「自分たちにできることはないか」と、中村に投げかけたことから実現したコラボ。同事務所メンバーでのコラボは楽曲だけにとどまらず、ストーリー仕立てのMVには松坂桃李が、コーラスには木村佳乃とchayが参加している。

 鬱屈とした日々に寄り添いながらも、すべてを吹き飛ばしてくれるような爽やかさをもつ同曲。やや字余りの歌詞が、より一層メッセージ性を強くする。菅田特有の太くまっすぐな声と、中村の甘く包み込むような声は、しっかりと聴き分けられるほど異なるのに絶妙に融合している。

「サンキュー神様」

 数々のミュージシャンとのコラボレーションを実現していく姿には、彼の人柄をも想像させる。菅田将暉は音楽を愛し、音楽の前にはただただ無垢な青年なのだと感じる。

 俳優としての彼には、今後もその役に心揺れ動き、ときに心乱されることもあるだろう。それでも、歌手・菅田将暉のことは、これから先もずっと、信じて愛していけると思った。

■新 亜希子
アラサー&未経験でライターに転身した元医療従事者。音楽・映画メディアを中心に、インタビュー記事・コラムを執筆。
Twitter

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む