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【おとな向け映画ガイド】

圧倒的な演技、米アカデミー賞主演男優賞アンソニー・ホプキンスの『ファーザー』をおすすめ。

ぴあ編集部 坂口英明
21/5/2(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(5/7〜8)に公開される映画は、コロナ禍の緊急事態宣言を受けて大半が延期となり、映画館も東京・大阪を中心に休館が続いています。ご鑑賞の際は、作品や映画館の公式サイトで上映時間などをご確認いただいたうえでお楽しみください。今回は、次週公開予定の作品から、アカデミー賞主演男優賞と脚色賞を受賞した、まさに「おとなの映画」をご紹介します。

認知症の父親の目に映る世界はミステリー
『ファーザー』



アンソニー・ホプキンスが、4月26日に発表された米アカデミー賞で主演男優賞を受賞した作品です。今回のアカデミー賞は、あまりにも早くこの世を去った名優チャドウィック・ボーズマンが本命といわれ、ホプキンスの受賞は大番狂わせだったという声もありますが、この映画を観れば納得。『羊たちの沈黙』以来、約30年ぶりの快挙となった主演男優賞受賞にふさわしい、神演技です。

ロンドンで独り暮らしをする81歳のアンソニーのまわりでは、このところ、不可解なことが続きます。娘のアンがやってきて、新しい恋人ができたのでパリに引っ越すと告げます。そのアンの姿が見えないと思ったら、夫だという男が突然現れ、ここは自分の家だ、といいだす。もうひとりの娘、ルーシーも顔をみせはしますが、すぐにいなくなります。愛用の腕時計がなくなってしまったり。これは介護にきている女性が盗んだのではないのか……。

気難しく、自尊心の強い老人が軽い認知症にかかると、日々の生活はまるでミステリーのような話の連続にちがいありません。住んでいるところだって自分の家だと信じているのに、娘は彼女の家につれてきたのだという。ほんとにわけがわかりません。そんなふうに、この映画は認知症になってしまった当事者の視点で描かれています。新しくもあり、ユニークな仕立てのドラマなのです。

監督は映画初演出のフロリアン・ゼレール。フランス出身の小説家、劇作家で、本作の元となった戯曲『Le Père』は自国のフランスのモリエール賞を受賞したほか、世界各国で上演され、アメリカ・トニー賞、イギリス・オリヴィエ賞と、世界演劇界の名だたる賞で作品賞にノミネートされています。日本では『Le Père 父』のタイトルで橋爪功が演じ、絶賛されました。映画は、昨年世界で公開。役名もアンソニー、年齢と誕生日も同じ、ホプキンスに「あて書き」されています。ゼレールと脚本家のクリストファー・ハンプトンはこの作品でアカデミー賞脚色賞を獲得しました。

娘アン役は『女王陛下のお気に入り』で2018年にアカデミー賞主演女優賞を受賞した実力派オリヴィア・コールマンが演じています。やはり、今回この作品で助演女優賞にノミネートされました。暴走する父に翻弄されながら愛をそそぐという難しい役どころです。

音楽、美術など、細部への気配りがあり、ていねいに作られた作品です。特に、ホプキンスの住むフラットのインテリアや、主人公の心の乱れを映し微妙に変化していくセットデザインが見事です。

【ぴあ水先案内から】

佐々木俊尚さん(フリージャーナリスト)
「……患者から見れば、世界はまるで謎に満ちたミステリーのような展開になる。それをそのままミステリーの映画作品として結実させており、監督・脚本をつとめているフローリアン・ゼレールの物語ぶんまわし能力は半端ではない……」。
https://bit.ly/3e7dIP7

紀平重成さん(コラムニスト、元毎日新聞記者)
「……過去の記憶は失われても怒りや悲しみといった感情は豊かに持ち続けることができるという病気の基本をしっかり押さえました。……」
https://bit.ly/3eJjs0a

高松啓二さん(イラストレーター)
「……まるでサスペンスホラーのようだ。特に頻繁に映るドアとシンメトリーの室内が、恐怖を演出する。……」
https://bit.ly/3aPZ5h4

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