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パートナーでオスカー像を争う! N・バームバック×G・ガーウィグの“自伝”にとどまらない豊かな創造性

リアルサウンド

20/1/26(日) 12:00

 1月13日、第92回アカデミー賞のノミネーションが発表された。今回のオスカー作品賞候補作に名を連ねたのは、ノア・バームバック監督『マリッジ・ストーリー』とグレタ・ガーウィグ監督『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』。バームバックとガーウィグはこれまで数々の共同創作を行っており、私生活でもパートナーとして知られている二人だ。公私ともに現役パートナー同士の監督が作品賞を争うのは、アカデミー史上初となる。

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 両者の作品に出演し『マリッジ・ストーリー』では自身も助演女優賞のノミネートを果たしているローラ・ダーンは、その関係性を「彼らは別々の作品に取り組んでいるときでも、華麗に協力しあっている」と話しているのだが、現在の映画界を牽引する映画監督パートナーが互いに及ぼす影響とはどんなものだろうか。

■ノア・バームバックとグレタ・ガーウィグ、その出会いと歩み
 ウェス・アンダーソンとの共同脚本執筆作『ライフ・アクアティック』(2004)で注目を浴び、監督作『イカとクジラ』(2005)でアカデミー脚本賞を獲得したバームバックと、マンブルコア運動(2000年代のインディペンデント映画シーンを台頭したジャンルの一つ、若者の日常をリアルに描く内容が特徴)の“イット・ガール/ミューズ”として知られていたガーウィグが出会うきっかけとなったのは、2010年にバームバックがメガホンをとった『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』だった。

 同作に出演したガーウィグが、主演とともにバームバックと共同脚本を執筆した2012年の『フランシス・ハ』はアメリカで当初4館だった上映規模を233館にまで拡大するなど、批評家のみならず観衆からも強い支持を受ける。

 その後もNYで挫折を経験しながら互いに支えあい生きる女性たちの姿をコメディタッチで描く『ミストレス・アメリカ』(2015)で共同製作・脚本執筆するなどコラボレートののち、バームバックはダスティン・ホフマンやエマ・トンプソンら豪華出演陣を主要キャストに迎えた『マイヤーウィッツ家の人々』(2017)など、そしてガーウィグは自身初の単独長編作品『レディ・バード』で女性監督として史上5人目のアカデミー監督賞候補となり、それぞれの才能を発揮させ高い評価を得るフィルムメイカーとなった。

■個人の物語を越える両者の作家性
 二人が持つ共通の作家性としては、どちらも個人性に即した物語を重んじながら、新たな視点や価値観を取り入れることで、自伝を越えた創造性あふれる作品となっていることが挙げられる。

 例えばバームバックの初期作、両親の離婚を通じ成長を迫られる息子達の姿を描いた『イカとクジラ』は4度の離婚経験がある実父を持つバームバックの半回顧録と言われるが、家族の別離を子供の視点から語ると同時に、“家庭生活の再定義”を提示するといった俯瞰の眼差しも感じられる。

 また『マリッジ・ストーリー』も夫婦の終焉をテーマに据えており、こちらも前妻との別れを経験した彼自身の実体験が基にありながら、「この映画は、(夫婦のどちらかの)味方でいるということの愚かさを示している」「本作で一番重要な要素は離婚そのものではなく、“やり直す”こと」と監督コメントにあるように、主観から離れた表現への昇華が見てとれる。

 特に、妻ニコールが女優としての野心を抱えながらも舞台監督である夫チャーリーの劇団に縛り付けられ、自己の価値を見いだすことが出来ない葛藤が描かれている点は、元夫としての経験を表すのみでなく、現代社会における女性の立場と既存の家族観とのねじれを捉えている。

 ガーウィグもまた『レディ・バード』において、故郷カリフォルニア・サクラメントにあるカトリック系の私立高校に通っていた彼女の姿を主人公に投影している一方、本人が「実際の私はレディ・バードのように破天荒な行動はせず、静かな学生生活を送っていた」と話すように、創作性を持ってレディ・バードのキャラクター要素を膨らませていったようだ。

