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(sic)boy/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー

ロックからパンク、ヒップホップ……ボーダレスな音楽を自分流に昇華する (sic)boyインタビュー

特集連載

第29回

Photo:Momo Angela

ナイーブな自分自身にひとつ、アルバムとしてピリオドを打てたらなと思った

── 前作『CHAOS TAPE』が多くの反響があって、(sic)boyという名前を知ってもらえた作品となりましたが、今回のアルバム『vanitas』へはどんなふうに制作に向かっていきましたか。

今回の『vanitas』はLAでの制作もあったりしてか、またガラッと雰囲気を変えて、心機一転表現の方法を変えてみたりとか、歌詞の書き方とかも少しずつ、少しずつマイナーチェンジができたかなっていう思いはありますね。

── アルバムへのプランはいつ頃からあったのでしょう。

『CHAOS TAPE』がリリースされてからすぐに、EP『social phobia』を出したりもしたんですけど、つねに何かリリースが終わったら新しい曲を作らないと落ち着かないというか(笑)。プランを立てたというより、ずっとやってきた結果みたいなものなんです。

── ずっと地続きなんですね。曲を作ってないと落ち着かない?

そうですね。今回も、『vanitas』を出して、12月12日に恵比寿LIQUID ROOMでのリリースパーティ「(sic)boy Live in Tokyo vanitas」が終わって……2020年内に何か曲を作らなきゃってスタジオに行ったりもしましたね。つねに制作をして、デモができ上がっていないと落ち着かない人間なのかなって改めて気づきました(笑)。

── (sic)boyは、ロックからパンク、ヒップホップなど音楽的なバックボーンが広いですよね。今回の『vanitas』は、それがまた新しい形になってオルタナティブな作品になったなという印象です。今回は海外での制作もありましたが、フィーチャリングの相手が決まって曲を書いた感じですか、それとも曲があってフィーチャリングが決まっていった感じだったのか、どう進んでいったんですか。

どのフィーチャリング曲もそうなんですけど、そのアーティストさんとやるというのを決めた上でゼロから作ったものが多いですね。シンプルに僕がファンというか、ひとりのリスナーとしてかっこいいなと思うアーティストさんに声をかけさせてもらったんです。ダメ元でと言ったらいけないですけど、快くフィーチャリングで参加してもらえたのは光栄ですね。『CHAOS TAPE』よりも幅広い曲を作るという点では、フィーチャリングに安心感はありましたね。

── 相手が決まって、そこから曲が湧き上がってくるという感じですか。

逆も然りでした。先に自分でデモを作って、この曲はあの人がいいんじゃないかなとか、あの人に合いそうだなというのを自分で妄想するじゃないですけど。きっと、こういう感じで曲を書いてくれるのかなとか、楽しみにしながらやっていったので。すごく制作が楽しかったですね。

── 先に曲があったというとどのあたりですか。

「水風船 feat.AAAMYYY」は最初に自分で作っていた曲でした。チーム内で、AAAMYYYさんの、あの優しい包み込むような声がほしいなって話していたのが実現した曲だったんです。頭の中ででき上がっていることをちゃんと表現してもらえることって、すげえ贅沢なことだなって思いました。

── 「水風船」などは逆のパターンかと思いました、一緒に作り上げたからこそこの形になったのかなっていう。

最初に僕が1ヴァースだけ書いていて、AAAMYYYさんが掛け合いみたいな感じで書いてくれたのに対して、僕もまた新しく書いたりというキャッチボールもありましたね。トラックもそこから、元々自分が作っていたものとガラッと雰囲気が変わって。元々は変則的なビートで、奇妙なトラックだったのがちょっとわかりやすくなりましたね。ドタバタしながらもいい曲にでき上がってよかったです。

── AAAMYYYさんとの組み合わせも新鮮でしたし、ふたりの掛け合いも絶妙ですね。また「落雷 feat.釈迦坊主」も面白い曲で、釈迦坊主とは音楽的な共通項もありそうですし、お互いに共有するものが多くありそうですね。

