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「若者の映画館離れ」は本当か? 立川シネマシティが「次世代育成計画」に込めた思い

リアルサウンド

19/9/22(日) 10:00

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第40回は“「若者の映画館離れ」は本当か?”というテーマで。

●映画ファンであればあるほど“勘違い”が生まれる?

 少し前に「若者の東京離れ」というのがニュースになってましたが、最近は「若者の○○離れ」、あんまり言われなくなりましたね。飽きられたからなのか、もはや常識化したからなのか、いろんなものが案外そうでもなかったことがわかってきたからなのか、わかりませんが、じゃあ「若者の映画館離れ」はどうなのか、と編集部からお題をいただいたので、このテーマで書いてみようと。

 ただし、これ地域や劇場の性格によって、かなり差があるように思えます。そもそも若者人口が激減している地域とか、あるいは実質車でしか行けないシネコンだと高齢者や未成年同士では行きづらいとか。均(なら)して一般論で語っても、このコラム的にはあまり有意味とも思われませんので、広く見渡しつつも、シネマシティでの現状と将来への戦略について書こうと思います。

「AmazonプライムビデオやNetflixなんかで、安くどこででも気軽に観られるのに、若い人は映画館なんか行かないでしょ」

 というのは、まあ誰でもぱっと思い浮かびます。これはもちろんその通りでもありますが、そうばかりでもありません。日本での本格的なネット配信が始まってから4年が経ちましたが、この間も映画館全体の収益に大きな変化はありません。2015年以前より数字はわずかに上がっているのです。

 立川シネマシティでは、2019年の4月から料金の改定を行いました。シニア割引の対象を70歳に引き上げ、夫婦50割を廃止しました。代わりに、24歳以下の有料会員6ヶ月会費を600円から100円に引き下げました。また料金移行キャンペーンで60歳以上の6ヶ月会費も100円に引き下げています。ただし、一般料金は1,800円のまま、1,100円の割引もキープです。

 この有料会員になれば、土日祝1,300円/平日1,000円になるので、大学生や社会人なりたての方は、大幅に値下げになるというわけです。これを「次世代映画ファン育成計画」と名付けました。

 これを発表した時、このような批判がありました。「平日の昼間の座席を埋めるシニア層をないがしろにするのは間違いだ」と。あるいは「観客席を見渡せば高齢者がスゴく多く、社会は高齢化していくのにまったくの愚策だ」と。こういう批判が起きるのはもちろん想定していました。これから増えていく可処分所得も時間も多いシニアをこそ取り込むことこそ、映画館の生きる道ではないか、という考え方ですね。これは映画を観るシニアが増えているのに、ということを前提にしていると思います。あるいは、若者が激減しているからテコ入れとしてやるのだろう、という推察が前提でしょう。

 僕も人のこと言えませんが、人間は自分の目で見たものは正しいと思い込んでしまうものです。年に50本、100本と観るような映画ファンであっても、1年に公開される映画は1,200本もあるのですから、やはり選り好みしています。必然、自分と同世代が興味を持つ作品選定になります。少女マンガ原作の恋愛モノばかり追いかけている60代というのは多くはないでしょう。

 だから映画ファンであればあるほど、自分と同世代が「観客の主流」と感じやすいのは致し方ありません。また自分と離れた世代、例えば60代以上の人はパッと見で10代と20代との区別はつきづらいだろうし、10代、20代は50代、60代を見分けられないと思います。加えて、世代によって「若者」「中高年」の定義自体が異なってきます。

 実際に劇場で感じる感覚は当てにならないのです。というわけで、数字にあたってみましょう。直近の、シネマシティにご来場いただいたお客様の年代構成を見てみますと、ざっくりですが以下の通りです。

・0歳 – 大学生:25%
・20代:23%
・30代:15%
・40代:13%
・50代:10%
・60代:7%
・70代以上:3%

 足しても100になりませんので、あしからず。また大学生には10代ではない方も多く含まれています。これでわかるのは、映画館の最大ボリューム層はやはり今も20代だということです。大学生の区分に含まれている20代を足せば、なお増えますし。20代人口比率は低下し続けているにも関わらず、この数字であるということは、20年、30年前はもっとそうだったということです。

 もちろん「これはシネマシティという特殊な映画館の場合ではないか」という疑問もあるかと思います。それはその通りでしょう。まず第一に、23区からは遠く離れているとはいえ、立川は一応東京都内であるということ。また様々な企画や上映設備、予約および料金のシステムなどにより、通常の映画館の商圏では考えられない広い地域からの集客ができていること。わざわざ遠方まで足を運んででも高いクオリティで作品を鑑賞したいと考える熱情を持っているのは20代が多いだろう、というのは確実にあると思います。新幹線や飛行機代、宿泊費を払ってでも観たい、というのは少し経済的に余裕ができてくる30代に多いかも知れません。

