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浜端ヨウヘイ×寺岡呼人が語り合う、“詞先”の醍醐味「無数のエピソードが時代になっていく」

リアルサウンド

19/10/22(火) 12:00

 シンガーソングライター・浜端ヨウヘイがメジャー1stミニアルバム『今宵、月の瀬で逢いましょう』をリリースする。シングル曲「カーテンコール」(本作にはピアノ弾き語りバージョンを収録)、「もうすぐ夏が終わる」を含む本作のプロデュース、作詞は寺岡呼人が担当。全曲“詞先”で制作され、日本語の歌詞の美しさと叙情性、歌い手としての浜端の魅力を味わえる作品となっている。

 本作のリリースを記念し、浜端と寺岡の対談を企画。ふたりのコラボレーションを中心に、ソングライティング、歌に対するスタンスについて語ってもらった。(森朋之)

インスパイアを与えてくれるボーカリスト(寺岡呼人) 

ーー浜端ヨウヘイさん、寺岡呼人さんの出会いはライブだったとか。

浜端ヨウヘイ(以下、浜端):はい。最初の出会いは高知県のライブハウス(高知X-pt.)で。

寺岡呼人(以下、寺岡):自分のソロツアーをやっていて、ライブハウスのオーナーから「浜端ヨウヘイをゲストで呼びたいんだけど」と言ってもらって。まずライブを観たかったから、あえて音源を聴かなかったんですけど、リハーサルの時点で「すごいな」と思ったし、本番のライブもかなり衝撃で。こういう“圧”のあるボーカリストって、最近いないなと思ったんですよね。で、打ち上げのときに「一緒に曲を作ろう」と自分から言って。

浜端:飲みの席だし、自分としては「もしそんなことがあったら嬉しいな」という気持ちだったんですよ。でも、その2カ月後くらいに、「歌詞を書いたんだけど、どうかな?」って本当に送ってくださって。それが「カーテンコール」の歌詞だったんですけど、すぐに曲を付けて、お戻ししました。そのときはまだメジャーデビューもリリースも何も決まってなくて、呼人さんからは「次のツアーにも誘うから、そのときに演奏できる曲を作ろう」と言っていただいてたんです。

ーーそれくらい制作意欲を刺激されるシンガーだったと。

寺岡:そうですね。高知のライブの打ち上げのときに、たぶん「“圧”をそのまま出せる曲がいいと思う」と言ったんですよね。スケール感を出せる曲というか。

浜端:体もデカいんで(笑)。

寺岡:(笑)。もう一つ言ったのは、「フレームに入って初めて作品になる」ということで。ゴッホの絵もそうですけど、額縁に入って初めて作品になると思うんですよ。その最初の答えが「カーテンコール」なんですよね。ああいうスタンダード感のあることで浜端くんの歌が額縁に入るというか、唯一無二の曲になるんじゃないかと。作った時点ではあくまでも僕の想像でしたけど、このスタジオ(取材場所のプライベートスタジオ)で歌ってもらった瞬間、「まさにこれ!」という感じになって。2人でずいぶん盛り上がりました。

ーー呼人さんの思い描いた通りの曲になった、と。

寺岡:それ以上ですね。すごいボーカリストだなと改めて思ったし、そのときのテイクをそのまま使ってる部分もかなりあって。

浜端:8割方はデモのボーカルを使ってもらってます。もちろんレコーディングもやったんですけど、デモのテイクをなかなか超えられなかったんですよ。というのも、デモを録った後、何度かライブで歌っているうちに、「カーテンコール」の歌詞の意味や世界観をもっと理解しようと頭で考えて歌うようになっていって……。デモの時は、まだ素のままの自分で歌に向き合えていたんでしょうね、たぶん。いまはさらに歌い込んで、しっかり自分のものにできた実感があるんですけどね。

寺岡:「いまはこれが流行ってるから」ではなくて、10年、20年、30年経っても色あせないスタンダード感というか。「この曲って、昔からあったんじゃないか?」という感覚になるくらいの曲が彼には似合うと思うんです。

浜端:実際、そういうことが何度もあったんですよ。近しい人がいる場所で何も言わずに「カーテンコール」をかけると、「この曲、何だっけ?」っていう人が何人もいて。

ーー歌詞にも普遍的なメッセージが込められていますね。時代は移り変わって、次の世代の人たちが舞台に立つという、時の流れみたいなものが描かれていて。

浜端:この歌詞を送っていただいたときは、ちょうど平成が終わるタイミングでもあったので、そのことを意識して書かれたのかなと思って。それから半年経って、日本の至るところで歌わせてもらうなかで、いろんな人がそれぞれのシチュエーションで聴いてくれて。もちろん“時代”がテーマなんだけど、そのなかにはたくさんの人がいて、その誰もが主人公だと思うんですよ。卒業する人もいれば、仕事を引退する人、転職する人もいると思うんですけど、どの人にとってもテーマソングになるような曲というか。

