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岡田利規×片桐はいり対談 能・音楽・ダンスが融合した『未練の幽霊と怪物』は「すごいエンタメ!」

ぴあ

左から 片桐はいり 岡田利規  撮影:源賀津己

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昨年、趣向を凝らしたオンライン配信で一部が上演され話題となった『未練の幽霊と怪物』―「挫波(ザハ)」「敦賀(つるが)」―が、いよいよライブ上演でその全貌を現す。夢幻能の形式にこだわった作・演出の岡田利規と、能では狂言師がつとめるアイの役割で登場する片桐はいりが語る、本質的な演技論としての能の有効性について。

役者は幽霊のようなもの

岡田 僕が能を意識するようになったのは、なんとなく稽古場で「なんか役者って幽霊みたいだな」とぼんやり感じたのが発端、というのがいちばんしっくりくる答えです。ふつうの人間は、別に誰に見られなくても存在しますけど、役者って、見られてることによって存在すると、僕は思っているんですね。で、幽霊もそうだと思うんです。誰にも見られていない幽霊っていうのは、ちょっと変だろうと。

片桐 見られることで存在する……。

岡田 そうです。同じように、役者も観客に見られることで存在する。役者=役ではなく、役者=役を投影するスクリーンであると。そう考えるようになったのは、演劇はその人物でもないのにその人物であるかのように演じるという、ヘタするととんでもなくばかばかしい行為なのに、なぜそう見えないのか、と疑問を持ったのがきっかけです。

演劇を観る人は、役者=登場人物と思っているかもしれないけど、厳密に言うとそうじゃなくて、観客の想像力が使われることで、そう見えているんですよね。そしてその観客の想像力は、役者が演じないと生まれない。そういう構造が、演劇というものの中にはあると思うんです。(幽霊が主人公になることが多い)能は、この役者=役を投影するスクリーンであるということを、すごく分かってるな! と思ったんです。

片桐 昨日の稽古で、能の役者は鏡みたいなものだという話が出ましたよね。それを聞いた時に、役者は何かを表現するものではなく、映すものだということかな、と思ったんです。そしてその精度というか、透明度がより高いのが、能なのかなと。お客様の想像力がそこに映って入り込んでいくためには、その役者の濁りみたいなものが、あまり出ない方がいい、ということとは違うんでしょうか。

岡田 どうでしょうね。そこはまた別で、濁りは、ないとつまらないと思うんですよ。

片桐 そうか、そうですよね。なんて言えばいいんだろう、個性とも違うし、こちらの「意図」ということですかね。役者のよけいな意図がない方がいい、ということなのかな。

岡田 昨日はワキ(主人公であるシテの相手役で、現実に生きている人間という設定)がシテと出会った際に、相手に対して何を感じているかみたいなリアクションは、能においては不要だという話をしたんですよね。なぜ不要かというと、ワキは観客(の想い)が映っている鏡だから、と。

片桐 私はそれを、ふだんの演技を見る時に応用して考えてしまっているだけなんですけども、「鏡みたいになれたらいいのにな」と思ったんです。だっていま日常で目にしている演技は、あまりにも雑味が多いから。

私は子どもの頃、役者というのは役になり切って、まるで別人になっちゃうすごい体験に違いないと思っていたんです。でも実際にやってみたら、まるで何も起こらなくて「何このつまんない仕事」って思ったとこから始まる演劇人生なので(笑)、憑依的な演技とは無縁なんです。まあこれは、塩味と甘味どっちが好きか、くらいの好みの問題でしょうけど、私としては能の話や岡田さんの話を聞くと、「そうそう、そっちの味が好き!」と傾きがちになりますね。

能の政治性をアイに託す

岡田 能は美的な形式性が高いから、テキストは逆にポリティカルというか、ストレートに語られていてバランスが取れてる、と僕は思っているんです。幽霊自体もポリティカルな存在なので、政治的な作品を作るのに能の形式は打ってつけだと思うんですが、とはいえ、いちばんストレートな部分をシテが担うのはあまり得策じゃないと思って、今回はアイにやってもらうことにしました。

片桐 本来のアイは、物語をかいつまんで、ちゃんと説明しなきゃいけないんですよね。

岡田 前半と後半をつなぐ役割で、前半に起きたことを説明し直す、という感じですね。あとシテがいる間は、場のテンションが上がってちょっと疲れますから、いったん緩めたりすることも必要じゃないですか。

片桐 私がやることでわかりにくくなったら困るなぁと思ったんですけど、まあこう言うのはちょっと安易ですけど、幕間のコントみたいなことですよね。

岡田 そうですそうです。

片桐 だとしたら、楽しいと思います。観る方にとっては、「能? しかもそれをイマ風に? なんか、ちんぷんかんぷんなんでしょ?」みたいに思われるかもしれないけど、音楽の生演奏と歌のライブがあって、ダンスもあって、ちょっとコントっぽいところもあって、すごいエンタメ!って、思っちゃいますけどね。

岡田 歌というものが持っている力そのもの、踊りが持っている本来の魅力、そうしたものがぜんぶ使えるという、たいへんよい形式ですよね。それと、能はふつうアイの登場部分では音楽は演奏されませんけど、今回は、アイのはいりさんと演奏の内橋和久さんとの間にも音楽的な関係があるので、それもぜひ楽しみにしていただきたいです。

片桐 ほんと、ふつうにすっごく楽しいですよ(笑)。



取材・文:伊達なつめ 撮影:源賀津己



公演情報
『未練の幽霊と怪物』-『挫波』『敦賀』-
作・演出:岡田利規
音楽監督:内橋和久
演奏:内橋和久 / 筒井響子 / 吉本裕美子
出演:森山未來 / 片桐はいり / 栗原類 / 石橋静河 / 太田信吾 / 七尾旅人(謡手)

【神奈川公演】
2021年6月5日(土)~2021年6月26日(土)
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

【豊橋公演】
2021年6月29日(火)・30日(水)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

【兵庫公演】
2021年7月3日(土)・4日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2170348

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