90年代、00年代のビジュアル系バンドであったりメタルはもちろん、それこそ釈迦坊主さんは本当にいろんな音楽を聴いているし、知っているので、むちゃくちゃいい先輩です。釈迦坊主さんとはかれこれ3年くらいの付き合いなんですよ。TOKIO SHAMANという彼の主催するイベントに出させてもらったのがきっかけで仲良くしてもらっていて、でも意外と一緒に曲を作ったことがないよねっていう、ちょっとした話からできたのがこの曲で。お互いに、びっくりするくらいレコーディングに気合いが入ってました。客演で入ってもらったなかでは、自分でもかなりテンションを上げてやった曲かもしれないです。

── 「落雷」がアルバムのレンジを広げてもいるし、パンキッシュで、ふたりのいいテンションがあるなと思いました。海外勢との曲は全部海外に渡っての作業ですか。

はい、実際にフェイス・トゥ・フェイスで一緒に作って行きました。

── リル・アーロンとの「Creepy Nightmare feat.lil aaron」は本当にいいですよね。パンクやエモなどの音楽的なバックボーンもわかるし、それが新しい形になっている。

リル・アーロンと一緒に曲作ってるよ!って、これは自分でも感動しましたね。ぼーっとしちゃいましたもん(笑)。この曲は、アーロンがスタジオにトゥエンティ・ワン・パイロッツのツアーとかも一緒に回っているダンというギタリストを連れてきていて。スタジオに入った時点で、トラックを作り出していったんですよね。僕の曲をちょろっと聴いてくれていたのかわからないですけど、“こういうの好きでしょ?”みたいのを即見抜いてくれて。そこに、自分が歌を入れて、OK、OKっていう感じで2ヴァース目を書いてもらって──とでき上がっていったんです。

── ならではの作り方ですね。

とにかく初めてのことだったし、初対面でサクサクとトラックができ上がっていくのを見て、こういうものなのかな?っていうか。実際に僕が好みの感じを汲み取ってくれたのかなって思うと、うれしいですね。海外での制作ですごく思ったのが、LAのアーティストはみんなスタジオに入ると決めたら、ずっと作業しているんですよ。初めましての挨拶よりも、とりあえず作ったトラック聴けよみたいな(笑)。そういう切り替えが大事なのかなって思いましたね。スタジオに入ったらやっぱりシャキッとしなきゃいけないなって、ちょっと反省しました。

── すごくいい制作ですね。しかもこの曲での歌い方、ボーカルの感じもあまりなかったなと思っていて。エモーショナルで、熱さ、衝動感が生々しくパッケージされているのが曲とマッチしていますしね。

いつもはボーカルはハモりをやったりして3本くらい録ることが多いんですけど。あの曲だけ、ヴァース部分を1本だけにしているんです。そういう新しい挑戦的なレコーディングではありましたね。だから雰囲気もちがって聞こえるのかもしれないですね。

── 曲としてのテーマというのはありましたか。

LAに着いてからずっと緊張していたんですよ。正直、落ち着かないし早く帰りたいなって思いながらやっていたんですけど(笑)。そんななかでも、ちゃんと作ろうって思って。これまでも、不安であったりネガティブな部分を武器に、曲を書いてきたんですけど、LAでなおさらそれを痛感して。あとはやっぱり日本語でちゃんと歌う、日本語で歌詞を書く、そういうのが自分の武器だなと思ったので。これといったテーマがあったというよりは、“日本語”であったり、不安、自分と向き合えるかという感じがあったと思いますね。

── “vanitas”は、空虚を意味する言葉で。絵画などのジャンルでも、儚さを表現するものですね。この言葉、テーマ的に出てきたのはどういったところからですか。

LAで制作をしたり、日本に戻ってきてもずっと制作をしていて。そろそろまとめに入ろうとなった段階で、vanitasというテーマを掲げて作ったらいいんじゃないかと思ったんですよね。結構歌詞にも出てきていると思うんですけど、ナイーブな自分自身にひとつ、アルバムとしてピリオドを打てたらなと思ったのはありました。あとは、それこそ今の時代に大事な要素なのかなと思って。絵画でもそうですけど、アートも音楽もファッションも、流れが早いなって思って。流行り廃りとかではなくて、ずっと残るアルバムになってほしい思いもありました。そういう自分自身の決意表明とでもいうか。

