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星野源が『おげんさんといっしょ』で挑み続ける文化の継承 第4弾放送から感じた“豊かさ”の意味

リアルサウンド

20/11/12(木) 12:00

 「始まったときはどうなることやらと思ったけれども、4年も続いてるわよ」
「『お父さんになってください』って言われたときには何を言ってるんだろうって思ったけど」

 そんなおげんさん(星野源)とお父さん(高畑充希)のまったりとしたトークで始まった『おげんさんといっしょ』(NHK総合)の第4弾。「Twittrend」によると今回も放送中、Twitterの世界トレンド1位に輝くほど、大きな反響だった。

 「会えたね!」とお父さんが喜び「同じスタジオでやれるのが嬉しい」とおげんさんが言うように、今年はコロナ禍により、5月にパペットを使いリモートで収録された『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』以来の放送となった。

 1曲目に披露されたのは「ばらばら」。おげんさんの家の欄間額にずっとタイトルが掲げられていたもので満を持して歌われたものだが、その歌詞は今聴くとまた意味合いが変わってきてより響くものになっている。まさに今こそ歌われるべき曲になっていた。曲名表示のテロップ代わりに欄間額の文字をそのまま使うのも気の利いた演出だった。

 〈世界は ひとつじゃない/ああ そのまま ばらばらのまま/世界は ひとつになれない/そのまま どこかにいこう〉と歌っている中で明かされる2階建てに“増築”された家。もちろんソーシャルディスタンスのための措置だ。そこに長女の隆子(藤井隆)、次男(三浦大知)、そしてバンドメンバーの息子たちがいる。それぞれの場所でばらばらにいるしかない。けれど、心を重ねてひとつになることができる。それを端的に象徴したようなセットだった。

 “末っ子”のカースケに「孫が生まれた」というほっこりする報告を挟みつつ、メンバー紹介を丁寧にするおげんさん。この部分を欠かさないのはこの番組ならではだろう。いかに音楽と、それを奏でるメンバーを大事にしているかがわかる。

 そしておげんさんは「日々のリハーサルのときに生まれることがある。そんなリハーサルをやるみたいな番組を作りたいと。ユルくて、リラックスして、緊張しなくてすむ音楽番組を作ろうと思って」と番組コンセプトを改めて説明。「音楽だけを浮かび上がらせる」そういう発信の仕方をしたい、と語る。

 2曲目を歌ったのはお父さんこと高畑充希。ニューヨーク、ロンドン、そして再びニューヨークと好きすぎて3回も通ったミュージカル『ウェイトレス』の劇中歌「She Used To Be Mine」だ。緊張して「お父さんは寝れないよ」と語っていた高畑充希だが、彼女が歌い出すと空気は一変。その歌声はあまりに美しく、圧倒的な表現力と相まって、鳥肌立ちまくりだった。

 歌い終わると「喉がカラカラ」だというお父さんと家族を引き連れ、おげんさん一家はちょっと広くなった「スナック豊豊」に。そこで待っていたのはもちろん豊豊さん(松重豊)だ。いつものようにディープな音楽談義をたっぷり時間をかけて行う一同。ゆったりとした時間が流れる中、豊豊が「猫村さんのうた」を歌う。もちろんテレビ東京で松重が主演した『きょうの猫村さん』の主題歌だ。作詞したU-zhaanもスナックのバーテンダーとして登場し、タブラを演奏。その場でチューニングするのを見せるのもまたこの番組らしい。

 さらに星野源の「アイデア」を三浦大知がカバー。狭い2階の部屋で踊り歌い、そのまま1階に。舞台を最大限広く立体的に使う圧巻のステージを見せつけた。弾き語りパートでは星野と三浦による“ギター漫才”も。その後、隆子がここぞとばかりに後方で髪を振り乱して踊っている。ひたすら楽しく心が踊るシーンが続く。

 番組後半では今回もスタジオを移動。もちろんその道中もカメラは追う。本家『おかあさんといっしょ』のスタジオで展開されたのは振付・MIKIKO、編曲・美央によるELEVENPLAYの約5分間にわたるダンスパフォーマンス。昨今のゴールデンプライム帯の地上波放送でダンスだけをこれだけの尺を使って見せるというのは記憶にない。しかもその間、おそらく他の番組なら必ずするであろう、それを見ているおげんさんたちにカメラを向けることはもちろん、ワイプをつけて顔を抜くというようなこともしていなかった。ダンスだけを純粋に見せるんだという強い意志があったのだろう。

 おげんさんはこのパートの前に60年代に放送されていた『夢であいましょう』を紹介。様々なコーナーがある中、ダンスだけのコーナーがあり、それを見て泣いたという。

「なんて豊かなんだと思って。いまテレビの中で、ダンスだけを5分ぐらい見るってないでしょ? なかなかないんだけど、このころはこれを、家の中でとか、いろんな家庭だったり職場だったりで、みんなでみて楽しんでたっていうなんかその様が、すごい豊かだなと思って」

 今、これをやれるのは『おげんさんといっしょ』しかないんじゃないかと企画したと語るのだ。

 このダンスを見たお父さんは「いまテレビみてるとね、全部説明してくれるじゃない? いろんなことを。全部教えてもらえちゃうけど、ダンスだけ見るって、それぞれが見ながらいろんなことを想像して隙間を埋めれるじゃない。見る人の数だけ思うことが違ったんだなと思って。めっちゃ素敵でした!」と感想を述べる。

 意味や情報を詰め込むことが「豊か」ではなく、あえて隙間を作り、見ている人たちがその隙間をそれぞればらばらの感受性で埋めていくことこそが「豊か」なのだ。かつてはあったけれど、今は失われてしまった文化を、ノスタルジーではなく今の新しいマインドで復活させる。まさに文化の継承を星野源は『おげんさんといっしょ』で挑み続けている。その豊かさは隆子が言ったように「テレビの夢」そのものだ。

 最後は雅マモル(宮野真守)も加わり一家全員で「うちで踊ろう」を歌う。「ばらばら」から始まり「うちで踊ろう」で終わるという最高の構成だ。

 今回は奏者であるU-zhaanやダンサーたちを除き、いわゆる新しい「ゲスト」を加えなかった。その日のラジオで「自分のやりたい『おげんさん』っていうのは今日、特に100パーセントできたような感じがした」と星野源が振り返ったように、ある意味でこのメンバーでのやりたいことを深化させた集大成という意味合いもあったのではないか。みんなで楽しげに「うちで踊ろう」を歌い踊る多幸感に満ちた光景は「第1章」の大団円を感じさせるものだった。

 最後、それぞれがばらばらにめちゃくちゃなハミングをしているうちに自然と「重なり合って」いく瞬間は、『おげんさんといっしょ』のすべての思いが凝縮されているようだった。

星野源 オフィシャルサイト

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