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サカナクション、Base Ball Bear、凛として時雨…クリエイティブな女性ベーシストの現在地

リアルサウンド

19/7/18(木) 7:00

 サカナクションが実に6年ぶりとなるニューアルバム『834.194』をついにリリースし、大きな話題を呼んでいる。2014年1月に発表した『グッドバイ/ユリイカ』以降のシングルをすべて含んだ2枚組全18曲の大作で、6年間の歩みが凝縮された作品であると同時に、80年代歌番組風のミュージックビデオもユニークな「忘れられないの」を筆頭に、2019年現在の、さらにはこれから先のサカナクションをも提示する作品となっている。

(関連:サカナクション『834.194』レビュー:新曲群に如実に反映されたバンドの変化と魅力

 この6年の間にベーシストの草刈愛美は妊娠~出産を経験し、一時期はバンド活動を休止するも、2015年の秋からライブに復帰。もちろん、アルバムにも全面的に参加している。DISC 1はゆったりしとしたテンポの「忘れられないの」から始まり、曲を追うごとにBPMが上がっていくが、そのピークとなる「新宝島」や「モス」、あるいはDISC 2の「さよならはエモーション」といったBPM160ほどの楽曲におけるドライヴ感のあるプレイは、これまでと変わらない魅力がある。

 しかし、本作における最新のモードを提示しているのは、やはり「忘れられないの」や、DISC 1・2曲目の「マッチとピーナッツ」といったBPM80~100程度の楽曲。アルバム制作中に「AOR」がキーワードとして出て、山下達郎らのコピーをしていた時期があったそうで、「忘れられないの」はそんな雰囲気がありつつも、シンセやリズムの音色で現代的にアップデート。楽曲のグルーヴを担っているのは間違いなく草刈のベースであり、1サビ後のソロは最大の聴きどころだ。「マッチとピーナッツ」においても、やはり主役はファンクベースである。

 ダンスミュージックを消化したバンドサウンドで一時代を築いたサカナクションが、その後のEDM全盛期を経て、誰もがグリッドに沿ったリズムで踊るようになった現在において、確かな腕を持ったプレイヤーによる生のグルーヴを打ち出すことは、非常に意味があると言えよう。その一方、今回のアルバムはメンバーそれぞれが自らのパートを離れ、自由にアイデアを出し合って制作が行われたことも特徴で、草刈はストリングスやホーンのアレンジでも重要な役割を果たしたという。優れたベーシストであると同時に、より広い目線で楽曲全体をプロデュースできる草刈をはじめ、それぞれが一表現者であるメンバーが揃っているからこそ、サカナクションは今も稀有なバンドであり続けているのだ。

 サカナクションとは盟友とも言うべき関係性のBase Ball Bearにおいても、同じベーシストである関根史織の存在感が急激に増してきている。もちろん、もともとバンドの紅一点としてデビュー当初から注目を浴び、近年バンドの音楽性がブラックミュージックを由来とするリズム主体の音楽に変化していく中で、その存在は改めてクローズアップされていた。しかし、プログラミングを用いた3人体制の初作『光源』と、弓木英梨乃をサポートに迎えたツアーを経て、真の意味での「3ピース」を模索し、その最初の一歩として今年1月にリリースされたEP『ポラリス』において、関根は完全にキーパーソンとなっていた。

 小出祐介とともに関根の名前が作曲クレジットに明記されている「試される」と「PARK」の2曲は、関根が作り溜めていたフレーズのネタ帳を基にリズム隊がループを作り、それが楽曲の根幹になっていて、その完成度がゆえに小出はギターを弾かない割合が増している。特にBPM110ほどのテンポでファンキーな指弾きのプレイを聴かせる「PARK」が素晴らしく、小出のボーカルはこのプレイに触発される形でラップになったのだという。

 昨年は主催の対バンツアーで関根がthe pillowsのサポートを務めるなど、プレイヤーとしてさらなる成長を感じさせると同時に、元来のプログレ好きが高じてか、King Crimsonのトニー・レヴィンが使用したことで知られる弦楽器のチャップマンスティックを用いたユニット・sticoを結成するなど、そのクリエイティビティはさらに開花しつつあると言えよう。

 世代が近く、同じ3ピースの女性ベーシストといえば、凛として時雨の345の存在が思い浮かぶ。前述した2人とプレイスタイルこそ異なるものの、TKとピエール中野という猛者たちとともに、強靭なアンサンブルを形成する345はやはり見逃せないプレイヤーの一人。最新シングル『Neighbormind/laser beamer』においても、抑揚の効いたプレイでためやドライヴを生み出すことで、楽曲のドラマ性に大きく貢献している。

 また、345はツインボーカルの一人としてもバンドの世界観の形成に欠かせないが、昨年11月には、なるけしんごとのアコースティックユニット・ti-ti.uuとして、ひさびさのミニアルバム『door』をリリースし、ここではボーカル、ギター、キーボードを担当。曲によってストリングスも交えながら、ハイトーンではなく、穏やかな表情の歌声でやや内省的な世界観を構築し、バンドとは異なる魅力を見せている。

 草刈、関根、345の3人とも、それぞれがプレイヤーとしての充実期を迎えると同時に、一音楽家/表現者として、新たな領域に踏み出してもいる。彼女たちが今もシーンのトップランナーであり続けている理由は、自らを絶えず更新し続けているからに他ならない。(金子厚武)

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