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みくりと平匡ならどう生きる? 那須田淳P×金子文紀監督に聞く、いま『逃げ恥』を届ける意義

リアルサウンド

20/12/31(木) 8:00

 みくりと平匡がママ&パパに! 新垣結衣×星野源共演の人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)が、2021年1月2日に新春スペシャルドラマとして帰ってくる。

 『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』と銘打たれた本作では、『逃げ恥』ワールドも現実と同じ時間軸で進むという。本当にいろいろなことがあった2020年。誰もが多くの課題を抱え模索を続ける今こそ、私たちには『逃げ恥』が必要なのだ。

 連続ドラマに引き続き、キャストもスタッフもチーム『逃げ恥』が集結。どのような背景を経てスペシャルドラマを紡ぐことになったのか。今回は、那須田淳プロデューサーと金子文紀監督に、その想いを聞いた。

「いつか」と思っていた続編を、世の中が変化した今こそ作ろう

――今回、新春スペシャルドラマを放送することになった経緯から教えてください。

那須田淳(以下、那須田):2016年10月に放送をスタートした『逃げ恥』ですが、おかげさまでたくさんの視聴者の方に共感していただけた作品になったと思っております。その上で、やはりみくりと平匡がその後一体どうなったのかというのは、当然僕らも見たいと考えていました。2人が夫婦として生活していく中で、様々なことを話し合う姿は、いろんな生き方のヒントになるようなテーマが描けるのではないかと、連続ドラマを終えた直後から、続編はイメージしていて。原作の漫画でみくりと平匡が親になっていく様が描かれ、あとはそれをどうドラマとして描いていこうかと、海野つなみ先生や脚本の野木亜紀子さんともご相談していたところ、みなさんもご存知の通り世の中が大きく変化した2020年がやって来ました。このタイミングにこそスペシャルドラマを届けていこうということになったんです。

――金子監督は、新春スペシャルの制作が決まったときはどのようなお気持ちでしたか?

金子文紀(以下、金子):「いつか」とずっと思っていて、4年経っちゃっていたので、「やっと来た」という感じですね。個人的にも大好きな作品で、連続ドラマを終えたときも達成感がすごくあったので。ようやくできるという喜びがありました。

――脚本を担当された野木亜紀子さんとは、どんなことをお話されたのでしょうか?

那須田:原作漫画でも描かれていた夫婦別姓や育児休暇取得、保活、分担家事……と、多くのご夫婦に結婚した先に起こりうる、様々な課題をちゃんとテーマにし、家族というものを『逃げ恥』らしく描いて行ければという話をしました。また、今回は2019年から2020年を舞台にして、今の日本の現状をちゃんと反映させてお話を作っていきましょう、と。

――監督としては、今回のテーマをどう感じられましたか?

金子:物語としては、連続ドラマの最終回から2年後として始まっているんですけれど、やっぱり年相応というか、以前と同じ“ムズキュン”ばかりもしていられないというか。どういうところにみくりらしさ、平匡らしさ、2人らしさ、『逃げ恥』らしさを出して描いていくのかというところに一番頭を使いました。2人が社会に対して持っている視点、問題意識を失うことなく、親になっていく姿をちゃんと描かないといけないなと。その結果、2人らしいやりとりにキュンがあるのかもしれないけれど。前のようなキュンとはまた違うものにはなっていると思います。

“家族として生きるとなったら、みくりと平匡はどうするの?”が見たい

――年相応というお話がありましたが、演出上意識されたことはありますか?

金子:現実と向き合って、それに対して自分なりの考えを持って生きるということを、きちんと描こうと意識しました。連続ドラマのときは、みくりも平匡もすべて自己責任の人だったんですよ。自分で決めたことが、他人に影響するっていうことはなかったから。何を言っても、どう生きても、すべては自分の責任。でも、結婚をして、家族となり、子どもが生まれるとなると、自分だけではない環境に変わっていく。住む環境も職場も変わるし、何より自分だけじゃなくて、家族として生きていかなくちゃいけないってなったとき、“さあ、みくりと平匡はどうするの?”と。家族になると自己責任じゃ片付かないめんどくさいことが出てくる。それって世間一般、世界人類、みんなが抱えているけれど、あの2人ならどうするんだろうっていうところを見せるのが、今回の『逃げ恥』かなと思っています。その先、生まれた子どもが受験、就職、そしてもしかしたら孫が生まれるかもしれないっていうところまで、人生が続くことに思いを馳せながら挑みました。

――新垣さん、星野さんとは役作りについて何かお話されましたか?

那須田:連続ドラマをやっていたので、それぞれのキャラクターなどはすでにご理解いただいていると思いましたので、その先の今日的なテーマを描く上で何をどういうふうに二人は語り合っていくかという点について、こちらのイメージしていることをお伝えしました。当然、そこからいろいろなアイデアが出てきますから、撮影の前はいつもそうしたやり取りをしていました。

――4年ぶりとなる撮影現場の様子はいかがでしたか?