 同作に込められた思いを、彼女は「“少年時代”とは誰のためのもの? 少女にとっての人格形成を描く作品はどこにあるのでしょうか」と語ったが、長らく“イットガール/ミューズ”という異名を背負わされた自身の経験が、少年から見つめられる存在としての少女ではなく、少年を見つめ、母親とのすれ違いや将来に思い悩む存在としてのレディー・バード像の創造へと繋がったのではないだろうか。

 そして最新作『若草物語』はルイーザ・メイ・オルコットによる原作がベースとなっており、同書はこれまでにも映画化がなされているが、登場人物の四姉妹に女性監督ならではの特別な想いが込められることで全く新しい『若草物語』が誕生した。中でも次女ジョーにフィーチャーした語り口であることがガーウィグ版の特徴となっているが、「女性が表現なんて」という周囲の声をよそに「世界に通用する作家になる」と志すジョーには、19世紀に生きた女流作家オルコットとともに、ガーウィグの姿が表されているように思う。

 また彼らの他に、バリー・ジェンキンス(『ムーンライト』)×ルル・ワン(『フェアウェル』)やボー・バーナム(『エイス・グレード』)×ローリーン・スカファリア(『ハスラーズ』)など、近年実生活のパートナーである監督達がシーンを盛り上げ注目を集めているが、この動きは過去ジェンダーバイアスの強かった映画製作現場がガーウィグらの躍進によって変化が起こりつつあることを示唆するものだろう。

■各作品に見られる、表現者同士のリスペクト
 両者の与える影響からは、表現者として互いにリスペクトを向け合う二人の姿勢が見受けられる。

 『マリッジ・ストーリー』はバームバックの単独監督・脚本作となっているが、脚本執筆においてガーウィグの助言はあったかと問われ「助言なんてものじゃない。僕が手がけた映画には、彼女発の台詞がいっぱいだ。彼女が何か言ったり書いたりするたびに“それ使ってもいいかい?”と聞くんだよ」と答えた。

 また過去に「映画監督は孤独であるために、大変な職業だ。マイク・ニコルズは、監督には良き仲間が必要だと言ったけど、その通りだよ」と語ったが、自身のパーソナリティを見つめる孤独な作業とともにウェス・アンダーソン、そしてガーウィグといった“良き仲間”の声を聞き、視野を拡げ、創作に活かすバームバックによる表現者としての柔軟性がうかがえる。

 ガーウィグも、『若草物語』の製作背景について「彼と私が与え合う影響を作品の中に見ることはとてもエキサイティングな経験」「彼の作品であっても自慢したくなることがある。『レディ・バード』や『若草物語』でもラッシュ段階のものを彼に見せていたんだけど、それは彼が私の一番好きなフィルムメイカーだから」と答えて尊敬の念を表した。

 それぞれの最新作でともにオスカー像を争う二人は、『スキャンダル』において同賞で助演女優賞候補となっているマーゴット・ロビー主演作『Barbie(原題)』の共同脚本で再びコラボレートすることがアナウンスされている。

 影響を与え合いながらユニークな作家性を拡げている監督パートナーが世界中から愛されるアイコニックな存在・バービー人形の姿を通じ提示する物語の行方に、早くも期待が高まる。

●参照:
・https://www.nytimes.com/2017/11/01/magazine/greta-gerwigs-radical-confidence.html
・https://www.theguardian.com/film/2013/jul/13/greta-gerwig-frances-ha
・https://www.hollywoodreporter.com/features/greta-gerwig-noah-baumbach-are-making-history-oscars-season-1261857
・https://www.theguardian.com/film/2019/dec/01/noah-baumbach-marriage-story-divorce-hope
・https://youtu.be/4iLtjMwkOlg

■菅原 史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。

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