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秋ドラマのポイントは“獣”? 『けもなれ』『大恋愛』『中学聖日記』女性脚本家たちの狙い

リアルサウンド

18/10/22(月) 14:00

 新垣結衣と松田龍平がW主演しているドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)が面白い。先ごろ前編が放送された北川景子主演のドラマ『フェイクニュース』(NHK総合)も高評価を獲得するなど、「今、最も勢いのある脚本家」と言っても過言ではない野木亜紀子のオリジナルストーリーだ。

参考:野木亜紀子が描くヒロインの共通点は“普通”? 『フェイクニュース』『けもなれ』から読み解く

 新垣演じる主人公・深海晶は、ECサイト制作会社で働く女性。テキパキと仕事をこなすのは良いけれど、仕事ができる以上に、その人の良さと面倒見の良さに付け込んで、周囲の人々からいいように仕事を振られ、その本音を言葉にすることもままならないなか、日々慌ただしく過ごしている人物だ。そして、松田龍平演じる根元恒星は、個人事務所の会計士・税理士。一見すると、誰に惑わされるでもなく飄々と自らの人生を進めてきたよう思えるけれど、実は誰のことも信用せず、その胸の内を他人に明かすことのできない人物だ。そんな2人が近所の飲み屋で偶然出会い……けれども、今のところ恋に落ちる気配はないという物語。

 それにしても、別れたはずの彼女と実は今も暮らしている晶の恋人・花井京谷(田中圭)、恒星と最近まで付き合っていたにもかかわらず、交際ゼロ日の男と突然結婚してしまった橘呉羽(菊地凛子)など、晶と恒星のまわりには、“理性”よりも“感情”で動く人物たちばかりである。彼/彼女らに比べると、理性的すぎるようにも思える晶と恒星は、そんな周囲の人々のなかで、どのように立ち振る舞い、そして2人は、どんな関係を築き上げていくのだろうか。

 “獣”とは何か。それは、まわりの空気や求められる役割など気にすることなく、自分の感情の赴くまま、行動に突っ走ることのできる人間、ということなのだろう。なるほど、一般的に世の中を見まわしてみても、礼節ある社会人として、なかなかそうはなれないのが実情だ。むしろ、そんな“感情的な人々”に、良くも悪くも振り回されてばかりという人も多いのではないだろうか。本作がある人々の共感を獲得し、熱狂的な支持を得ているのは、恐らくそういった理由からなのだろう。けれども、今クールのラインナップを見渡してみると、何やら“獣になった私たち”が多すぎる、という印象があるのもまた事実である。

 有村架純演じる中学教師が教え子と“禁断の恋”に落ちる『中学聖日記』(TBS系)、“人生折り返し、恋をした”という副題の通り、佐々木蔵之介演じる妻子ある主人公が同年代の女性(黒木瞳)と“禁断の恋”に落ちる『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』(フジテレビ系)、戸田恵梨香演じる結婚を目前に控えた主人公が、偶然出会った男(ムロツヨシ)と“突然炎のごとく”激しい恋に落ちる『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)など、周囲の人々の反対を押し切って、恋の渦中に身を投じてゆく“獣たち”。ことほど左様に、今クールは、“獣になった私たち”で溢れている。いずれにせよ、“恋愛”をひとつの象徴として、「感情のままに生きること」、あるいは「そうありたいと願うこと」は、我々視聴者がドラマの世界に求めてやまないテーマということなのだろうか。

 そう考えると、高橋一生演じる生き物の“フシギ”に夢中な大学講師が、エリート歯科医を演じる榮倉奈々をはじめ、周囲の人々の“フツウ”をざわつかせる!?という『僕らは奇跡でできている』(カンテレ・フジテレビ系)は、そういった“獣主義”、あるいは“恋愛至上主義”に対する、ある種のカウンター的な作品であるようにも思えてくる。『僕の生きる道』シリーズ(カンテレ/フジテレビ系)などで知られる橋部敦子のオリジナル・ストーリーである本作は、「“普通”、“常識”、“当たり前”……あなたは、そんな目に見えない“ものさし”に縛られていませんか?」、そう視聴者に問い掛けてくるのだから。無論、冒頭に挙げた『獣になれない私たち』も、ただのラブストーリーには終わらない、興味深いテーマを内包しているように思える。「獣になる/ならない」……人の価値観や生きる道、あるいは男女の関係性というのは、果たしてそれだけなのだろうか? 主人公である男女2人の“恋愛”が、必ずしもメインテーマではない……その意味で、『僕らは奇跡でできている』と『獣になれない私たち』は、不思議な相関関係にあるようにも思えてくる。

 そこで、ある事実に気づいた。ここまで挙げてきたドラマ、そのすべてが女性脚本家の手によるものだということだ。『獣になれない私たち』の野木亜紀子はもちろん、『中学聖日記』の金子ありさ、『黄昏流星群』の浅野妙子、『大恋愛』の大石静、さらには『僕らは奇跡でできている』の橋部敦子……いずれも女性脚本家であり、とりわけ『ラブジェネレーション』(フジテレビ系)などで知られる浅野妙子、『セカンドバージン』(NHK総合)などで知られる大石静は、NHKの朝ドラ執筆経験もある、この道のベテランと言ってよい人物だ。漫画原作とオリジナルという違いはあれど、ベテラン女性脚本家2人が今の時代に描き出す珠玉のラブストーリー。それに対して、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(TBS系)を経て、『獣になれない私たち』へと至った野木亜紀子は、70年代生まれの中堅脚本家。ひょっとするとそこには、世代間ギャップみたいなものも、存在しているのだろうか。

 その意味で、今後の展開が少々気になるのは、『中学聖日記』である。一見すると、『黄昏流星群』や『大恋愛』と同じく、ある種の“恋愛至上主義”に基づいた作品に思える本作だが、原作漫画の作者であるかわかみじゅんこ、脚本の金子ありさ、そして演出を担当する塚原あゆ子……彼女たちは、いずれも70年代生まれであり、言わば野木と同世代のクリエイターたちである(実際、塚原は『アンナチュラル』で野木とタッグを組んでいる)。その彼女たちが、上の世代を同じような“禁断の愛”、あるいは“大恋愛”を、そのままの形で描き出すとは、あまり思えないのだが……有村架純演じる主人公の“純愛”とは、果たして何を意味するのだろうか。そして、町田啓太演じる主人公の婚約者の上司であり、自ら“バイセクシャル”であることを公言する“原口律”(吉田羊)など気になる登場人物たちは、主人公の“純愛”に、どのように絡んでくるのだろうか。それぞれの物語の推移とその行き着く先を、視聴率の数字ともども、引き続きウォッチしていきたいと思う。(麦倉正樹)

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