那須田:キャストもスタッフも、再会できたのは嬉しい限りでしたが、やはり4年前とは違う場面もたくさんあることを感じました。いろいろなことに注意しながら撮影を進めなくてはいけないので。そういう意味では、みんな慎重にアプローチしていきましたが、やはり撮影が進むにつれて、絆というか、言わなくても通じ合うみたいなところがたくさんあるのを感じました。密にならない盛り上がり、気持ちの中での共有、心のハグのようなものが『逃げ恥』の現場にはあると感じました。キャストのみなさんも4年ぶりに同じキャラクターを演じるというのは、当然ご心配はあったと思います。でも、新垣さんと星野さんが今回最初に二人一緒に演じられるシーンの撮影をしたとき、物語の中でも大事なシーンでもありましたが、スッとその不安が解消されたように見えました。このスペシャルドラマの世界観におふたりが一気に入っていかれたのかなと感じた瞬間でした。

――撮影時、スタッフからも新垣さんに「みくりさんでした」という声が上がっていたとお聞きしました。

金子:新垣さんも星野さんもクランクインのときは、非常に緊張されていたんですよ。すごく表情も硬くなっていましたし、その緊張感がこちらにも伝わってきて、現場にいる全員が緊張している状態でした。なのに、最初に撮影したのが、結構ハイテンションの芝居でいかなければならないシーンで(笑)。心配しながらも、いざカメラを回してみたら、とっさの反応で出た表情がみくりと平匡だったんです。ファーッとその顔になっていくのを見て、“戻ったー!”と思いました。カットした瞬間、思わず2人に「(みくりと平匡に)戻ったよ!」と言いに駆け寄って。監督として、“これでいいんだ”っていうことを2人に伝えないといけないっていう使命感みたいなものに突き動かされた感じでした。あれは嬉しかったですね。すごく嬉しかった! ちょっと涙出そうになっちゃった。

「いろんな人がこの世にいていいんだ」を『逃げ恥』らしく発信したい

――改めて、おふたりの魅力を教えてください。

那須田:どんなご家庭でも、結婚して生活がスタートしたら、いろいろなことが起こるわけじゃないですか。そういうのを、彼らなりにクリアしていく姿が魅力的だったのが『逃げ恥』だと思うので。成長していくお芝居が素晴らしく、そうした面で年齢を重ねた姿というのも含めて魅力的だなと改めて感じました。

金子:やっぱりおふたりが持つ謙虚さや誠実さ、相手に対する誠意、もともと他者に対して好意的に向き合おうとしてる姿勢というか、ご本人が持っている人柄の良さが、みくりと平匡にすごく出ていると思うんです。だから、みんな共感してくれるんだろうなと、連続ドラマをやりながら感じていました。基本的に日本人って、やっぱり真面目で勤勉な人が多くて、でもそういう人たちってなかなかドラマにはなりにくいんです。でも、その真面目で勤勉な日本人を、あのふたりが誠実に演じたことに、あれだけ多くの支持に繋がったんじゃないかと。新垣結衣と星野源という超人気者だけど、やってることがすごく地味っていうのも、いいなと思います。

――連続ドラマのときには、沼田さんを演じる古田新太さん、日野さんを演じる藤井隆さんのアドリブ合戦で、星野さんが笑いをこらえるのに大変そうでしたが、今回もそうしたシーンはありましたか?

金子:沼田さんは今回、かなりセリフ量が多くて、前回ほど余裕がなかったですね。変顔はよくしてくれましたけど(笑)。対して、今回は日野さんの暴走感がすごかったですね。ずっとハイテンションで。なので、3人が絡むシーンは、相変わらず楽しい雰囲気に仕上がっているので、ぜひ期待して見ていただければと思います。

――石田ゆり子さん演じる百合ちゃんも多くの視聴者から支持されたキャラクターですが、今回もキーとなってきますか?

金子:そうですね。百合ちゃんは好きな仕事に生き、子を持たないという選択をしてきたわけですが、改めて人生を真正面から考えるきっかけがやってきます。そのきっかけ自体は残念なことではあるのですが、最終的には本人の希望通り生きているのだから悲しいことではない。でも、描き方によっては同情を誘う話にもなりうる。そうすると、きっと似たような境遇にいる女性からしたら「放っといてよ」ってなってしまうな、と。どうやって百合ちゃんの話を描いていくかは、最後の最後まで悩んだところです。でも、とにかく「湿っぽくしたくないね」というのが、スタッフ陣も演じる石田さんも共通して思っていたところで。きっと泣ける音楽をかけて、涙する場面にするのは手っ取り早いんですが、それをやったら『逃げ恥』じゃなくなるよなって。それを見誤らないようにしようね、と言いながら撮影をしました。それでも、似たような境遇の女性から「私の生き方をネタにしないでよ」みたいに思われたらどうしようっていう思いもまだあるので。そこが今回のドラマとしても一番の勝負所だと感じています。

