Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『名探偵コナン』最新OP/EDテーマに感じる“原点回帰” WANDS×SARD UNDERGROUNDをアニソンの観点から解説

リアルサウンド

20/1/11(土) 14:00

 今年1月に放送開始から25年目を迎えたTVアニメ『名探偵コナン』。その新年一発目の放送となった第965話「大怪獣ゴメラvs仮面ヤイバー(序)」より、オープニング/エンディング主題歌が共にリニューアルされたのだが、その担当アーティストがちょっとした話題になっている。オープニングテーマ「真っ赤なLip」を歌うのは、2019年11月に新ボーカリストを迎えての再始動を発表した新生WANDS。そしてエンディングテーマ「少しづつ 少しづつ」を担当するのは、4人の若き女性メンバーによって結成された新世代ZARDトリビュートバンド・SARD UNDERGROUND。そう、WANDSとZARDという、90年代以降のJ-POPシーンで絶大な人気を誇った2組の魂が、時の扉を越えて『名探偵コナン』の主題歌で再び相まみえたのだ。本稿では、今回の2曲が『コナン』という作品を新たに彩る意義と意味を考えていきたい。

 まずはWANDSについて。1991年にデビュー、1992年に中山美穂 & WANDS名義で発表した「世界中の誰よりきっと」を皮切りに、2000年に「解体」と銘打って解散するまでに数々のヒット曲を生み出したことで知られる彼ら。その当時は『コナン』楽曲を担当することはなかったが、アニメソングの観点から見ても、今なおファンから厚く支持されている『SLAM DUNK』のエンディングテーマ「世界が終るまでは…」(1994年)や、『ドラゴンボールGT』のエンディングテーマ「錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう」(1997年)、ZARDの坂井泉水が歌詞を提供した『遊☆戯☆王』のエンディングテーマ「明日もし君が壊れても」(1998年)といった忘れがたき名曲を残している。

 活動時からメンバーチェンジを繰り返し、その構成メンバーによって第1期、第2期、第3期と分かれていたWANDSだが、19年ぶりに復活した今回のWANDSは「第5期」とされている。メンバーは、創設メンバーのひとりでもある柴崎浩(Gt)、1992年から2000年の解体時まで在籍していた木村真也(Key)、そしてプロデューサー・長戸大幸の紹介で参加が決まった上原大史(Vo)の3名。元々は、柴崎と同じくバンド結成時からのメンバーだった大島こうすけ(Key)が参加していたが、彼は楽曲制作に専念するためバンドから退き、代わりに木村が合流することになったという(そのため、当初予定していた上原、柴崎、大島の構成が第4期となる)。

 ちなみに柴崎は、T.M.Revolutionの西川貴教を中心に結成されたミクスチャーバンド・abingdon boys schoolのギタリストとしても活動。『D.Gray-man』のオープニングテーマ「INNOCENT SORROW」(2006年)や『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』のオープニングテーマ「HOWLING」(2007年)といったアニメタイアップ曲の作曲も担当している。一方、今回の『コナン』オープニングテーマ「真っ赤なLip」を作編曲した大島も、T.M.Revolutionや西川のソロ作品などに携わっているほか、MAN WITH A MISSIONやSPYAIRらのサウンドプロデュースを通じて数々のアニメソングに関与。『コナン』の第38期OPテーマに起用されたKNOCK OUT MONKEY「Greed」(2014年)のサウンドプロデュースも手がけている。そう考えると、WANDSの遺伝子がアニメソングに与えている影響は想像以上に大きいのかもしれない。

 そして肝心の「真っ赤なLip」だ。新ボーカリストの上原が作詞、先述の通り大島こうすけが作編曲を担当したこの楽曲は、爽快感や切なさを最大の魅力としていたかつてのWANDSのイメージとは趣きを変え、ジャジーな雰囲気でクールに攻めるアップチューンに。ブラス系のシンセサウンドやワウギター、フィンガースナップを交えたシャッフル系のリズムで構築されたサウンドが醸し出すのは、ゴージャスかつどこかミステリアスなムード。上原の艶味を帯びた歌声にもそこはかとない妖しさが漂っており、これらはおそらくミステリー作品である『コナン』らしさを意識して生まれたものだろう。また、WANDSの過去曲に照らし合わせるならば、大島が作編曲を手がけた2ndシングル「ふりむいて抱きしめて」(1992年)を思わせるダンサブルな曲調になっているのも興味深い。〈トリック〉や〈ヤバイ君の正体〉といったワードを散りばめつつ、魅惑的な愛の罠にハマっていく主人公の心情を描いた歌詞も雰囲気たっぷり。本シングルの名探偵コナン盤のジャケットに描かれている、赤いリップを塗る蘭の姿に胸がドキドキしたのは新一だけではないはずだ。