自分自身で、ラッパーだとか俺はロックする人なんだとかは全然言うつもりもない

── (sic)boy自身、聴いてきた音楽も年齢と合ってないとでもいうか、流行りかどうかで音楽を聴いてない感じがありますよね。

そうですね。友達とかともあまり音楽の話はしないかもしれないですね(笑)。

── 流行っているもの、みんなが聴いているものにはあまり興味がなかった子供時代ですか。

J-POPもそうですけど流行っているものも好きだったし、変わった音楽も好きだったし、食わず嫌いはしてこなかったかもしれないですね。

── そういう中で何が(sic)boyの音楽性や精神性というのを作ってきたと自分で感じますか。

いつになっても、やっぱりL’Arc-en-Cielの存在はでかいですね。小学6年生くらいからずっと好きなんですけど、ラルクがいなかったら多分バンドとかにも興味を持たなかったし。ラルク以外でもたくさん聴いてきたバンドはいますけど、存在はでかいですね。

── そこから彼らのルーツを調べてみて、自分でも聴いたり、そこから広げていく感じですかね。

そうですね。ニルヴァーナであったり、マリリン・マンソンであったり、早い段階でどっぷりハマっちゃったので(笑)。最近になってまた、自分のルーツとなったものを辿って聴いてみると、自分のサウンドにも表れているなみたいな、好きなんだろうなって思いますね。マイ・ケミカル・ロマンスとかも大好きですしね。

── そこは意図していたわけではなくて、自然に溢れちゃってたわけですね。

そうですね、めちゃくちゃファンなのかもしれないです。ファンだからこそ、その色が出ないわけないよねっていう。それがルーツとして色濃く出ているのは、幸せなことですけどね。

── そういうのがより今回はよりサウンドや全体から透けて見えますね。「FLN feat. Jez Dior」なんかもそうで、インディロック的なワクワクするようなギターの音ではじまって。

ギターのブリッジミュートから入るラッパーもあまりいないと思いますね。バンドサウンドっぽさもありつつも、フックで落ちるところがあったりとか。Jezのヴァースもそうなんですけど、リバイバル2000年代とか、西海岸でのノリとかを表現したかったかなと思います。

── 実際、海外でレコーディングしているときに、現地での今の雰囲気であるとか、こういう音楽のノリなんだなというので感じたことはありましたか。

とくに今回参加してもらった海外のアーティストはみんな、ポップパンクやロックがめちゃくちゃ好きで。しかも、彼らも僕と一緒でもろにそれが曲に表われちゃってるなというか。流行りのものをむちゃくちゃ聴くというよりは、2000年代のポップ、パンク、エモのカルチャーが好きなパンクキッズのままというか、童心を忘れないというんですかね。そういう点でみんなキラキラしていました。それをちゃんと今の音に仕上げていくというのはさすがだなと、作っていて思いました。

── 自分自身もそういうところはあるのでは。

そうかもしれないですね。バンドで活動してないのにこういうロックなサウンドを作れるというのは、自分の武器のひとつでもありますし。どちらも好きなんですよね、ヒップホップもロックも。それはサウンド面によく表われていたらいいなと思ってます。

── ボーダレスですよね、聴く人によってはロックだパンクだという人もいるしヒップホップだ、ポップスだっていう人もいるだろうし。

それが楽しいですよね。自分自身が、ラッパーだとか俺はロックする人なんだとかは全然言うつもりもないですし、それは聴く人がそのタイミングであったり、誰と聴いているのかとかで、ラッパーだと思ってくれたらそれもそれ嬉しいし。

── そういう存在であるということは、居心地としてはどうなんでしょう。

あまり考えてないかもしれないです(笑)。普段、ぼーっとしてるので。自分を俯瞰的に見ることはあまりしないかもしれないですね。

── 作品への反響、リアクションがあった時に、面白いと思ってもらえているのかなと実感する感じですか。

安心しますね。めちゃくちゃなことをやっても聴いてくれる人がいて、いいねとか、ここがこうよかったっていう説明をされているときは安心します。めちゃくちゃやりすぎちゃっていて、でもみんなちゃんとついてきてくれることは幸せですね。

