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広瀬和生 この落語高座がよかった! myマンスリー・ベスト

12月のベストは立川志らく、よみうりホール「立川志らく独演会」の『芝浜』。そして私的年間ベストも発表!

毎月連載

第26回

20/12/31(木)

「2020 今年最後の立川志らく独演会」のチラシ

12月に観た落語・高座myベスト5

①立川志らく『芝浜』
「2020 今年最後の立川志らく独演会」よみうりホール(12/17)
②三遊亭白鳥『隣の町は戦場だった』
「代官山落語夜咄年末スペシャル<夜>」晴れたら空に豆まいて
③春風亭一之輔『芝浜』
「恵比寿ルルティモ寄席」恵比寿ガーデンホール(12/14)
④立川談笑『富久』
「立川談笑月例独演会」国立演芸場(12/8)
⑤鈴々舎馬るこ『鶴吉婿入譚』
「まるらくご爆裂ドーン!#30」(12/8 配信視聴)

*日付は観覧日
 11/26~12/22の間に観た落語会21公演(配信含む)、78演目から選出

晩年の談志が毎年のように『芝浜』を演じた“年末のよみうりホール”で、志らくが跡を継ぐように独演会を開くことになったのは2011年のこと。以来、毎年志らくはここで“今年最後の独演会”を開いている。『芝浜』は2011年に演じた他、2016年にもやはりこの“談志の聖地”で『芝浜』を高座に掛けている。僕が志らくの『芝浜』を観るのはそれ以来だったが、志らく独特の“可愛い女房の芝浜”の軽やかなテイストはそのままに、より深みが増している気がした。「亭主に魚屋をやめてほしくない」から狼狽して大家に相談し、金が戻ってきても「あの財布はこのまま夢にしようと思って」ずっと黙っていた女房が、「お酒を呑みたいのにやせ我慢してる亭主を見ているのがしのびなくて」財布を出してヤケ酒を飲ませようとする、という一連の女房の告白シーンは胸に迫るものがあった。

「代官山落語夜咄年末スペシャル<夜>」の番組案内

白鳥の『隣の町は戦場だった』は自分がプロデュースした会で「ぜひやってほしい」とリクエストしたもの。イラクの紛争地帯で新潟出身の自衛隊員(元暴走族)が現地の民間人少女の命を救うために砂漠をバイクで疾走するアクション巨編で、巧妙に仕込まれた伏線の数々が回収されてハッピーエンドに至るカタルシスは“ストーリーテラー”白鳥の真骨頂。国境を越えて壮大なスケールで展開される、愛と感動の名作だ。

常々「『芝浜』は好きじゃない」と公言する一之輔の『芝浜』は、その言葉とは裏腹に、真に迫った演技が胸を打つ逸品だ。魚熊(志ん朝の型なので“魚勝”ではない)が酒をやめる場面で“『芝浜』という噺”について演者としての解釈を語る一幕が入るのが一之輔らしいところで、こういう“地の語りでの落語論の挿入”は談志を思わせる。そして、談志がそうだったように、そこでテンションが下がることなく後半の感動へと繋げていくのが素晴らしい。

「立川談笑月例独演会」のチラシ

談笑の『富久』は時代や地名などは古典そのまま(談志の『富久』が下敷き)ながら、“幇間の悲哀”を核にした独自の演出を施している。「当たりくじが火事で焼けても千両もらえるが盗まれたらもらえない」という設定と、そこから逆転を生む“仕掛け”の絶妙さは談笑ならでは。「文楽系」「志ん生系」「可楽/小さん系」とは別の“第四の系統”を生んだ、とさえ言える傑作だ。

「まるらくご爆裂ドーン!#30」のチラシ

馬るこの『鶴吉婿入譚』は『ざこ八』の“現代人が共感できない部分”を取り去った改作。鶴吉がお絹との婚礼から逃げた理由も異なり、後家になったお絹は店は潰れて貧乏になっても美しい。鶴吉が戻ってきてお絹の境遇に同情して結婚し、店を繁盛させてハッピーエンド…の裏には“ある策略”があった、というドンデン返しは完全に馬るこの創作だ。『ざこ八』より断然いい噺。これは演り続けてほしい。

2020年に観た落語・高座myベスト10

2020年のベストから

①三遊亭兼好『ちきり伊勢屋』(3/2)
②三遊亭白鳥『メルヘンもう半分』(5/27)
③春風亭一之輔『つる』(10/27)
④桃月庵白酒『死神』(10/8)
⑤橘家文蔵『文七元結』(4/18)
⑥柳家花緑『中村仲蔵』(5/11)
⑦三遊亭丈二『大発生』(9/15)
⑧立川吉笑『カレンダー』(9/5)
⑨柳亭こみち『井戸の茶碗』(2/19)
⑩柳家喬太郎『マイノリ』(8/21)

※2019.12/21~2020.12/20に観た寄席・落語会・配信から選出

昨年に続き、今年も“年間ベストテン”を選出してみた(一人の演者につき一演目に限定)。コロナ禍でリアルな落語会に足を運ぶ機会は激減しつつも、配信落語会の視聴により、落語を観る回数は例年と変わらなかった。そんな2020年、個人的には“兼好と白鳥の年”という印象が強い。二人とも僕自身が代官山で開いている落語会の常連出演者で、僕がリクエストしたネタを演ってくれた、というのも大きいが、それ以外の高座でも毎回大いなる満足を与えてくれた。兼好は代官山で演じた『ちきり伊勢屋』『死神』の他にも『井戸の茶碗』『庖丁』が心に残り、白鳥は同じく代官山で演じた『メルヘンもう半分』『鬼コロ沢〜女芸人バージョン〜』『隣の町は戦場だった』の他に今年だからこそ生まれた名作『落語の仮面〜コロナ外伝』に感銘を受けた。一年を通じて最も多く見た演者は例年どおり一之輔、次いで白酒。こみちの“女性を積極的に登場させる”古典改作への取り組みが本格化した年、という印象もある2020年、配信に積極的に取り組んだ喬太郎を意外に多く観ることが出来たのとは対照的に、“配信しない”萬橘を観る機会が減ったのは残念だった。



〈おしらせ〉連載「広瀬和生 この落語高座がよかった! myマンスリー・ベスト」は今回が最終回です。皆様、ご愛読ありがとうございました!(編集部)



最新著書

『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)1,000円+税

プロフィール

広瀬和生(ひろせ・かずお)

1960年、埼玉県生まれ。東京大学工学部卒業。ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」の編集長、落語評論家。1970年代からの落語ファン。落語会のプロデュースも行う。落語に関する連載、著作も多数。近著に『「落語家」という生き方』(講談社)、『噺は生きている 名作落語進化論』(毎日新聞出版)、最新著は『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)など。

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