 さらに注目すべきは本楽曲を用いた新オープニングアニメ。これが『名探偵コナン』のこれまでの歩みを知っていればいるほど感動できる、非常に凝った作りをしているのだ。まず印象に残るのが、楽曲に合わせてダンスを踊るコナンのアニメーション。コナンとダンスと言えば、第8期オープニングテーマである愛内里菜「恋はスリル、ショック、サスペンス」(2000年)でのパラパラダンスが有名だが、今回はそのオマージュ的な振り付けも取り入れつつ、「真っ赤なLip」の大人っぽいテイストにマッチしたクールで艶のあるダンスを披露している(振り付け監修はリアルアキバボーイズのけいたんこと榊原敬太、演出振付家としてゲッツが関与)。また、今回は青山剛昌による原作コミックのカットを演出に使用。25年以上に及ぶ連載のなかでもファンの印象に残っているであろう名シーンのコマが次々と画面を彩っていき、最後は漫画のページが集まって作品ロゴに変わるという演出に、グッときたファンは多いことだろう。

 続いてSARD UNDERGROUNDについて触れる前に、まず『コナン』とZARDの関係性についておさらいしておきたい。WANDSと同じ1991年に坂井泉水を中心とする音楽ユニットとしてデビューしたZARDは、第4期オープニングテーマ「運命のルーレット廻して」(1998年)をはじめとする計6曲でTVアニメ版『コナン』の主題歌を担当。さらに劇場作品では『名探偵コナン 14番目の標的』の「少女の頃に戻ったみたいに」(1998年)などの3曲の主題歌を担当しており、合計で9曲もの『コナン』ソングを生み出してきた。さらに2016年には、ZARDの25周年を記念したベストアルバム『ZARD Forever Best ~25th Anniversary~』のリリースに合わせ、TVアニメ『名探偵コナン』の放送枠にて、江戸川コナン役の声優・高山みなみがナレーションを務めたZARDのコラボCMがオンエア。そういったエピソードからも、『コナン』とZARDの繋がりの強さが感じられることと思う。

SARD UNDERGROUND

 そんなZARDの作品に共鳴した、神野友亜(Vo)、杉岡泉美(Ba)、赤坂美羽(Gt)、坂本ひろ美(Key)の4人により結成されたZARDのトリビュートバンドがSARD UNDERGROUND。平均年齢20歳というまだまだ若手の彼女たちだが、ZARDの音楽に対する愛と情熱は相当なもののようで、2019年2月にホームグラウンドの大阪でZARD楽曲のカバーライブを初開催して以降、多くのステージを経験。同年7月にはTVアニメ『SLAM DUNK』のエンディングテーマとして親しまれたZARD「マイ フレンド」(1996年)のカバー音源が「東北・みやぎ復興マラソン2019」イメージソングに起用され、9月にはZARDの数々の名曲を取り上げたトリビュートカバーアルバム『ZARD tribute』でデビューを果たした。神野の透明感がありながらも芯を感じさせる歌声は坂井泉水を思わせるものだし、特訓を重ねたというプレイヤー陣の演奏もしっかりとしたもの。彼女たちのひたむきな姿勢は、ZARDの音楽が持つポジティブなメッセージと重なる部分が多く、ZARDの遺伝子を受け継ぐにはうってつけの存在と言えるだろう。

 SARD UNDERGROUNDを「ZARDの作品を後世に伝えていってくれる存在」として認めたプロデューサーの長戸大幸は、坂井泉水が生前に書き遺した創作メモの中から、未公開の詞を新曲に仕上げて彼女たちに託すことに。そうして生まれたのが、SARD UNDERGROUNDの1stシングルにして、『名探偵コナン』の新エンディングテーマに起用された「少しづつ 少しづつ」だ。作曲を担当したのは、「明日を夢見て」「星のかがやきよ」「夏を待つセイル(帆)のように」「グロリアス マインド」といったZARD×『コナン』楽曲をはじめ、先述のWANDS「明日もし君が壊れても」や愛内里菜「恋はスリル、ショック、サスペンス」、さらに倉木麻衣「Secret of my heart」(2000年)、「Revive」(2009年)、「SUMMER TIME GONE」(2010年)など、ビーイング・ギザ所属アーティストを中心に数多くのヒット曲を手がけてきた大野愛果。哀愁たっぷりのメロディが切なさを掻き立てるバラードソングになっており、歌詞はその性質上『コナン』の世界観を意識して書かれたわけではないものの、すれ違いながらも好きな気持ちが募っていく恋心を描写したその内容は、普遍的なテーマを題材にしているがゆえに、『コナン』における蘭と新一の関係性にも重ね合わせることができる。

