Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

米津玄師の創作活動はより自由になったーー対照的な2曲並ぶ『Flamingo / TEENAGE RIOT』評

リアルサウンド

18/11/10(土) 10:00

参考:2018年11月12日付週間シングルランキング(2018年10月29日~2018年11月4日・ORICON NEWS)

 最新のオリコン週間シングルランキングは、米津玄師の両A面シングル『Flamingo / TEENAGE RIOT』が228,566枚を売り上げ1位を記録した。続く2位のGENERATIONS from EXILE TRIBE『少年』が71,906枚、3位のSF9『Now or Never』が45,532枚なので、1位が2位以下に大差を付けた週であった。これで米津玄師は、CDシングルの週間売上では初の1位獲得となる。

(関連:米津玄師、GReeeeN、BIGMAMA……個性的なソングライティングが光る男性シンガー

 ハチ名義で作品をニコニコ動画へ投稿していた2000年代を経て、2013年に現在の名義でメジャーデビュー。2015年には3rdアルバム『Bremen』がオリコン1位を獲得するなど右肩上がりの人気を見せて今に至る。これまでの彼の音楽活動には「ポップなものを作りたい」という目標が一貫してあったという。そのひとつの到達点が前作「Lemon」(TBS系ドラマ『アンナチュラル』主題歌)のヒットであった。

「ずっとここ最近はポップなものを作るというのを第一目標としてやってきてたので。作る曲作る曲、全部が自分の身体性や精神性を飛び越えて、色んなところへ届くようなものを作りたいと思ってやってきた。それがようやく叶ったという実感を覚える曲が『Lemon』になった」(「米津玄師 F / T RADIO」より)

 「Lemon」はデジタル領域でのチャート成績が好調で、これまでにさまざまな指標で軒並み記録を塗り替えている(参考:米津玄師『Lemon』、なぜロングヒット? 初のDLミリオン突破&歴代最高DL含む快挙から紐解く)。自身最大のヒットソングとなったばかりか、2018年のJ-POPを代表する1曲にまでなりつつある「Lemon」に続き、否が応でも世間の注目が集まる中での新曲発売、それが今回の両A面シングル『Flamingo / TEENAGE RIOT』というわけだ。

 さて、その2つの表題曲を見ていこう。

 「Flamingo」はまず一聴してストレートな楽曲ではない。これまでのシングルで見せてきたポップなスタイルからは少し距離を取り、自由な発想による曲作りが目立っている。それでいて“フラ、フラ、フラ、フラミンゴ”というサビのフレーズがキャッチーで「クセになる」という感想が多いようだ。

 冒頭からきれいに“i”で韻を踏んだ言葉遣いは〈宵闇に〉、〈爪弾き〉、〈悲しみに〉、〈鼻垂らし〉から〈ねこじゃらし〉、〈常しえに〉、〈おくんなまし〉、〈猿芝居〉……と曲全体に渡る徹底ぶり。巻き舌やリップロール、サビ直前のピッチベンドなど、楽曲アレンジには終始おどけた姿勢が表れている。例えば、2番に入る直前に登場する“あ、はい”は本人曰く「怒られているけど自分は絶対に悪いと思っていない“あ、はい”」だという。そうしたところどころに挟まれる挑発的な声ネタに、乾いたファンク調のサウンドが合わさることで、リズミカルながらも殺風景で冷淡な印象を与えている。

 こぶしを多用したボーカルや、島唄や日本の民謡に影響されたというメロディからは日本的な印象を受ける。ただし、たしかに和風な世界観ではあるが、“桜が美しく舞い散る”ような紋切り型の理想的日本像ではなく、この曲がスポットライトを当てているのは日本(人)が持つ暗い・汚らしい側面といった趣だ。

 そもそも歌詞の内容は遊女狂いに耽るみじめな男の歌とも解釈できる。女が商売でやっていることを知っていながらも、なお男はその遊びから抜け出せない。自己犠牲的に男が貢ぐその“フラミンゴ”は、〈鮮やか〉であり同時に〈恐ろし〉いとも歌うのだ。そして、古語を散りばめたそれまでの古風な表現から急に現代語に移る〈下らないこのステージで光るのは あなただけでもいい〉という一文があることで、単なる日本的なテイストを取り入れた楽曲である以上に、現代の人々に向けられた社会風刺すら浮かび上がるものになっている。

 「みっともない自分を出せた方が自由に生きれる」「(レコーディング中)ゲラゲラ笑いながら作った」と語る米津。おそらくそこには、「Lemon」で纏わり付いたある種の“神聖な”イメージからの脱却という意識があったのではないか。

 では、「TEENAGE RIOT」の方はどうか。

 こちらは打って変わってストレートなロック調。Bメロで重厚なバンドサウンドの上で〈今サイコロ振るように日々を生きて ニタニタ笑う意味はあるか〉と気怠げに歌うと、〈愛していたんだ〉で急激に声色を変えてサビへと雪崩れ込む。疾走感のある激しい演奏をバックに彼の叫ぶように歌う姿が印象的だ。

 この曲を作った背景にはネット社会のシニカルなムードに対する彼なりの思いがあったのだという。サビには中学時代に作った曲のメロディをそのまま使用したというエピソードは、初期衝動を歌うこの曲のテーマにリンクする。つまり、生きづらい現代で苦しむ人々、特に彼のファンに多いネットをよく使う若者たちへ向けた彼なりのメッセージソングと言えるだろう。

 人間のみっともない姿を描いた変化球的な「Flamingo」。若者への思いをストレートに歌い上げた「TEENAGE RIOT」。今回のシングルはある意味、対照的な2曲をA面に並べている。片方では暗く怪しげな楽曲を歌い踊り、もう片方ではその雰囲気を打ち砕くような力強い1曲に仕上げている。このバランス感覚こそが今彼が多くの人々から支持されている理由なのだろう。大仰な一枚岩のポップソングひとつにまとめるのではなく、陰と陽、清濁合わせた2曲セットでひとつの作品として世に放っている。

 また、これまで一貫してポップなものを目指しきたこと、そしてそれが前作でしっかりと結実したことが、今現在の彼の創作活動を自由なものにさせているのだろう。ここ数年の彼の活動はネット世代のロードモデルとなりつつある。「Lemon」で世間から一度表現者として認められたことで、一転して“与える側”へと回り、今作は広く世の中に訴えかける楽曲となった。米津は「弱い自分、みっともない自分を、ちゃんと肯定してあげないといけないのかな」とも語る。

 最後に、カップリング曲の「ごめんね」にも触れておこう。先日幕張メッセにて行われたライブ『米津玄師 2018 LIVE / Flamingo』では、アンコールで披露され大合唱に包まれたこの曲。重低音が特徴的なEDM風の構成だが、もともとは彼がハマっているゲームのイメージソングとして作ったのだという。

 今回収録された3曲の中では最も“自分による自分のための”楽曲であるが、それを機能的にはまったく真逆とも言える“合唱サビ”の楽曲として作り上げている点は何とも言えない面白さがある。自分のための歌こそポップに仕上げる――そんな一筋縄ではいかない発想が、彼の魅力を単純には語り得ないものとしているように思う。(荻原梓)

アプリで読む