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ストリーミングサービス、スマートスピーカーは音楽シーンをどう変える? 柴那典&ジェイ・コウガミ&レジーが語り合う

リアルサウンド

18/1/5(金) 10:00

 2017年はSpotifyの国内向けプロモーションが本格化し始めたことを始め、スマートスピーカーの発売や、Kickstarterの日本上陸など、音楽にまつわるサービスが続々と転機を迎えた一年といえる。そんな一年を振り返るため、リアルサウンドでは音楽ジャーナリストの柴那典氏、デジタル音楽ジャーナリストであり音楽ビジネスメディア『All Digital Music』編集長のジェイ・コウガミ氏、音楽ブロガーのレジー氏の3者による座談会を行った。前編では、音楽ストリーミングサービスとスマートスピーカーについての話題をお届けする。(編集部)

 海外と国内視点からみる、ストリーミングサービスの現在

ーーまずはお三方が2017年印象に残った、音楽にまつわるサービスについて伺えればと思います。

ジェイ:僕は日本だけというよりはグローバル寄りで、ビジネス~IT系の視点から。一番のトレンドはやはり、ストリーミングサービスが音楽業界においてメインストリームになったこと。プレイリストという文化も、音楽を聴くうえで欠かせないものになりました。これに関しては、やはりSpotifyの影響力が圧倒的だと思いますし、Spotifyから始まったプレイリスト文化がApple MusicやAmazon Prime Musicなどにも紐づいてきている。もはや一つのサービスの中で完結しない広がりを生みました。

ーー確かに、もはやプレイリストを作る・聴くことは当たり前で、それを使って何をするか、というフェーズに入っているような気がします。

ジェイ:ヒット曲もプレイリストから生まれ、プロモーションもプレイリストから始まるし、社会的・文化的な文脈もプレイリストから生まれるという時代になったのは面白いですよね。世の中で起きてることや、作成者の思想まで見えるわけですから。

 一方、その問題点として挙げられるのは、「キュレーター」と呼ばれるひとたちのパワーバランスであり、アルゴリズムのもつ影響力が大きくなってきていること。その良し悪しはまだ判断すべきフェーズではないと思うのですが、今後はそういったシステムが音楽の価値を決めるのは果たしてどうなのか、という議論に発展すると考えています。

レジー:日本国内に関しては、そのフェーズへたどり着くのはまだまだ先になりそうですね。

柴:ストリーミングサービスの展開については、海外と日本国内で全くレイヤーが違うので、両方の視点から議論が必要だと思います。

ジェイ:そこに関しては、サービスが遅れてスタートした国である以上、しばらくは海外の盛り上がりを追体験する形になるでしょうね。まずはストリーミングが浸透して、そのあとにプレイリストを聴くことが当たり前になって、というふうに。

レジー:Spotifyのローカライズについては、8月に見かけた「無料で聴ける音楽発見アプリ」という広告コピーには衝撃を受けました。いくら何でも品がないだろうという・・・(笑)。違法アプリが幅を効かせている今の日本において、月々約1000円支払うストリーミングサービスをどう普及させていくのかについてはすごく興味があるんですが、何かわかりやすいきっかけがないと爆発的には広がらないのかなとも感じています。ちなみに余談ですが、あるストリーミングサービスのレビュー欄を見ていたら「無料で聴けないなんてクソ」みたいなコメントが並んでいて、その何件かに1件の割合で「back numberが聴けない」という投稿がありました(笑)。

ーーSpotifyをきっかけにブレイクしたアーティストの代表格といえば、ロードが挙げられますが、今年のブレイクアーティストやその傾向について、変化を感じる部分はありますか?

