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『スカーレット』が描き続けた日常の積み重ね 大切なのは“かけがえのない時間”をどう生きていくか

リアルサウンド

20/3/23(月) 6:00

 いよいよNHKの連続テレビ小説『スカーレット』が、今週で最終回を迎える。今まで、ドラマの中ではさまざまなことがあったが、その中で喜美子(戸田恵梨香)を中心とした登場人物には、残ったものと、残らなかったものがあると気づく。

参考:戸田恵梨香の笑顔は回を重ねる度に魅力的に 『スカーレット』が描く変わらない一日を過ごす尊さ

 例えば、若かりし頃には、喜美子と八郎(松下洸平)との間に淡い恋心の感情があったが、それが実を結び、結婚して同じ陶芸家として切磋琢磨する間に、ふたりは離婚をして婚姻関係というものは残らなかった。しかし、息子の武志(伊藤健太郎)も大きくなり、喜美子と八郎が再会し、「新しい関係」を築いたふたりの間には、甘くはないが、それに代わる感情が生まれ、強い絆で結ばれているのがわかる。

 喜美子と八郎の間でなくなったのは、それだけではない。結婚してしばらくするころまでは、八郎が喜美子を教える師のような関係性で、夫であり男であるからには、女である彼女よりも上でありたいという感情もあったのではないかと思われるし、そんなセリフもあった。しかし、彼が信楽を去ったことで、そんな関係性は解消され、次に出会ってからは、どちらが陶芸をする上での師であるということではなくなった。もちろん、そこには八郎が陶芸をやめたことも関係しているのだが。

 喜美子は絵付師であったときから、職人としては見られず、女性だからというだけでマスコット的な存在としてみられてきた。それは、陶芸家になってからも、八郎を支える役回りを求められ続けていたが、いまや一人前の陶芸家と認められるようになった。陶芸家となった今では、喜美子自身も女だからとか男だからという目線を向けられることもなくなってきて、彼女は陶芸教室を行い、誰かにその楽しみを教えることをライフワークのひとつとして大切にしているのがわかる。

 また、喜美子には高校時代から続く腐れ縁の友人がいる。ひとりは照子(大島優子)で、もうひとりは信作(林遣都)だ。照子は、早くに結婚して子供もたくさんおり、「丸熊陶業」の跡取り娘として夫の敏春(本田大輔)とともに奔走している。喜美子と照子は、なんでも言い合える間柄で、ときには立ち入ってはいけないような領域にもお互いに口を出し、激しくぶつかるし、お互いの生き方の方向性も同じではないが、それでもその友情が壊れることはない。

 信作には、公平な目線があり、若い頃から喜美子が「女性だから」と言って、一歩控えた立場であるよう信楽の人々から求められていることを知ると、必ず憤りをあらわにしていた。彼が喜美子の妹・百合子(福田麻由子)と結婚してからも、喜美子との関係はもちろん変わらない。今でも、信楽の役所で働く後輩が陶芸家である喜美子に対しての尊敬の念が足りないとわかると、「敬え!」と一括するような人物で、一貫してその公平な目線は変わらない。

 喜美子の家族のことを考えると、父親も母親も逝ってしまったが、妹ふたりと、八郎との間に生まれた武志は彼女のそばにいる。しかし、その武志は白血病になり、ドナーを探している。そんな中でも、武志は己に残された時間が少なくなりつつもアルバイトをしばらくは続けてきたし、友人たちとの楽しみを共有し、そして真奈(松田るか)という存在もいる。何気ない日常の大切さをかみしめて生きている。

 武志の中に残ったものでもっとも大きいのは、自分の表現したい芸術にひたむきに取り組
むという気持ちではないか。それは喜美子と八郎から受け継いだものである。喜美子は穴窯を導入したころは、窯がどんな結果を生み出すかまったくわからない、ある種のモンスターのような存在としてみえていたのではないかと思うが、そんな窯と向き合うことが日常になることで「炎の流れがな、想像できるようになってくる」と語っていた。モンスターのようであった穴窯をすっかり把握していることがわかる。

 武志はそんな喜美子の言葉をヒントに、自分の作品の「景色を想像」することができたの
だが、“日常”というものも、武志の中に残ったものでもある。

 こうして残ったもの、残らなかったもので考えると、『スカーレット』がどんなことを大切にしているのかが見える気がする。多くの物語(朝ドラを含む)は、家族が離散したり、しないで続いていくこと、その形に重きを置かれることが多い。しかし、『スカーレット』が何よりも丹念に描いてきたのは、そういった形ではなく、ひとりひとりが、そのときをどう生きるか、その点にあるように思う。(西森路代)

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