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『M 愛すべき人がいて』と『奪い愛、冬』の共通点を探る 鈴木おさむワールドの求心力

リアルサウンド

20/6/20(土) 8:00

 「事実を元にしたフィクション」という断り書きから始まる『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日×ABEMA)が世間をざわつかせ続けている。その裏にあるのは、平成の歌姫・浜崎あゆみの秘められた恋についての暴露要素だけではない。脚本を担当している鈴木おさむの遊び心満載の演出、配役によるところも大きいだろう。時に悪意さえ感じられるキャスティングも見ものである。

参考:田中みな実と白濱亜嵐が衝撃キス! 『M 愛すべき人がいて』第5話場面写真公開

 本作の設定で少し既視感を感じた視聴者も少なくはなかったのではないだろうか。鈴木おさむ×テレ朝タッグのドラマ作品『奪い愛、冬』(2017年)を思わず見返してみたくなった者も少なくないはずだ。当時話題になったのは水野美紀演じる蘭。第1話から異常性に満ちた怪しさをプンプン漂わせていたこの存在が、本作で言うところの田中みな実演じる秘書役の礼香に重なる。2人の共通点はまさに「異常なまでの1人の男性への執着」による「奇行」である。

 蘭は夫・信(大谷亮平)とその元恋人・光(倉科カナ)への執着心を見せ、2人を引き裂き自分が信と結婚するために、負傷事件まで仕組み、その事故のせいで歩けなくなったと彼に思い込ませる。負い目を感じた信は「君の脚になる」と言って彼女との結婚を決めるわけだが、この台詞どこかでも聞き覚えがないだろうか。

 そう、礼香にマサ(三浦翔平)が言った「俺が君の目になる」と同じだ。礼香が怪我をした理由はもちろん作為的なものではなくマサの不注意による不慮の事故だという違いこそあれ、第1話からただならぬ要注意人物感を醸し出し、主人公2人の仲を壊すために手段を選ばない点は酷似している。水野演じる蘭の「ここにいるよぉ~~~」と言いながらいきなり隠れていたロッカーから出てくるシーンは、お茶の間を恐怖に陥れたに違いない。最終話で脚の嘘がバレた時にも、杖を放り投げてダッシュしたかと思いきや「あなたを愛しているからよぉぉぉぉ」と叫ぶ。大きな声で語尾を伸ばす奇妙な口ぶりも2人の怪演に共通する。

 そしてこうやって振り返ってみてもわかる通り、鈴木おさむ作品ではお馴染みのキャストの顔ぶれがある程度決まっている。水野は本作ではアユ(安斉かれん)のニューヨークでのボイトレ講師・天馬まゆみを熱演。あまりのクレイジーぶりに、現時点では1話のみの出演だが、そうとは思えないほどのインパクトを残している。ちなみに水野は2018年夏にABEMAで放送された『奪い愛、夏』では主人公を演じ、田中みな実もここで悪女役として初めて起用され、狂気じみた役どころを見事演じきっていた。

 本作ではマサ役を演じ執着される側の三浦翔平も『奪い愛、冬』では光の婚約者である康太役を熱演。光がかつての恋人・信と徐々に仲を深めていくにしたがい、どんどん狂気じみた歪んだ愛情を押し付けるという極端な二面性を上手く演じていた。ただ、本作でも周囲の反対を押し切りアユをデビューに導くために奔走する様子や、社内の上層部とぶつかる際にマサが瞳に宿す力強さは、少し『奪い愛、冬』の康太が持つ狂気性の片鱗と重ならなくもない。

 また、鈴木おさむの遊び心が炸裂していたのが、康太の母親に榊原郁恵を配置し、息子を溺愛する末恐ろしい姑役を演じさせ、幼なじみ役としてダレノガレ明美を置いていた点だ(因みにこの幼なじみの名前も礼香だ)。さらに康太に好意を寄せ、光との仲を邪魔する同僚役・秀子を秋元才加が演じる。この秀子は会社の部長と親密な関係にあり、あの手この手で光を陥れようとする。本作でも、アユのデビューに嫉妬する同じくアーティストの卵の玉木(久保田紗友)が登場。アユの頭上からオレンジジュースをかけたり、アユに対抗してデビューすべくマサの右腕である流川(白濱亜嵐)に取り入ったりする。

 女性同士の嫉妬を上手く燃料にし、ここまで見事に起爆剤として燃え上がらせ、もはやホラーでもあり喜劇にまで昇華させられる仕掛け人は鈴木おさむくらいではないだろうか。ともすれば悪意さえ感じられる絶妙な、しかし意表を突いた配役っぷりは、本作ではさらに冴え渡って発揮されている。まず、小室哲哉をモデルとしている輝楽天明(新納慎也)。マサに対して、あからさまに時代錯誤でクセも強い。そして、あまりにバブリーで悪党臭のするA VICTORYの大浜社長に高嶋政伸を、アユの元所属事務所の中谷社長に高橋克典を。2人のギラギラ感と曲者感が見事に役にマッチしている。

 『奪い愛、冬』でも、熱海旅行のシーンや雪山でのシーンなど、古めかしくバブリーで昼ドラを思わせる敢えてのダサさが上手く共存させられ、それがドロドロの愛憎劇ぶりを加速させていた。同じ仕掛けは本作でも随所に織り込まれ、先述の輝楽や芸能事務所の社長2人の装いを筆頭に、エキストラの中にも明らかに時代背景がずれている人たちを紛れ込ませている。マサがハート型の風船をジャンプして掴んでみせたり、合宿でひた走るアユに向かってなぜか突然降りしきる雨の中崖の上から現れ叱咤激励するシーンなどは視聴者を笑わせにかかっているとしか思えない。アユもアユで、砂浜の上にかなりの長文をしたため、さらにはそれを口に出して叫ぶというトレンディーさ。

 ツッコミどころ満載で、怪演のオンパレード。病みつき必至の本作、今後どんな鈴木おさむワールドを見せてくれるのか、やはり目が離せそうにない。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。

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