●20代前半までに映画を楽しんでほしい

 このことより、似たような立地条件の劇場より、若いお客様が多い劇場である、ということは言えると思います。しかし他のシネコンでも、それほど大きな差があるとは思えません(ただし、20代以下人口が極端に少なくなっている地域の映画館はこの通りではありません。当然ながら)。なぜなら、この国でヒットチャートを賑わすのは、アニメ、漫画・ラノベ原作、テレビドラマ劇場版といった種類の作品だからです。いや、日本に限らず、ハリウッドだって、ディズニーアニメまたはその実写版、イルミネーションスタジオのアニメにマーベル作品やスター・ウォーズ関連作品が大きな数字を上げています。

 これらの作品の台頭傾向は、必然、観客の若年化を促進します。黒澤映画、あるいはコッポラやベルナルト・ベルトリッチ作品のような、大人のための大作が減りに減っていって、久しいですよね。このような状況で、いくら人口的には多くても、可処分時間が豊富でも、シニアの客層が映画館を支えるヴォリューム層になるということはちょっと考えにくいと思われます。

 もちろん、もう10年経ったらわかりませんよ。今の60代、70代にもいわゆる「オタク第一世代」がいますし、今の50代にはがっつり漫画やアニメにハマって、ほとんどこれまで映画館ではアニメしか観てこなかったという方も少なくないでしょう。40代は言わずもがなです。

 これから作られる映画は、今よりますます、たとえ実写であっても「漫画化/アニメ化」していくことでしょう。シネマシティにおける、割引料金および有料会員会費の改定が、シニア層の増加+若年層の減少が理由でないことはこれでわかっていただけたかと思います。

 では、なぜシネマシティは「次世代育成計画」として、若年層優遇措置を行ったか、ということを書きましょう。ひとつは、映画を映画館で観る人数というのは、スクリーン数の増加もあって微増傾向にありますが、これは延べ人数の増加であって、ユニークな人数は微減傾向なのです。つまり、映画館で観ることを選んでいる人の鑑賞回数は増加しているが、そもそも観ない人も増えているということです。

 「物語」というものは、基本的には20代前半までの人のためにこそある、と僕は考えています。人格形成期にこそ、人はとりわけ「物語」を求めます。生き方の規範を必要としているからです。40代、50代と年を重ねるごとに、多くの人はフィクションへの興味が薄れていきます。作品から受ける影響なんて、そよ風程度になってきます。観てもすぐ忘れてしまうのです。でも10代20代の時は違いました。あの、映画館に入る前と出るときでは、世界の色彩が異なるほどの昂揚!これをたくさんの若者たちに味わってほしい。

 自分の持てる総てをかけても、同じものを愛する人たちのために何かしらを成し得たいと執着するあまり、結婚もせず、子供も持たない僕にとって、父性的欲望をここで満たそうとしているのかも知れません。これがこのプロジェクトの根幹です。映画館は営利企業です。放っておいても一番来る大学生や20代前半の料金を下げようなんて、ビジネスの定石からは間違っているかも知れません。夏休みや正月前後に、値上げはしても値下げするホテルなんてほとんど存在しないのと同じです。では、より多くの若者世代に、より多くの作品を観てもらうにはどうしたものか。それでいて、ビジネスとして成立させるために、売り上げを下げない仕組みは作れるのか?

 これはずいぶん独善的であるかも知れないと承知はしているものの、若い世代に、自分が愛したものをまた愛して欲しいと願う映画ファンは少なくないと考えました。自分の孫世代で、自分と同じものを愛してくれる若者に、何かしらをしてあげたいという気持ちを間接的にであれ満たすのは、ひとつのエンタテイメントになるのではないか、と思ったのです。

 参考にしたのは、イギリスのガーディアン紙のオンライン版が、無料ですべての記事を閲覧可能にしつつ、広告に頼らないジャーナリズムの独立を支援してくれと謳って、ほとんど特典のない有料会員を募り大きな成功を挙げたことですが、長くなるので、これはまた別の機会に。

 会社の利益としては、シニア割対象を70歳からに引き上げるのと夫婦50割をなくすことで単価を上げ、会費の割引分や24歳以下の単価の減少に割り当てることで充当。そして会員化することで、シネマシティでの鑑賞回数の増加を狙い、1回の単価は下がっても総支払い額を増やせれば、成功なわけです。

 始めてまだ半年。これが成功したかどうか、これからどうなるのか、まだ結論するのは早急でしょう。たまたま今年は近年まれにみるヒット映画の豊作年で、単純な数字だけ見れば前年より非常に成績が良いですが、これが施策の成果か、そうでないかはまだわかりません。でも、24歳以下の有料会員はどんどん増えています。少なくともこのことだけは、成功です。

 「若者の映画館離れ」というのでは済まない、「日本人の映画館離れ」(日本だけでなくアメリカでも問題になってますが)は確実に進行中です。だからこそ僕は、映画館というビジネスの持続可能性を引き上げるためにも、残りの仕事人生を、新しい映画ファン育成に捧げようと思っています。きっとすごい面白いことになるよ。

 You ain’t heard nothin’ yet !(お楽しみはこれからだ)

(遠山武志)

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