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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

ついに公開延期、休館もでたコロナ・ウィルスの映画界への影響と、そんな渦中で封切られるKADOKAWAの問題作『Fukushima 50』の行方。

毎月29日掲載

第19回

20/2/29(土)

ついに、映画の公開延期と都内の映画館の上映中止が相次いできた。延期の映画は、『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(3月6日公開)と『映画しまじろう「しまじろうと そらとぶふね」』(2月28日公開)。中止の映画館は、岩波ホール、Bunkamura ル・シネマ、早稲田松竹だ。もちろん、新型コロナウイルスの拡大防止のためである。映画界だけの話ではないが、とにかく大変なことになりつつある。映画館の期間でいえば、岩波ホールが2月29日から3月13日まで。ル・シネマが2月28日から3月10日までの休館としている。2月28日の時点では、大手の興行会社も、今後の営業のあり方について、近日中に基本方針を固める見通しとの話も入ってきた。

この2、3日で、潮目が大きく変わった。新型コロナウイルスに関し、2月25日に政府が公表した基本方針から大きく踏み出て26日、首相は今後2週間、大規模イベントなどの中止や延期を要請した。これにより、音楽ライブやスポーツの試合などが一気に延期や中止に追い込まれた。映画界への直接的な要請は、今のところないが、今回の映画公開延期、映画館の臨時休館の措置は、明らかに首相の要請を受けてのものだろう。延期や中止ばかりではない。今週から公開された邦画の初日舞台挨拶も、三池崇史監督の『初恋』などで中止となった。映画に関連した各プロモーションやイベントも、開催ができない状態である。マスコミ試写も、一部で行われなくなっている。3月6日開催予定の日本アカデミー賞の授賞式も、観客やマスコミ関係者の入場なしで行われることになった。製作面では、撮影の延期を余儀なくされた作品も出ている。

新型コロナウイルスの多大な影響が、ついに映画界に押し寄せてきたと言えるだろう。先週段階では、シネコンの営業担当者に聞くと、今のところ集客に目立った影響はないということだったが、今後はかなり厳しい局面が出てくると思われる。すでに、全体的に観客に年配者が多いミニシアターは、先週の時点でさえ、集客を大きく落としていると聞いた。1日に数万円しか興収が上がらず、死活問題になってきたという劇場もある。ギリギリの営業を続けている単独経営のミニシアターや名画座の今後が非常に気にかかる。

『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』(C)2020『Fukushima 50』製作委員会

このような事態なので、個別の作品や映画館の今後の動向は全く不透明になった。作品でいえば、ファミリー層や年配者向けの作品が、とくに影響を受けるだろうことが推測される。なかで、ひと際気になる作品がある。3月6日から公開される『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』だ。2001年3月11日、東日本大震災により起こった福島第一原発の事故を描く。原発の暴走を食い止めようとした原発作業員の不屈の精神と行動力が、日本の脆弱極まる国家システムを、期せずしてあぶりだしていく素晴らしい作品である。堂々たる社会派作品であることから、今までの興行実績を踏まえると、どうしても客層は年配者中心になることが予測される。今の状況下で、本作がどこまでの興行的な成果を上げることができるのか、全く予想がつかなくなってしまったのである。

配給は、松竹とKADOKAWAの共同だが、製作の中心はKADOKAWAが担った。同社の映画事業を少し振り返れば、本作が同社にとって、興行成果の行方もさることながら、製作面においてもとても重要な位置づけにあると言える。この会社はそもそも、旧角川映画、大映、日本ヘラルド映画、角川書店という会社を土台にしてできた製作、配給会社である。そのいわば4つの会社=組織のDNAを受け継ぎ、これまでの映画事業を展開してきた経緯をもつ。それが顕著なのがとくに邦画で、『沈まぬ太陽』(2009年)は、大映の『白い巨塔』と同じく山崎豊子の原作作品。『犬神家の一族』(2006年)や『セーラー服と機関銃 -卒業-』(2015年)は、言わずと知れた角川春樹氏時代の角川映画の系譜につながる。『失楽園』(1997年)や『リング』(1998年)などは、角川歴彦氏が率いる新角川映画が製作の中心を担ったが、2002年に大映、2005年にヘラルドを傘下に入れていく過程で、製作のバリエーションも増えていった。『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』(2016年)や『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2017年)などが、それらにあたる。その新たなプロジェクトが、今回の『Fukushima 50』になるというわけである。その大注目作が、今回の新型コロナウイルスの蔓延により、大きな試練に立たされている。

「読んでから見るか。見てから読むか」。今回、映画の主演者の一人、佐藤浩市が登場する角川書店のテレビCMで、映画の宣伝とからめて、このキャッチフレーズが出てきたのには驚いた。1970年代後半、元祖・角川映画が映画宣伝で大々的に使っていたフレーズだったからだ。そうか。角川歴彦氏のKADOKAWA=角川書店は、まさに映画の原点に立ちかえろうとしているのか。そんな思いが沸き上がってきて、感無量だった。まさに、本作にかける強い意欲が、まざまざと伝わってきた。

先に記したように、映画の中身は日本の国家システムを鋭く撃つ構造をもっている。その見事な志をもつ作品が、このような状況下で公開される。もちろん、すべての作品が同じ状況なのだが、進行中の日本の現実と、作品の中身がオーバーラップしていく局面があるという意味からも、本作のスケール感はとてつもない。だから、一段とその動向が気にかかるというわけだ。とにかくこれから先、映画はいったいどうなっていくのだろうか。全く未曾有の事態である。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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