ーー大きな時代のうねりのなかには、ひとりひとりの人生や生活があると。

浜端:そうですね。無数のエピソードがあって、それが時代になっていくという。すごく大きなテーマだし、「カーテンコール」は僕自身のテーマソングでもあると思ってるんです。この曲でメジャーデビューもさせてもらったし、自分の人生に外せない曲になりました。

ーー呼人さん自身も、元号が変わることも含め、時代の変化を意識してこの歌詞を書かれたんですか?

寺岡:それはもちろんありますが、歌詞としては、「カーテンコール」というタイトルを思いついた瞬間にガッツポーズというか、「これでいける!」という感じがあったんです。この言葉自体もどこか懐かしいし……。

ーー懐かしさもありつつ、いまの時代にピタッと重なるところもあった。

寺岡:ええ。阿久悠さんはたぶん、「この歌手にこういう歌を歌ってもらって、こういう人たちに感動してもらいたい」という思いで作詞をされていたと思うんですが、その感覚がちょっとわかった気がして。浜端くんのような稀代のボーカリストを通して、歌を伝えることはどういうことかっていう。

浜端:6月に呼人さんと一緒にツアーを回らせてもらったんですが(弾き語り2マンツアー『浜端ヨウヘイ&寺岡呼人ツアー2019 〜新時代〜』)、ステージ上で呼人さんが「俳優と映画監督みたいな関係」と仰ってて。

寺岡:そのときに言ってたのは、三船敏郎と黒澤明のことなんですよね。たぶん黒澤監督は、三船というアクターに出会ったことで、どんどんインスピレーションが沸いていたと思うんです。「侍の次は浪人、その次は赤ひげ」という感じで、次々とキャラクターが生まれて、それが作品になって。三船もそのたびに「これを乗り越えてやる」という気持ちで演技してたんじゃないかなと。(浜端は)そういうインスパイアを与えてくれるボーカリストなんですよね。

ーー当然、浜端さんにとっても新しい体験ですよね。これまでシンガーソングライターとして活動してきて、自分以外の作家が書いた歌詞を歌うのは初めてだったと思うので。

浜端:そうですね。呼人さんの歌詞には、自分のなかからは出てこない言葉やフレーズがたくさんあります。ただ、最終的にはそれを自分の歌として発するわけですし、曲も書かせてもらっているので、メロディと歌唱によって、自分の歌にするというか。

 今回のミニアルバムの曲もすべて歌詞が先なんですけど、(メロディを付け、歌うことで)噛み砕く時間を与えてもらっているんですよね。そのなかで生まれて、自分のものにした歌をしっかり発する。いちばん最初は難しかったし、「むむ!」ってなりましたけどね。

寺岡:そうだよね。

浜端:でも、よく考えたら、カバー曲でも同じようなことをやってるんですよ。去年、カバー曲と新曲だけのツアーをやらせてもらったんですが、カバーする曲も自分で書いたつもりで歌っていて。今回のプロジェクトはその先にあるものだと思うし、心構えとしても近いんじゃないかなと。いい歌を聴いてるときって、誰が書いたかなんて気にしないじゃないですか。

浜端ヨウヘイ「カーテンコール」Music Video Full ver.

この先、自分がどんな曲を作れるのかも楽しみ(浜端ヨウヘイ)

ーー2ndシングルの表題曲「もうすぐ夏が終わる」は、日本的な情緒が色濃く出ている曲ですね。

寺岡:日本的なスタンダードということでは、「カーテンコール」と通じていると思います。

浜端:季節感のある曲って、自分ではほぼ書いたことがなかったんです。しかも「もうすぐ夏が終わる」は、夏の終わりというピンポイントな期間だし、「カーテンコール」以上にディスカッションしながら作っていきました。メロディや歌い方についても、「ニッポンの夏に寄せるなら、こういう感じがいいんじゃないか」とアドバイスをもらって。

寺岡:浜端くんは引き出しが多いから、ぜんぜんラクでしたけどね。

浜端:歌詞が届いて、メロディを付けてお戻しすると、すぐに「OKです」ってなることもあって。「ホンマに?」と思ったりもしました(笑)。

寺岡:メロディが付いた時点で、完成図が見えることが多かったんですよ。いまのJ-POPはまずメロディとアレンジを決めてから、最後に歌詞を乗せることが多いと思うんですけど、今回はまったく違っていたので。

ーー呼人さんは以前から“詞先”という手法を取り入れていますが、やはり尽きないおもしろさがあるんでしょうか?

