Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

「1秒でも歌でイリュージョンが生まれれば成功だ」 鬼才・豊田道倫が語るポップ論

リアルサウンド

14/1/14(火) 17:00

20140114-image001.jpg今回の新作は「豊田道倫&mtvBAND」名義でのリリースとなる。

 昨年3月にアルバム『m t v』をリリースし、各方面から高く評価されたシンガーソングライター豊田道倫が、1月15日に早くも新作『FUCKIN’ GREAT VIEW』を発表する。今回の演奏を担当するのは、前作発表後のツアーを担った「m t v BAND」。宇波拓(ベース、アコギ、キーボード)、久下惠生(ドラム、Voice)、冷牟田敬(ギター、ピアノ、ヴォーカル/コーラス)という類まれな個性を持つ面々が集まり、豊田とともに研ぎ澄まされたロックサウンドを奏でている。それは詩情豊かな日本語ロックでありつつ、レッド・クレイオラやフレイミング・リップスにも通じる、突き抜けた音像体験でもある。2014年のシーンに突如として登場したこの怪作について、豊田自身がじっくりと語った。

――前作『m t v』から1年足らずという短いインターバルですが、今回の『FUCKIN’ GREAT VIEW』はmtvBANDでの活動の中でできた曲ですか?

豊田道倫(以下、豊田):『m t v』は去年3月にリリースして、4、5月にツアーをしました。こういうメンバーでやるというのは得がたいことなので、レーベルとしてはライブ盤も考えつつ、という感じでツアーを通して録音はしてたんですよ。ただ、僕はそれをリリースすることはあんまり考えていなくて、どうせならもう1枚作りたいと思ってました。ストックはアルバム3枚分くらいあるんだけど、春から夏にかけてササッと曲が生まれたので、ストックは使いませんでした。

――では、このバンドでやることを想定した新しい曲なんですね?

豊田:そこは半々という感じで、何となく自分でやって、バンドでもできる曲を、と。

――mtvBANDのメンバーは大変な個性派ぞろいですが、今回のアルバムはバンドのゴツゴツとした音の空気、ムードがさらに出ていますね。先程の「得がたさ」という意味で手応えがあったのでは。

豊田:手応えはあったけれど、かといって、このメンバーで「しっかりリハーサルを重ねて音を作り上げて、しっかりしたレコーディングをしよう」とは最初から思っていなくて。八丁堀にある、小さなアートスペースに全員来てもらって、宇波拓のコンピュータで録りました。みんな何の日か把握してなくて、普通に練習だと思ってたらしい(笑)。昔のレコードって、ビートルズとかにしてもけっこうそんな感じで、直感で録音していて、それほど作り込んでないでしょ? それをこのメンバーでやりたかったんですよ。

――それぞれ高い演奏能力を持っている人たちが、あえてスタジオで一気に録る。

豊田:きちんと作り上げたものをちゃんとしたスタジオで作り込むのは、逆にたいしたことではない、という感覚が僕の中にあって。ミストーンもOKするくらいの感じで(笑)。この4人は集まれる時間がなかなかないので、選択肢は他になかったね。オーバーダブも基本的になし。ミックスは東京でやって、マスタリングはAbbey Road。

――事前にデモなどはあったのですか?

豊田:ない。簡単なコード譜くらいでその場でパッと。そういう、すごく野性的というか素朴な録り方をしました。

――そうした結果、「Heavenly Drive」あたりの曲ではグラスゴーの名物バンド、パステルズのような浮遊感も出てますね。

豊田:ちゃんとしたスタジオで別々のブースに入って録音すると、音は分離しているし修正も可能だけど、化学反応は起こりにくいですね。日本のそういう盤を聴いても「ちゃんとやってるなー」しか感じなくて。非常に危なっかしいんだけれど、狭い空間で全員揃って録音して、音もかぶっている、そういうのもいいかな、と思ったんです。

――ただ、歌詞の面ではいつものシャープな豊田さんで、シンガーソングライターの作品という印象も強い。

豊田:結局は一人、という意識が強いせいか、これもソロアルバムという気はしてます。もうひとつ、アコギ一本で『naked FGV』という特典CDを作ったんだけど、あれでも成立するくらいの歌。極端に言えば、メンバーが演奏を間違っていても、歌があっていればとりあえずはいいと思っていて、丁寧に歌いました。いつもはボーカルを少し引っ込ませるくらいのミックスにするけど、今回はかなり歌が前に出ているかもしれない。

20140114-image004.jpg

――このアルバムには、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやルー・リードのソロのような、冷めたロックの手触りも感じます。

豊田:自分のことに関してはあんまりわからないですね。ただガッとやっただけ、という感じで、「よくレコードになったな」とは思いますけれど(笑)。あとはやっぱり、Abbey Roadでマスタリングしたかった、というのは大きいですね。今回は自分でプロデュースしていますけれど「Abbey Roadの人はこれを聴いてどう思うんだろう?」というのは考えたかな。「今回こそは突き返されるんじゃないか」と思って(笑)。

――突き返されることも期待したり?

