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アリアナとも共演のラナ・デル・レイ、最新作に感じたアメリカに対する希望と先人たちへの敬意

リアルサウンド

19/9/20(金) 18:00

 今か今かと待たれていた話題の曲「ドント・コール・ミー・エンジェル」がお披露目されたのは、さる9月半ばのこと。ご存知、アリアナ・グランデとマイリー・サイラス、そしてラナ・デル・レイが、音楽界のエンジェルよろしく共演し、マックス・マーティンがプロデュースを手掛けた、映画『チャーリーズ・エンジェル』リブート版の主題歌だ。

Ariana Grande, Miley Cyrus, Lana Del Rey – Don’t Call Me Angel (Charlie’s Angels)

 いったい3人はどう絡むのだろうかと興味津々でチェックしてみると、まずアリアナが、続いてマイリーが歌い、クライマックスになってようやくラナが登場する。ラナがこれほどにメインストリームな志向のシングルに関わるのは今回が初めてで、アウェイ感が強いだろうことは予測されたのだが、さすがはアメリカンポップミュージック界きっての異端児、マイペースを崩さない。それどころか、唯一無二のスモーキーな声は瞬時に曲のムードを塗り替え、時間の流れを緩慢にし、まさにアウェイ試合であるがゆえに、自分の特異な存在感を際立たせる結果になったのではないかと思う。

 そう、ラナは7年前に名曲「ビデオ・ゲームス」で我々を虜にした時から、トレンドとは無縁の、独自の美意識を完成させていた。現在はLA在住、ニューヨーク州レークプラシッド出身で大学時代に音楽活動を始めた彼女は、デジタルオンリーのアルバム『Lana Del Ray aka Lizzy Grant』(2010年)を発表したのち、シングル「ビデオ・ゲームス」でメジャーデビュー。リヴァーブにとろけるミニマルなプロダクションと優美なメロディと前述した美声で形作ったシネマティックな表現で、強烈な印象を刻んでからというもの、質の高いアルバムを次々に発表。2ndアルバム『ボーン・トゥ・ダイ』(2012年)以降は全作品が全米チャートで3位以上を記録しており、先頃6枚目『ノーマン・ファッキング・ロックウェル!』をリリースしたばかりだ。

Lana Del Rey – Video Games (Official Music Video)

 そんな風に自分がやりたいことを貫いて成功を手にしたラナに、しばしば向けられる批評として、「いつも変わらない」というのがある。確かに「ビデオ・ゲームス」は一種のテンプレートとなり、ここで打ち出した、ダウンテンポでノスタルジックかつメランコリックなトーンは今も引き継がれているが、それを描写するサウンドとエモーションのパレットは、作品ごとに着実にシフトしている。The Black Keysのダン・オーバックと組んで録音した3rdアルバム『ウルトラヴァイオレンス』(2014年)では、『ボーン・トゥ・ダイ』を裏打ちしていたブレイクビーツが姿を消し、ブルース色の強いサイケなロックに接近。次いで4作目『ハネムーン』(2015年)では壮麗でドリーミーなサウンドを鳴らし、多数のゲストを交えた5作目『ラスト・フォー・ライフ』(2017年)は、今までになく軽やかでバラエティのある、集大成的アルバムを仕上げていたものだ。

 そして『ノーマン・ファッキング・ロックウェル!』ではジャック・アントノフを共作者/共同プロデューサーに迎え、またもや路線をスイッチしている。FUN.のギタリストだったジャックは、テイラー・スウィフトにロードにセイント・ヴィンセントと、大物女性アーティストが揃って贔屓にしている売れっ子だが、彼の熱烈なアプローチでコラボが実現したという。面白いことにジャックの十八番であるシンセポップは聴こえず、ビートはごく控えめで、本作を満たすのはピアノ、ギター、バイオリンといった生楽器のナチュラルな響き。今回のラナは、歌詞でも触れているローレル・キャニオンに集まっていた、60~70年代のシンガーソングライターたちにインスパイアされたことが分かる。つまり、ジョニ・ミッチェルやデヴィッド・クロスビー、スティーヴン・スティルス、ナッシュ&ヤング、ママス&パパスといった先人たちに敬意を払いつつ、自分の流儀でフォークを消化したと言ってもいいのかもしれない。

 そのローレル・キャニオン以外にも、カリフォルニアにまつわる地名や情景を引き続き歌詞にちりばめている。それはラナが歌うストーリーに欠かせない要素なのだが、リリシストとしての彼女を特徴付けるもうひとつのファクターと言えば、ダメな男との望みのない破滅的な恋であり、ロマンスに溺れて悲しみに浸る女性という印象が、早いうちに根付いてしまったところがある。しかし作品を重ねるごとにラナは、そんな薄っぺらいイメージをウィットや遊び心や気概で肉付けし、『ラスト・フォー・ライフ』では混迷を深めるアメリカの政情を背景にファイティングスピリットを見せつけて、社会的なメッセージも発信。本作に至ると、さらに前向きで逞しい。例えば冒頭の表題曲では、幼くて自意識過剰な男性を優しくも呆れたような調子でたしなめ、「マリナーズ・アパートメント・コンプレックス」では優柔不断な男性に救いの手を差し伸べているし、「カリフォルニア」でも人間の弱さを大らかに受け止めている。

 また「ラヴ・ソング」や「シナモン・ガール」といった直球の愛の歌は、破滅的どころかポジティブな展開を予感させずにいられないが、やはり極めつけは、ラストの1曲「ホープ・イズ・ア・デンジャラス・シング・フォー・ア・ウーマン・ライク・ミー・トゥ・ハヴ – バット・アイ・ハヴ・イット」だろう。長いタイトルは、“私みたいな女が希望を抱くのは危険だけど、それでも私は希望を抱いている”というような意味で、自分のイメージを逆手にとった自虐ユーモアさえ感じられる。

Lana Del Rey – hope is a dangerous thing for a woman like me to have – but i have it

 ちなみにノーマン・ロックウェルとは、普通の人々の生活をペーソス溢れるタッチで描いた、アメリカの国民的画家だ。日々ニュースを追っていると、彼が描いたアメリカはどんどん遠ざかり、もはやファンタジーのように感じられる。だがこのアルバムは、「それでも自分は希望を失わない」というラナの意志を明確に伝えており、未だに彼女が“サッド・ガール”だと思っている人がいるなら、そろそろ考えを改めたほうがいいんじゃないだろうか?

■新谷洋子
女性ファッション雑誌の編集者を経て、フリーランスの音楽ライターに。メインストリーム・ポップからインディー・ロックまで、主に海外アーティストの取材、ライナーノーツの執筆、歌詞対訳を手掛けているほか、訳書に『モリッシー インタヴューズ』がある。

■リリース情報
『ノーマン・ファッキング・ロックウェル』
収録曲:
1. ノーマン・ファッキング・ロックウェル 
2. マリナーズ・アパートメント・コンプレックス 
3. ヴェニス・ビッチ
4. ファック・イット・アイ・ラヴ・ユー 
5. ドゥーイン・タイム
6. ラヴ・ソング
7. シナモン・ガール
8. ハウ・トゥ・ディサピアー
9. カリフォルニア
10. ザ・ネクスト・ベスト・アメリカン・レコード
11. ザ・グレイテスト
12. バーテンダー
13. ハピネス・イズ・ア・バタフライ
14. ホープ・イズ・ア・デンジャラス・シング・フォー・ア・ウーマン・ライク・ミー・トゥ・ハヴ – バット・アイ・ハヴ・イット

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