寺岡:もちろん人によって違うんですけど、浜端くんの場合は、どんなタイプの歌詞を投げても、しっかり打ち返してくれるんですよ。それは作詞家冥利に尽きますね。詞先って難しいと思うんですけどね。特にシンガーソングライターが人の書いた歌詞にメロディを付けるのは大変じゃないかな。

浜端:人からもよく「詞先って難しくない?」って聞かれます。でも、僕はそっちのほうが自然なんですよね。自分で曲を書くときも、まず歌いたいことがあって、その言葉に対するメロディを決めるところからはじめるので。言葉とメロディが仲良くしてないとダメだと思うし、そのやり方しか知らないんですよ。逆にメロディが先に決まってると、言葉を削ったり足したり、言い換えなくちゃいけないこともあると思うし。今回のプロジェクトでも、呼人さんから届いた歌詞はなるべく変えずに歌いたかったんですよね。

浜端ヨウヘイ「もうすぐ夏が終わる」Music Video Full ver.

ーーミニアルバムの新曲についても聞かせてください。まずは「月の瀬橋」。おふたりが出会った高知を舞台にした曲ですが、これはどんなテーマで制作されたんですか?

浜端:呼人さんと回らせてもらった2マンツアーの初日が高知だったんですね。(浜端が所属する)オフィスオーガスタの創立者・森川欣信最高顧問も観に来ていたんですが、森川さんは高知の出身で、打ち上げの席で「地元に月の瀬橋という橋があって、子どもの頃は木製だったその橋からよく川に飛び込んで遊んだりして〜」という話をしていて。そしたら次の日、岡山までの電車のなかで呼人さんが、「“月の瀬橋”をテーマに歌詞を書いたんだけど、どうかな?」って。 

寺岡:電車で書きました(笑)。

浜端:その歌詞に曲を付けて、ツアーの後半でもうさっそく披露して。それが「月の瀬橋」ですね。

寺岡:橋の名前の由来はわからないですけど、昔の人たちが「ここに来れば、月の瀬まで行ける」と思っていたのかもしれないし、素敵なネーミングだなと思って。そこから想像を膨らませて書いた歌詞ですね。歌詞のヒントはどこにあるかわからないし、おかげさまで、お酒を飲んでも記憶がなくならいほうなので(笑)。

ーーこの曲が「今宵、月の瀬で逢いましょう」というミニアルバムのタイトルにつながった?

寺岡:そうですね。ユーミン(松任谷由実)の「昨晩お会いしましょう」だったり、中島みゆきさんの「わたしの子供になりなさい」もそうですけど、そういう口調のタイトルがいいなと思ったので。

ーー「証言台」は往年のフォークソングを想起させる楽曲。男性のモノローグによる曲ですが、ひとつの物語を聞いているような味わいがあります。

寺岡:「カーテンコール」と同時期に書いたんですけど、「彼女と別れた男性が、証言台で独白するっておもしろくない?」というところから始まって。他の曲もそうですけど、思い付きですよね(笑)。〈お集まりのみなさん そして裁判長〉からはじまるんですけど、これこそ詞先の特徴が出てますよね。メロディが先にあったら、こういう歌詞は乗せられないと思うので。

浜端:しかも、自分だったら絶対に書けないです(笑)。じつはめっちゃ手ごわかったんですよ、この曲。冒頭とサビでリズムも違うし、僕のなかではかなりの大作ですね。自分の気持ちを歌った曲ではないからこそ、より“モノ作りをしている”という感覚でやれたというか。「証言台」を作った頃から、呼人さんから届いた歌詞にメロディを付けて打ち返すスピードが上がった気がします。

寺岡:そうかもね。僕もしっかり字数を揃えるようになったし。浜端くんはピアノも上手だし、いろんな方向から返してくれるのもいいんですよね。

浜端:ありがとうございます。ただ、僕がやってきたことは全部、我流なんですよ。それこそ呼人さんが作ってこられた曲を聴いて育った世代なんですが、どこにルーツがあるかもよくわからないし、無手勝流というか、曲作りもずっと一人でやってきたので。だから今回の制作は、学ぶことばかりでした。僕が手癖で作ったコード進行に対して、「Bメロはこのコードにしてみたらどう?」みたいなアドバイスもたくさんいただいて。「そのコード、どうやって押さえるんですか?」ということもあったけど(笑)、自分がやってきたことをいい意味で崩して、新たに積み上げるような感覚でしたね。