豊田:ちょっとね(笑)。そういうものをAbbey Roadの人がロックレコードにしてくれて感激しました。当初はもっと荒っぽくて殺伐としたもののつもりだったけど、思ったよりサウンド的にグラマーで温かいものになった。ギターの音などに関してはAbbey Roadの力は大きかったかな。

――歌詞の面ではどうですか。豊田さんには詩人の才気がありすぎて、どうしても詩情が溢れてしまう。自分でそこを壊すのは難しくありませんか。

豊田:今回はあまり言葉を詰めていないですね。先行してYou Tubeにアップしていた「Heavenly Drive」について、松本亀吉さんがレビューを書いてくれました。誰も歌詞を褒めてくれなかったけれど、松本さんは歌詞がいいと。「Heavenly Drive」というフレーズ以外にほとんど歌詞はないのですが、自分にしては珍しく、書くのに1ヶ月掛かったので、「そういう人がいるんだな」と思いました。

――〈ガセネタを信じたあいつは 明け方に車で消えた〉というフレーズですね。豊田さんはツイッターなどでは社会の状況などについて発言していますが、歌詞の中ではあまりありませんね?

豊田:自分が何回も歌う歌、となるとなかなかできなくて。歌っていて好きな言葉と肉声で発する言葉は、どうしても違う。つまんない言葉だけど、歌っていると気持ちよくなる言葉もあります。

――聴き手として聴いていて好きな歌詞と、ご自分が作る歌詞も違いますか。

豊田:違うと思います。自分の身体性を通さないと、歌詞は作れないところはあります。

――ここ5-6年の音楽界では歌詞の重要性についてよく語られていますが、最近のその流れを豊田さんはどう感じていますか?

豊田:僕はあまり流行りの日本の音楽を聴かないけど、メール文化や3.11もあって、言葉による”いたわり”の気持ちが求められていることは感じます。本屋に行っても、「自分を救う」といった内容のものは多い。それとは違う、面白い異物としての歌詞や言葉の表現が今はあまり脚光を浴びていないのかもしれない。

――今作は「言葉のアルバム」でもあり、随所に言葉の異物感が出ていると感じます。

豊田:自分では何を狙って書いているのかよくわからない部分はあるけど、僕は「瞬間芸」がしたいんですよ。一瞬の歌で、何かを誤魔化す、夢を見るのがポップスやロックだと思う。ちょっとしたフェイクのような、すごく小さな道具でそれをできる可能性がある。それは自分を知ってほしい、わかってほしい、という気持ちとは違う。1秒でも歌でイリュージョンが生まれれば成功だと思っている。

――確かに、豊田さんの歌は私小説的なイメージで捉えられることもあるけど、いわゆる心情吐露的な表現とも違います。

豊田:そのちょっとしたこと、一瞬の歌が難しくて。なかなか狙ってできることではないので、いつも悩んでる(笑)。

――今回の作品には、一瞬の夢を見せるようなイリュージョンが確かにあると思います。というわけで、インタビュ-の後編では、リスナーとしても確かな耳を持つ豊田さんに5枚のアルバムを挙げてもらい、それぞれのイリュージョンについて語ってもらいます。
(取材=神谷弘一/撮影=山本光恵)

後編:藤圭子から松山千春、半野田拓まで……豊田道倫が最近聴きこんでいる「名盤」6選に続く

■リリース情報

『FUCKIN’ GREAT VIEW』

価格:¥ 2,415 [税抜価格 ¥ 2,300]
発売日:2014年 1月15日(水)

01. ひとり
02. 夜のコーヒー
03. オレンジ・ナイト
04. 26歳
05. G
06. 玄米木苺フレークシェイク
07. ずっとビーチのはしっこで
08. ふたり
09. Heavenly Drive
10. 街の暮らし

アプリで読む