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映画『キングダム』は見事な実写化作品! 大作アクション邦画の意地と観客に対する誠意

リアルサウンド

20/5/29(金) 6:00

 興行収入57億円記録した大ヒット映画『キングダム』が5月29日に日本テレビ系『金曜ロードSHOW!』で地上波放送される。日本アカデミー賞でも優秀作品賞を受賞するなど、2019年の実写邦画を代表する作品の1つと言ってもいいだろう。少し苦言を呈されることも多い漫画原作映画だが、今回はその世界観を実写で再現するために凝らされた工夫に着目しながら、その魅力に迫っていく。

参考:山崎賢人が示す“主役の器” 『劇場』までに観ておきたい、“これまで”を振り返れる3本の映画

 漫画原作作品を映像化する際に、最も違和感を抱かれやすいのは漫画のキャラクターから実際の役者が演じる人物へと変換する作業だろう。実写映画化を果たした作品の感想にて、「キャラクターのイメージが違う」といった否定的な評はどうしてもつきまとってくる。これは漫画やアニメの場合、現実とはかけはなれたハイテンションな描写であったり、あるいは二次元だからこそ理想の動きを読者の頭の中で作り上げてしまう。それを実際に役者が演技をすることによって、現実で考えると違和感のある演技になってしまったり、頭の中のイメージとかけ離れてしまい違和感が生じてしまうのだろう。

 今作『キングダム』はその点においても見事な実写化を果たしている。主人公の信役の山崎賢人は漫画やアニメ原作の実写化映画の主役を多く演じているが、その度に印象が異なる演技を披露している。今作でも信の熱血漢である様子や、アクション描写も力を込めて演じており、原作の雰囲気を壊さずに自身の持ち味を発揮している。

 また、日本アカデミー賞にてエイ政役の吉沢亮が最優秀助演男優賞を、楊端和役の長澤まさみが最優秀助演女優賞に輝いている。エイ政はのちに始皇帝となる人物であり、信とのW主人公と言っても過言ではないほどの活躍が印象深い。近年では女性がアクション描写を行うことも珍しくなくなったが、長澤まさみはこれほどの美しさと気高さ、そしてアクション描写に魅了されることがあっただろうか?と思うほどの演技を披露しており、海外のアクション映画にも引けを取らない存在感に圧倒される。

 その演技や物語の世界観を支えた美術セットの美しさも忘れてはいけない。『キングダム』オフィシャルライターとして中国ロケにも同行した森祐美子氏によると、今作は中国で大規模なロケを行っているほか、床には当時のものを再現するために800枚もの瓦を発注するなどの力の入れ込みようだ(引用:王宮の敷き瓦800枚も特注!山崎賢人主演映画『キングダム』リピーター続出の理由を美術セットから探る|ザ・テレビジョン)。海外を舞台とした作品の実写映画となると、どうしても予算の関係上どこか違和感のあるようなセットが組まれることもあるが、今作の映像からはまるで当時の様子そのままに再現したのではないか?と感じられるような力の入れように目を見張る。また、中国が舞台ということで見た目が近い日本人が多く出演していても違和感がほとんどないということも、世界観の作り方という点ではプラスに働いたのではないだろうか。

 そして要とも言えるアクション描写だが、そちらも多くの試みがされている。佐藤信介監督とアクション監督の下村勇二のコンビは『アイアムアヒーロー』や『いぬやしき』などでも迫力のあるアクションを作り上げているが、今作もワイヤーなどを駆使するなどして、アクロバティックな動きをたくさん見せており、いい意味で型から外れたアクションを堪能することができる。また坂口拓が演じた左慈と信の対決の場面は特に圧巻だ。アクション俳優として注目度の高い坂口拓との対峙を描くことにより、映画としての説得力がある作品となっている。

 説明セリフの多さに少し、テンポが損なわれている印象もあったが、本作が大ヒットを記録したことに筆者は胸を撫で下ろすような思いがあった。美術なども含めて様々な面で作り込まれており、役者の熱演やスタッフの熱量をひしひしと感じさせる作品で、大作アクション邦画の意地と観客に対する誠意を感じた。どうしてもアクション映画と聞くと、ハリウッド大作を思い浮かべがちではあるものの、それに負けじと対抗する気概が『キングダム』のような新たなる傑作を生み出してくれるのではないだろうか。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。

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