ーー「グビッ!〜はたらき蜂賛歌〜」は、“とりあえず飲んで、明日もなんとかがんばりましょう”という働く男たちに対する応援歌。この曲も浜端さんのキャラクターにぴったりだなと。

浜端:「酒飲みそう」ってことですか(笑)。

寺岡:(笑)。昭和30年代の高度成長期のサラリーマンは、クレイジーキャッツの歌を聞いて「明日もがんばろう」と元気をもらってたと思うんです。いまの時代はそういう歌がないし、それを浜端くんに歌ってもらったらどうだろう? と。僕のなかではかなり壮大なイメージがあるんですよね。“2(拍目)、4(拍目)”で手拍子してもらって、何なら“手もみ”も入れて(笑)。ライブでも盛り上がると思いますね。

浜端:まだライブで歌ってないんですけど、鉄板ソングにしたいです。

寺岡:ほかの曲もそうなんですけど、このプロジェクトは基本的にテーマソングを作ってる感覚があるんですよね。浜端くんにこういう曲を歌ってもらって、こういう人たちに感動してもらいたいっていう。

ーー「かけら」にはどんなテーマがあるんですか?

寺岡:きっかけは、Netflixの『OUR PLANET 私たちの地球』ですね。世界中の自然や動物をテーマにしたドキュメンタリーなんですが、それをずっと見ていて。“アフリカの砂漠の砂が舞い上がって、それが海に届いて、プランクトンが発生して、そこにクジラが集まってきて”とか、とにかくすごい映像だし、「ここと僕等はつながってるんだな」という気持ちになれて。そういう壮大な歌をこの男に歌わせたいというのが、「かけら」の始まりですね。歌詞を送ったときも、「壮大な曲にしてほしい」という注文を付けて。

浜端:オーダーをいただきました(笑)。この曲がいちばん好きなんですよ、個人的には。こういう土着的な感じ、大陸感がある曲が好きっていうのもあるし、自分の自身の思いも重ねられるというか。僕は30代になってから東京に来たんですけど、ここ数年は海外に連れていってもらう機会も増えて。それまでは関西しか知らなかったから、視界が一気に広がったんですよね。「かけら」の歌詞はまさにそういう内容だし、思い入れも強いです。いいことも悪いこともあるけど、ぜんぶ繋がって、いまに帰結しているというか。

ーー寺岡さんとの制作を通して、得られたものは非常に大きいですね。

浜端:そうですね。圧倒的に幅が広がったし、自分の引き出しを増やしてもらったというか。さっきも言ったように、ずっと一人で曲作りをやってきたので、師匠みたいな人はいなかったんですよ。呼人さんにはお手本を示してくださるし、制作も勉強になることばかりで。それを経てこの先、自分がどんな曲を作れるのかも楽しみですね。

寺岡:これまでに浜端くんが作ってきた曲、この1年の間に僕と一緒に作った曲が合流することで、2020年以降の音楽活動に化学変化を起こしてほしいなと思います。ミニアルバムの曲をライブでやって、お客さんと触れ合うことでもっと成長できるだろうし。

ーー詞先という方法の深さと可能性を実感できるのも、このプロジェクトの収穫だと思います。

寺岡:これからの時代に必要なのは、ファンタジーとリアルの使い分けだと思ってるんですよ。浜端くんはもしかしたら「俺、こういう感じじゃないな」と思いながら曲を作ってたかもしれないけど、ファンタジーとリアルを行ったり来たりできる人であってほしいという気持ちもあって。“これが自分の日常です”という歌ではなくて、“こんなこと歌ってるけど、本当なのかな”“もしかしたら、そうなのかも”と思われるような歌を歌うことで、浜端ヨウヘイのアーティスト像が作られていくんじゃないかなと思うので。

(取材・文=森朋之/写真=三橋優美子)

■リリース情報
浜端ヨウヘイ
『今宵、月の瀬で逢いましょう』
発売:2019年10月23日(水)
価格:¥1,818(税抜)
【収録曲】
1. 月の瀬橋
2. もうすぐ夏が終わる
3. グビッ!~はたらき蜂賛歌~
4. 証言台
5. カーテンコール(弾き語り)
6. かけら

寺岡呼人
『NO GUARD』
発売:2019年11月27日
価格:¥3,000(税抜)

浜端ヨウヘイ オフィシャルサイト
寺岡呼人 オフィシャルサイト

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