 そのためか、本楽曲を用いたエンディングアニメは、蘭と新一(コナン)のみが登場するシンプルかつ味わい深い作りになっている。冒頭のイントロ部分で登場するのは、蘭が新一からプレゼントされて以来ずっと愛用している、ナマコ男のストラップと携帯電話。Aメロの歌詞〈why あなたのことを想うと〉の歌い出しと同時に新一の顔が映し出され、続いて携帯を見つめながら物憂げな表情を浮かべる蘭の姿が映し出される。アニメは以降も携帯に連絡がくるのを待つ蘭の視点を中心に展開していくが、途中でスノードームを見つめながらほほ笑むコナンのカットが挿入。最後には蘭の携帯に新一からメールで写真(ナマコ男のスノードーム)と「どこにあるか、みつけてみ」という文言が届き、蘭が顔を輝かせるという、何とも甘酸っぱい構成になっている。

 近年の『コナン』は安室透といった人気キャラの増加に伴い、OP・EDアニメの内容もそれらのキャラクターにフォーカスを当てたものが増えてきているが、今回は作品のこれまでの歩みを感じさせるオープニングアニメ、蘭と新一の恋模様という基本にして最もファンの関心度の高いテーマを採り上げたエンディングアニメと、どちらもバック・トゥ・ベーシックを感じさせるような内容だ。

 それはTVアニメのスタートから25年目を迎えるなか、劇場作品の興行収入が7年連続で記録更新するなど、現在進行形で人気を拡大し続けているからこその原点回帰なのかもしれないし、『名探偵コナン』という作品自体がそれだけ歴史のあるコンテンツに育ったことの証拠でもあるのだろう。そして、そういった歴史の重みを楽曲でしっかりと受け止めることができるのは、やはり、同じようにこれまでの歴史なり文脈なりを背負って活動するアーティストなのだと思う。そういう意味において、オリジナルメンバーを交えて19年ぶりに復活を果たした第5期WANDSと、ZARDおよび坂井泉水の遺志を継いで新たなメッセージを届ける新世代バンドのSARD UNDERGROUNDは、まさに適任と言えるだろう。

■流星さとる
流浪の人。アニメ・声優・アニソン関連のライター仕事、よろず承ります。お問い合わせは【ryuseisatoru@gmail.com】までどうぞ。

■WANDSリリース情報
『真っ赤なLip』
2020年1月29日(水)リリース
通常盤(CD)¥1000+税
1. 真っ赤なLip  2. 時の扉 〜WANDS 第5期 ver.〜
名探偵コナン盤(CD)¥1000+税 
※「名探偵コナン」描き下ろしアニメ絵柄ジャケット
真っ赤なLip 2. もっと強く抱きしめたなら 〜WANDS 第5期 ver.〜 3. 真っ赤なLip -TV size-

<収録曲>
・真っ赤なLip 作詞:上原大史 作曲/編曲:大島こうすけ
・時の扉 〜WANDS 第5期 ver.〜 作詞:上杉昇 作曲:大島康祐 編曲:柴崎浩
・もっと強く抱きしめたなら 〜WANDS 第5期 ver.〜 作詞:上杉昇・魚住勉 作曲:多々納好夫 編曲:柴崎浩

■SARD UNDERGROUNDリリース情報
『少しづつ 少しづつ』

初回限定盤(CD+DVD+Photoブックレット12P)¥1,800+税
1. 少しづつ 少しづつ
作詞:坂井泉水 作曲:大野愛果 編曲:鶴澤夢人 / 長戸大幸
2. Good-bye My Loneliness
作詞:坂井泉水 作曲:織田哲郎 編曲:鶴澤夢人 / 長戸大幸
3. 少しづつ 少しづつ(off vocal)
4. Good-bye My Loneliness(off vocal)
[DVD]「少しづつ 少しづつ」Music Video+メイキング映像

通常盤(CD)¥1,000+税
1. 少しづつ 少しづつ
  作詞:坂井泉水 作曲:大野愛果 編曲:鶴澤夢人 / 長戸大幸
2. Good-bye My Loneliness
  作詞:坂井泉水 作曲:織田哲郎 編曲:鶴澤夢人 / 長戸大幸
3. 少しづつ 少しづつ(off vocal)
4. Good-bye My Loneliness(off vocal)

名探偵コナン盤(CD)¥1,000+税
1. 少しづつ 少しづつ
  作詞:坂井泉水 作曲:大野愛果 編曲:鶴澤夢人 / 長戸大幸
2. 愛は暗闇の中で
  作詞:坂井泉水 作曲:栗林誠一郎 編曲:鶴澤夢人 / 長戸大幸
3. 少しづつ 少しづつ(TV size)

WANDS公式サイト
SARD UNDERGROUND公式サイト

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む