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どうしようもない現実を抱えるデリヘル嬢たちーー『フルーツ宅配便』を見守る濱田岳の奮闘

リアルサウンド

19/3/29(金) 18:00

 テレビ東京系「ドラマ24」枠で放送されている『フルーツ宅配便』が最終回を迎える。デリバリーヘルス店「フルーツ宅配便」を舞台に、濱田岳演じる主人公・店長代理(後に店長)の咲田と、そこで働くデリヘル嬢たちの姿を描く群像劇だ。原作は鈴木良雄による同名コミック。『孤狼の血』、『麻雀放浪記2020』の白石和彌、『横道世之介』、『南極料理人』の沖田修一らが監督を務めた。

【写真】デリヘル嬢役の12名の女優

 デリヘルを舞台にした深夜ドラマと聞き、いわゆる「お色気ドラマ」を想像して敬遠した人もいるかもしれないが、そういう人はかなり損をしている。個人的には今クールのドラマでナンバー1の出来だと思う。

■デリヘル嬢たちを取り巻く数限りない「問題」

 「フルーツ宅配便」で働く女性たちは、みんな果物の源氏名がついている。ナンバー1の人気嬢のみかん(徳永えり)は、ナンバーワンゆえにデリヘル嬢をレイプした動画を公開して金を稼ぐ男たちに狙われてしまう。ナンバー2のイチゴ(山下リオ)は高齢者の客(嶋田久作)に惚れられてストーキングされる。暗くて内気なレモン(北原里英)は客からチェンジされてしまいがちだ。

 ほかにも、夫からのDVで顔に大きなアザをつけられたシングルマザーのゆず(内山理名)、就職したブラック起業で詐欺に遭ったモモ(成海璃子)、整形で人生を変えたいスイカ(うらじぬの)。高校受験を控えた娘の学費のために直引き(直接客と会う行為)をするスダチ(内田慈)、「お金がすべて」と言い切って犯罪まがいのことも平気でやるサクランボ(筧美和子)、覚せい剤に溺れてしまうシングルマザーのブルーベリー(中村ゆり)、複数の男性に結婚詐欺をして逃げ回っているカボス(松本若菜)、客に妊娠させられてしまうスモモ(阿部純子)などの女性が「フルーツ宅配便」に出入りしている。なかには夜はスナックのママとして働く豪胆なグァバ(松岡依都美)、この道50年以上という伝説の風俗嬢・ドラゴンフルーツ(山口美也子)なんて女性もいた。

 登場人物のプロフィールを見ればわかるように、デリヘル――というより、デリヘルで働いている女性を取り巻く問題は数限りない。抜け出せない貧困、いわれなき暴力、薬物汚染、悪徳店による搾取、客からの見下す視線や暴言、望まない妊娠……犯罪に巻き込まれることもあれば、追い込まれた彼女たち自身が犯罪に手を染めてしまうこともある。何気ない顔で出勤し、日々風俗の仕事をこなしているように見えるが、彼女たちの足元にはぬかるみのような暗闇が広がっているのだ。

 しかし、これらのいくらでも悲惨に描くことができそうな素材を『フルーツ宅配便』は極力抑えたタッチで、丁寧に、優しく、そしてフェアに綴ってきた。言い忘れていたが、「お色気シーン」と呼ばれるような扇情的なシーンもない。

■どうしようもない現実を少しでもマシにしたい女性たち

 何不足なく日々暮らしている人たちから見えない場所で、デリヘル嬢たちは悲劇的な状況に置かれている。しかし、そこで「自己責任だ」と突き放すような物言いや好奇心丸出しの視線と『フルーツ宅配便』は真逆の場所にいる。

 彼女たちは何か落ち度があって、今のような悲劇的な状況に置かれているわけじゃない。たとえば、ゆずはDV夫と離婚したものの夫名義の借金を抱えて苦しんでいる。モモは自分を引き取って育ててくれた育ての親に恩返ししたい一心で就職した会社に裏切られた。シングルマザーのブルーベリーは昼間の仕事のミスで借金を抱え、パニックになって薬物に走ってしまった。そのあたりをこのドラマをきっちりと描く。

 レイプ動画を公開しようとする男や、妊娠させてしらばっくれるような男など、デリヘル嬢たちを取り巻く男たちの悪意は、コワモテのオーナー・ミスジ(松尾スズキ)によって成敗される。しかし、それで彼女たちの人生が好転するとは限らない。一時的に最低最悪の地獄を逃れただけなのだ。ドラマでは彼女たちの日常が続いてくことがさりげなく描かれる。彼女たちの今後がどうなるかは視聴者の想像に委ねられることが多い。

 ドラマの救いになっているのが、咲田の善意であり、優しさである。とはいえ、咲田の善意はいつも報われない。生活苦のゆずを助けようとお金を貸そうとするが、逆に借金の保証人になるよう頼まれて、みっともなく逃げ帰る。直引きをしてミスジに罰金100万円を言い渡されたスダチにもお金を貸そうとするが、スダチが選んだのはミスジによるソープでの仕事の斡旋だった。濱田の情けなさ、しょぼくれた感じの演技が優しさの空回り感にぴったりとハマる。

 咲田はヒーローなんかじゃない。でも、優しさだけはデリヘル嬢たちにじんわりと伝わっている。咲田の優しさが、どうにもならない現実を少しだけ癒やしてくれる。

 ドラマを貫く大きなストーリーになっているのが、咲田の同級生・えみ(仲里依紗)だ。別のデリヘルで働く彼女も、信じられないような辛い境遇に置かれていた。母親が連れてきた新しい父親は、まだ10代だった彼女を家から追い出して援助交際を強いた。さらに自分を捨てた母親が残した莫大な借金を返済するために悪徳デリヘルで働いていた。

 咲田はえみを少しでもマシな境遇に置くため「フルーツ宅配便」に引き抜く。業界ではご法度とされていた引き抜き行為をミスジは認めてくれたが、その代わり悪徳業者からの報復を受ける。最終回ではミスジがいない状態で咲田が「フルーツ宅配便」の女性たちを守らなければならない。

 どうしようもない現実を少しでもマシにしたいと思い、デリヘルで働く女性たち。そんな彼女たちを守ろうとする咲田の奮闘を最後まで見守りたい。

(大山くまお)

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