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『呪術廻戦』アニメ化で人気爆発!? 原作の魅力を大きく膨らませた、“死”をめぐる問いかけの強調

リアルサウンド

21/1/7(木) 8:00

 アニメ化された『呪術廻戦』が好調だ。『週刊少年ジャンプ』で好評連載中の『呪術廻戦』は、芥見下々によるオカルトバトル漫画。

 呪霊を祓う呪術師たちの活躍を描いた本作は、「呪いの王」と呼ばれる特級呪物・両面宿儺を身体に宿した少年・虎杖悠仁が都立呪術高専に入学し、師匠にあたる五条悟の指導の元で呪術師として成長し、伏黒恵、釘崎野薔薇たち高専の呪術師たちと共に呪霊と戦う姿が描かれている。

 すでに『ジャンプ』では人気作品だったが、アニメ化によってファン層を一気に広げ、単行本の累計発行部数は1500万部を突破。書店では売り切れ続出となっている。『呪術廻戦』は、複雑なバトル漫画を好む『ジャンプ』読者からは熱狂的な支持を得ていたが、呪術師と呪霊をめぐる世界観や、呪術の描写が細密過ぎてわかりにくいため、食わず嫌いの読者も多かった。

 「死」というテーマも、少年漫画の題材としては重たいもので、果たして万人向けに開かれた作品かと言うと、答えに詰まる。ただ、アニメ化されることを知った時は「これで、人気が爆発するだろうな」という確信があった。

 理由はもちろん、2019年に『鬼滅の刃』がアニメ化されたことで人気が急上昇したという先行例があったからだ。一見、とっつきにくく見えた原作漫画が、制作能力のあるアニメスタジオが映像化することでポピュラリティを獲得するという現象が『呪術廻戦』でも起こるのではないかと、期待していた。

 アニメ版『呪術廻戦』を制作するのは、『ユーリ!!! on ICE』、『どろろ』、『さらざんまい』等の傑作アニメを手掛けたMAPPA。2016年にヒットしたアニメ映画『この世界の片隅に』を制作するために作られたアニメスタジオで、映像のクオリティは折り紙付きだ。

 今回も、呪霊の不気味な描写や虎杖たち呪術師のド派手なアクションが実に見事で、アニメの基本である動きに関しては完璧な仕上がりだと感じている。何より感心するのは、アニメスタッフが原作漫画の肝を理解した上でアニメ化の際に物語の構成をうまく組み替えていることだ(以下、ネタバレ含む)。

 たとえば第1話。原作では宿儺の指が封印されている百葉箱の場所に呪術師の伏黒恵が向かう場所が冒頭で、その後、心霊現象(オカルト)研究会の部室で、こっくりさんをしている虎杖と部員の佐々木と井口の姿が描かれる。対してアニメ版では、原作の第2話冒頭にあたる、宿儺を取り込んだ虎杖が五条悟に尋問されている場面からはじまる。その後、OP主題歌が流れて第1話冒頭に戻るのだが、そこで描かれるカットは学校ではなく、家から(祖父が入院している)病院に虎杖が電話する姿。さらに、伏黒の百葉箱のカットと学校のカットが入り、病院に向かう時に見舞い用の花束を買うシーンが挟み込まれる。そこで原作通りに祖父から「オマエは強いから人を助けろ」と言われる。そして、「オマエは大勢に囲まれて死ね」「俺みたいになるなよ」と言った後、祖父は命を落とすのだが、このあたりの描写はとても丁寧で、虎杖にとって「祖父の存在がいかに大きかったか」が、原作よりも深く伝わるように強調されている。

 寿命を全うした祖父の死を「正しい死」、呪霊に殺される理不尽な死を「間違った死」と感じた虎杖は、せめて「正しい死」を人々が送れるようにと願い、呪霊と戦うことを決意する。

 原作では激しい戦闘やキャラクターが魅力的なあまり、やや印象が霞んでしまった「死」をめぐる問いかけだが、アニメ版ではエピソードの並びを変えて、強調するポイントでは尺を取って丁寧に見せることで「正しい死」「正しくない死」をめぐる葛藤がより際立つように描かれている。この第1話のテーマ設定がしっかりできているからこそ、後の物語でも虎杖の「死」をめぐる葛藤が際立ち、強い緊張感をもたらすことに成功しているのだ。

 また、呪霊との戦闘場面にも細かい修正が施されている。虎杖が呪霊を倒すために(高い呪力を得るために)宿儺の指を口の中に入れる場面は、漫画ではあっさりしているが、アニメでは呪霊に捕まり、絶体絶命のピンチを脱出するための選択であることが強調されている。この1話だけ観ても、原作漫画の魅力を損なわない範囲での修正が実に見事だ。

 アニメ版が大きく注目されるきっかけとなった、五条悟が目隠しをとって素顔を見せた後、領域展開「無量空処」を披露する場面もアニメならでは見せ方となっている。漫画では2ページ見開きのカットだが、下のコマでショックを受ける特急呪霊・漏瑚のアップが描かれているため、意外とあっさりしている。対してアニメ版ではここぞとばかりに尺を取り、派手なエフェクトでみせている。

 このように、アニメ版『呪術廻戦』は物語、テーマ、キャラクターは原作通りなのだが、見せ方を細く変えることで、原作の魅力を大きく膨らませている。1月からアニメ版は2クール目に突入し、本誌の連載もかつてない盛り上がりを見せている。2021年は『呪術廻戦』の年となりそうだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送・配信情報
『呪術廻戦』
MBS/TBS系にて、毎週金曜深夜1:25〜放送中
Amazon Prime Video、dTV、Netflix、Paravi、U-NEXTほかにて配信中
原作:『呪術廻戦』芥見下々(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:朴性厚
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史
副監督:梅本唯
美術監督:金廷連
色彩設計:鎌田千賀子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:兼田美希、木村謙太郎
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳圭介
音楽:堤博明、照井順政、桶狭間ありさ
音響監督:藤田亜紀子
音響制作:dugout
制作:MAPPA
(c)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:https://jujutsukaisen.jp/#index

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