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「大人計画」について意外と知らない豆知識 なぜ“全員集合”はレアなのか?

リアルサウンド

19/3/31(日) 6:00

 3月31日にNHK BSプレミアムで、朝まで『大人計画テレビ』~松尾スズキと25人の仲間たち~」が、22時50分~翌5時まで、なんと6時間10分にわたって放送される。出演は、大人計画全員。

参考:綾瀬はるか、『いだてん』で圧倒的な華に NHK×宮藤官九郎は“不思議”系女優を輝かせる?

 なのだが。NHKの公式サイトに躍っている「『大人計画×NHK』メンバー全員最初で最後の大集結!」というコピーを見て、何が「最初で最後の」なのか、劇団全員が集まることがそんなにめずらしいことなのか、わからない人はわからないかもなあ、という気がしてきた。同じ劇団でしょ? なのに、なんで全員集まることが、「最初で最後」ってほどレアなの? 普段は集まらないの? というふうに、不思議に思う人もいるかもなあ、と。なので、ちょっとそのへんを説明するテキストが、どこかにあってもいいかな、と思えてきたのだった。

 というわけで。以下のテキストは、月4回発行の有料メールマガジン『松尾スズキの、のっぴきならない日常』を購読しているので、この特番のことを「舞台『世界は一人』の本番後に収録だったのでものすごい疲れた」と松尾さんが書いているのを読みました、という方や、この一同の並び順を見て「入った順だから顔田顔彦が最前列なんだな」とパッとわかる方や、「うわ、新井亜樹がいる!」と喜んだ方や、後期『まんぷく』のコメディリリーフ、名木くん役の上川周作が大人計画だということをご存知の方は、読んでも「知ってるよ」っていう話ばかりだと思います。前もってご了承ください。あくまで、そのあたりの詳細はご存知ない方のためのガイドとして、書くものです。

 まず。なぜ大人計画は普段全員集合することがないのか。思いつくまま書いていきます。

1.規模がでかくて人数が多い。

 なので、劇団員全員が出演するような芝居を打つことは、物理的に不可能。かつては「本公演」、つまり企画制作が大人計画で松尾スズキが作・演出を手がける公演は、全員が出演するものになる、というのがセオリーだったが、人数が増えるにつれてその「本公演」の間隔は空いていき、2012年の『ウェルカム・ニッポン』あたりを最後に行われていない。まあ、当然そうなると思う。「全員に役を与えるように脚本を書いて演出をする」ってものすごく縛られるし、しかも人数は増えていくし。

 ……いや、違う。その『ウェルカム・ニッポン』の時ですら、ひとり、猫背椿が欠けていた。「出さなかった」のではなく、体調不良による降板で「出られなかった」のである。というふうに、人数が多く、歴史が長くなると、どうしても揃うのが難しくなっていく、ということでもあります。

2.「大人計画劇団員」と「マネージメント会社・大人計画所属」は違う。

そう、ここに並んだ顔ぶれの全員がみんな劇団員、というわけではないのです。劇団員でありマネージメント会社としての大人計画に所属している人と、劇団員ではないけどマネージメントとしては所属している人がいます。

 分裂前のオフィス北野には、「オフィス北野所属でたけし軍団の一員」である芸人と、オフィス北野所属だけどたけし軍団ではない芸人(馬鹿よ貴方はとか、マキタスポーツ・プチ鹿島・サンキュータツオとか)がいたのと同じです、と言うと、わかりやすいかもしれない。

 オーディションを受けて松尾スズキのお眼鏡にかなって入団したのが劇団員で、松尾スズキが命名した変な芸名が付いている。というのを大まかな目安にできるが、例外もいくつもある。

 「宍戸美和公は最初はお手伝いで入ったのでオーディションは受けてないけど劇団員、でも名前は実は松尾スズキに付けてもらっていない」とか。

 「正名僕蔵は最初は劇団員だったけどハリウッドデビューを目指して退団して渡米、でも1ヵ月で帰って来ちゃってマネージメントとしての大人計画に入れてもらったので、変な名前だけど今は劇団員ではないしそれ以降本公演には出ていない」とか。

 「井口昇はマネージメント契約だけどちょいちょい本公演にも出ていた気がする、というか、もともとAV監督で完全に外の人だったんだけど、松尾さんが気に入ってよく起用するうちにマネージメント契約したのかも」とか。

 「近藤公園は元は演出助手だったが2000年に『キレイ ~神様と待ち合わせした女~』に出たりして俳優に転向、長坂‎まき子社長に直訴して入ったのでオーディションは受けてない、でも劇団員、ただし名前は実は自分で付けた」とか。