── めちゃくちゃやってる自覚はあるんですね(笑)。先ほど、制作しながら変化した曲などもあったということでしたが、制作の中で面白かったな、印象的だったなという曲はありますか。

「Misty!!」かな。この曲はアルバムの中では最後に作ったんです。この曲に込めた思いやリリックもそうですけど、ちょっと叫んでいるくらいの歌い方にもなっていて。アルバムで聴いてほしいと思う曲をひとつ挙げてって言われたら、「Misty!!」かもしれないですね。これは、『CHAOS TAPE』やEP『social phobia』の時は絶対にできなかっただろうなと思うし。原点じゃないですけど、SoundCloudに曲をあげていた時の自分っぽいなって思います。(sic)boyとしてやっているその皮を脱いで、SoundCloudの時のスタイルでも勝負できるんじゃないかなって思って。そういう前向きさがあるというか、ポジティブな自分でいられたのかなって。「Misty!!」はお気に入りですね。

── “!”がふたつもついてますしね(笑)。

そうですね(笑)。元気いっぱいですね。

── 「Misty!!」がで上がってアルバムできたなという感触も?

うん、安心しました。曲を並びで見たときに、なんか足りないなと思ったらこれかという、穴埋めが終了した感じで。

── ラストにくるオーガニックなサウンドの「Heartache」はどうですか。

「Heartache」もそれこそ、SoundCloudにあげていた時に作った、自分にとっては大切な曲で。SoundCloudの時の自分からは、聴いてくれる人が増えて環境もちょっと変わったんですけど。でも芯にあるものは変わっていないし、別にLAに行って作っても日本で作っても、結局自分がやりたいことをやれているという。何も変わっていないんだよという思いを込めて、再録したんです。本当はドラムとかが入ってもおかしくなかった曲なんですけど、あえてギターと声だけでシンプルに作りました。

── SoundCloudに自分の曲をあげていた時って、聴いてほしい、知ってほしいみたいな欲っていうのはあったんですか。

最初は本当に遊び半分で作っていたんです。それが思ったよりも、SoundCloudって、世界中で音楽を深く掘ってる。人が聴いているんだなって。それが楽しくて仕方なくて。それこそ「Heartache」がきっかけでちょっとSoundCloudがバズったんですよね。そこからはじまったし、その時の気持ちを忘れないように。

── そう考えると自分のヒストリーみたいなものが詰まっているアルバムですね。

そうですね、今出来る限りのベストを尽くして制作をして。よかったですね、自分でも気に入っていますし。

── 2021年末に記念すべきアルバムがリリースとなって、2022年はどういう活動をしていきたいですか。

ぼんやりと考えているのは、生演奏、フルバンドでのライブや作曲。それは目標としてずっと考えているので、積極的に打ち込んでいこうかなと思っていますね。そもそもロックバンドが好きで、そういう憧れもあるので(笑)。なかなか大変だと思いますけど、そこをまた乗り切るというか、表現できたら多分自分にとっての強みになると思っているので。

Text:吉羽さおり/Photo:Momo Angela

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リリース情報

2ndアルバム
『vanitas』
2021年12月8日リリース
配信リンク:https://nex-tone.link/vanitas

プロフィール

オルタナティブ、エモ、ラウドロックの要素やJ-ロックにみられるメロディアスなフローをヒップホップに落とし込んだスタイルで稀有な存在感を放つ(sic)boy( 読み:シックボーイ)。
2019年にSoundCloud上に公開された楽曲の強度の高さが話題を呼び、2020年10月に1stアルバム『CHAOS TAPE』をリリース。東京をテーマにした独自の世界観とジャンルレスなサウンドから“ジャンル東京”と称され、サブスク合計再生回数は8000万を突破した。
Spotify「RADAR:Early Noise 2021」への選出、Apple Music「Up Next」への選出、YouTube Music「YouTube Music Sessions 2021」へ選出されるなど国内で大きな注目を集め、アメリカの大手ヒップホップメディアLyrical Lemonadeで、日本人アーティストでは初めて楽曲レビューがアップされるなど、海外でもその存在が注目され始めている。
12月8日には(sic)boy名義として初となる1stアルバム『vanitas』をリリースした。

関連リンク

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番組概要

放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
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