――今回、西田尚美さんと青木崇高さんが新キャストとして参戦されますね。

那須田:西田尚美さん演じる、百合ちゃん(石田ゆり子)の高校時代の同級生・花村伊吹も、青木崇高さん演じる平匡の新しい職場の上司・灰原慎之介も、原作に登場しているキャラクターです。原作を読んでいるときから、どういう方がいいのかなと思っていたんですが、西田さんなら、実際の旧友のような関係性をナチュラルに演じられるのではないかと思いました。青木さんは「ひっかきまわしてやろうと(笑)」とコメントを寄せてくださっていたように、悪気なく平匡の心を大いに乱してくれました。

――2人の新しいキャラを通じて、複雑な社会が『逃げ恥』らしく軽やかに描かれるのではと期待しています。

金子:そうですね。『逃げ恥』って、「いろんな人がこの世にいていいんだ」「多様な価値観を受け入れよう」っていうところから始まってる話だと思いますので、当たり前のことのようにLGBTの話も出てきますし、「男とは」「女とは」をまっすぐに話し合う場面もあります。それぞれの思いがすんなりと受け入れられて、心が開放されていく姿を描くのが『逃げ恥』らしさ。社会の中にある様々な問いに対して、特別なことじゃなく身近なこととして感じてもらえるように、そして説教くさくならずできるだけ気楽にニコニコしながら見てもらえるように、意識して作っています。

2020年を超えていけ! 生きるヒントや勇気をもらえるドラマに

――『逃げ恥』といえば、やはり「恋ダンス」ですが、今回も期待してよろしいでしょうか?

那須田:もちろんです。当然、主題歌は「恋」。そして今回らしい「恋ダンス」を考えていますので、ご期待ください。

――みくりさんの妄想シーンも人気ですが、今回もありますか?

金子:あります。どのシーンもお気に入りですが、個人的にはド頭のスタートから妄想シーンが飛び出すところが好きなので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

――連続ドラマの際には小道具にも細かな遊び心が詰まっていて、繰り返し見る楽しみをファンに届けていました。今回もそうした部分はありますか?

金子:スタッフもノリノリで作っているので、今回もいろいろと潜んでいますが、これは見て気づく人のお楽しみですからね。ここでは秘密にしておきましょう(笑)。

――そんな息の合ったチーム『逃げ恥』とは、改めて2020年に直面したリアルタイムな課題を描くのは難しい部分もあったかと思います。そこに向き合った理由は?

那須田:今まさに現在進行形で起こっていることも多く、放送するころにはまた世界がどうなっているのかわからない部分もあるので、丁寧にいろいろなことを調べながら進めていく難しさは確かにありました。それでも、やはり2020年は世界レベルで大きな変化がありましたし、それは当然各家庭にも影響を及ぼすもの。そうした今起こっていることをちゃんとテーマにするというのも『逃げ恥』のいいところだと考えています。その点は野木さんからの提案もあり、私たちも思っていたところだったので、スッと形にすることができました。俳優さんたちがスッとバージョンアップした『逃げ恥』の世界に入っていけたように、私たち制作陣も4年のブランクを感じることなく、どんどん「あれはこう描こう」「あの問題も取り扱おう」とアイデアが出て、生産的な議論ができたのも、「『逃げ恥』を作るのだから!」という想いが一緒だったからだと感じています。

――タイトルの「ガンバレ人類!」に込められた想いについてもお聞きしたいです。

那須田:この「ガンバレ人類!」っていうのは、野木さんが書かれた最初の台本にさらっと入っていたんですよね。ちょっと大きく出ているけれど、この2020年はそれぞれの家族にとっても本当に大きな問題だったと思いますし、人が幸せを目指して生きていくという意味では「頑張ろうね、みんな」っていうのが一番共感できるワードかなと思い、そのままいただきました。

――見どころとも言える、金子監督のお気に入りシーンはありますか?

金子:手を振るところですね。みくりと平匡が2人が手を振るシーンが大好きなので、ぜひ注目していただきたいです。

――最後に、視聴者のみなさんへメッセージをお願いします。

那須田:結婚して、家族を作っていく中で、どのご夫婦にも起こりうる課題に、みくりと平匡がしっかり話し合っていきます。若い方にはこれから起こりうるかもしれないし、今ご家庭をお持ちの方にはもしかしたら現在進行形のテーマかもしれない。いろんな世代に対して、今の世の中の姿をとらえながら新しい年を頑張って生きていくヒントや勇気をもらえる、そんな『逃げ恥』らしい見どころがたくさんありますので、ぜひ2021年の幕開けにご覧いただければと思います。

■放送情報
新春スペシャルドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』
TBS系にて、2021年1月2日(土)21:00〜23:25放送
出演:新垣結衣、星野源、大谷亮平、藤井隆、真野恵里菜、成田凌、古舘寛治、細田善彦、モロ師岡、高橋ひとみ、富田靖子、宇梶剛士、西田尚美、青木崇高、古田新太、石田ゆり子 ほか
原作:海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社『Kiss』所載)
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:那須田淳、磯山晶、峠田浩、勝野逸未
演出:金子文紀
音楽 :末廣健一郎、MAYUKO
主題歌:星野源 「恋」(スピードスターレコーズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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