 「三宅弘城はナイロン100℃の役者で、小松和重はサモ・アリナンズ休止で移ってきた、どちらもマネージメント契約」とか。

 「新井亜樹もほかの劇団(メノジ百科)から移ってきた……というか、確か1998年の『ヘブンズサイン』を最後に大人計画の舞台に出ていない、という以前に俳優活動自体やってないんじゃないかしら」とか。

 なお、星野 源も劇団員ではなくマネージメント大人計画所属。

 どうでしょう。ややこしいでしょう。ここまでの私の把握のしかたも、今ひとつ自信がないところがあります。

 そういえば以前に「研究生」という新システムを導入していた時期もあった。確か、その中に、矢本悠馬もいた。やめてから成功した、という、大人計画において他にないケースかもしれません。あ、違う。温水洋一がいた。

 とにかく、そのようなわけで、劇団員とそうじゃない人がいるんだから、その両方が全員集まる機会など、普段ないわけです。それこそ冠婚葬祭くらいではないか、あるとしたら。

3.いわゆる小劇場から始まった劇団として、現在の大人計画はありえない。

 どの点が。まず、舞台はもちろん映画やテレビで大活躍する才能を、こんなにたくさん世に出した、という点において。そして、その才能たちが「売れても出ていかない」という点において、だ。

 他の小劇場出身の俳優や演出家と比較すればわかりやすいと思う。売れてメジャーになると、劇団をやめるか、やめなくてもマネージメントはもっと大手に移るか、移らなくても業務提携でどこかの大手事務所が間に入る、とかになるものだ。

 そういう人がいない。宮藤官九郎も阿部サダヲも平岩紙も近藤公園も、みんな大人計画所属のまま。星野源のアミューズは? という声もありそうだが、あれはもともと「俳優としては大人計画、ミュージシャンとしてはカクバリズム」だったのが、後者がアミューズに変わった、ということです。

 このあたりのことについては、インタビューで、松尾スズキに訊いたことが何度もあるのだが、松尾さんいつも「俺が発掘したって言えるのは荒川良々だけ、他は俺が見つけたんじゃなくて、彼らに大人計画を見つける才能があっただけ」みたいなことしか言いません。

 あと、「売れても出ていかないのは、会社としてしっかりしてるからじゃない?」とのこと。確かに他の劇団って、そこまでマネージメントをちゃんとやっているところ、あまりないかもしれない、言われてみると。

 というわけで。こんな方々が全員集まるというのが、いかにレアなことであるのか、おわかりいただけたのではないかと思う。大人計画が2018年で旗揚げ30周年を迎えた、そのさまざまなイベント等の締めくくりとして企画されたのだろうが、そうでもないとこんな番組、成立不可能だったと思う。

 全6章になっていて、大人計画30年間のレアな映像を交えながら、各メンバーが当時を回想する、という構成だそうだ。NHKが放送したので映像が残っている2006年の『大人計画フェスティバル』や、全メンバーによる事前アンケートをもとにした朗読コーナーなどもオンエアされるという。

 それから。以上のような「全員集合することのレアさ」や、「歴史的資料としての価値」以外にも、もうひとつ、観るのが楽しみな点がある。

 松尾さん、この人数、どうやって回したんですか?

 ということだ。あたりまえだが、「おもしろい役者」は「おもしろい芸人さん」ではない。中にはその壁を越えようとする役者もいるが、大人計画にはそういうタイプはいない。こういうバラエティっぽい番組で、フリートークでしゃべったり、場の空気を作ったりできるのは、松尾スズキ、宮藤官九郎、あと阿部サダヲくらいだと思う。それ以外の人たちは、純粋に「おもしろい役者」だ。台本や演出ありきで、それを完璧に演じて笑いを生み出したり、そこにアドリブを足してさらに大きな笑いにすることはできるが、ひな壇で「はい、なんか言って」で笑いをさらう、なんてことはできない。というか、しようとも思っていない、たぶん。なぜ。役者だから。芸人さんじゃないんだから。

 グループ魂における港カヲルの口上、あれは一言一句宮藤官九郎が書いていることは、みなさんご存知ですよね。そういうことです。あ、例外として、星野源は本来はそのあたりの能力もあるが、この顔ぶれの中では前に出にくいと思うし。

 書いていて怖くなってきた。でも、楽しみです、とても。「意外とバシッとうまくいった」という結果でも、「やはりグダッとした感じになった」という結果でも、結局おもしろいことになるのが大人計画だ、とも思うので。(文=兵庫慎司)

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