ジェイ:これまでは「有名キュレーター・文化人のプレイリストから、新人アーティストがブレイクする」という流れがありました。ただ、今はメインストリームのアーティストが自分たちでプレイリスト的に作品を作るなど、アーティスト側が仕掛ける目的でプレイリストをスマートに使いこなせるようになってきている。なので、アーティストがアーティストをピックアップする、という流れに面白さを感じています。特に2017年のドレイクとケンドリック・ラマーの2人は完全にストリーミングを制した人たちです。メジャーのビジネスをやりながらストリーミングを制して、なおかつアーティストとして音楽カルチャーの中でのプロップスも得たという。

ーーキュレーターとしての能力も買われていると。

ジェイ:アーティスト側ではプレイリストの重要性に気づき始めています。なので、レーベルやマネージメントのアプローチの仕方にも変化が出てきて、そこに乗り切れない人たちはグローバルな音楽シーンから置いていかれている。

ーーそれぞれの国ではブレイクできても、グローバルな展開を狙うならそのような動きも意識しなくてはならないということですね。日本のアーティストで、その流れに乗れているのはAmPmでしょうか。あそこまでSpotifyのチャートをハックして、グローバルに名前を轟かせるアーティストがいるのかと驚きました。

ジェイ:そうですね。ただ、ストリーミング向けに音作りの方向性を変えているアーティストは増えたと思います。一番顕著なのはK-POPで、最近までリリースされる楽曲の大半がトラップを取り入れたもので、2017年後半はラテン系の音にシフトしてきていて、それもSpotify上の時流を考えた結果だったりする。

柴:確かに、トラップは多いですよね。あくまでこれは僕の捉え方ですが、トラップといわゆる広義の「ヒップホップ」はグルーヴが違うんです。90年代的なヒップホップはグルーヴが裏拍にあって、バックビートにノって言葉を乗せていくものが多い。ただ、トラップはサブベースの低音と、32分音符以下で細かく刻むハイハットがグルーヴを作っていて、小節の頭に重心のある音楽なんです。そこにボーカルが三連譜のフロウで乗っかっていくので、声とリズムの関係性がファンクをベースにしたブラックミュージックのフィーリングと抜本的に違う。テイラー・スウィフトやチャーリーXCXといった世界的にもブレイクしている女性シンガーソングライターも、トラップを取り入れていますよね。

ーーなるほど。BTS(防弾少年団)をはじめとしたK-POP勢の世界展開が順調なのも、そういった要素が含まれていると。続いて、柴さんが衝撃を受けた音楽サービスについての変化とは?

柴:僕もストリーミングに関わる話で、勝手に「エド・シーラン問題」と名付けている現象があるんです。彼はSpotifyのグローバルランキングで三冠をとっている。アルバム『÷(ディバイド)』が最も聴かれたアルバム、収録曲の「Shape of You」が最も聴かれた楽曲に輝いているうえ、彼自身が最も聴かれたアーティストにラインナップされている。間違いなく2017年を代表するアーティストのはずなんです。ただ、エド・シーランの『÷』はグラミー賞で総スカンだし、海外のこの時期に発表されるほぼすべてのメディアや批評家筋のランキングからもスルーされている。

ーー確かにそうですね。

柴:ここ数年は、アデルやジャスティン・ビーバーやドレイクなど、最も売れた作品、聴かれた作品がそれにふさわしい作品としての評価を得る、という流れがあったんです。ですが、エド・シーランはそうなっていない。ここまでセールスと評価の乖離が起こるのって、ここ最近だとワン・ダイレクションのようなアーティストくらいですよ。

ーーいわゆる芸能と呼ばれるジャンルですか。

柴:そう。だけどエド・シーランはアイドルではないし、シンガーソングライターである。しかもFUSE ODGのようなアフロビーツの新鋭をフックアップするなどキュレーターとしても面白いことをやっている。彼が誰より結果を残しているのに、ここまで権威にそっぽを向かれるのはなぜなのか、非常に興味があります。僕の中の仮説としてあるのは、「何かのために使われる音楽」として見られているのではないかということ。そういう音楽って、いつの時代も評価が低いんですよ。

ーーそうですかね?

柴:例えばEDMのヒット曲って、どれだけブレイクしても、作品としては評価されないことが多かったりする。それと同じく、エド・シーランも、リラックス・ポップ・ミュージックとしての有用性が強いと判断されたからこそ、作品として評価されなかったという考え方もあります。そういう意味ではすごくストリーミング的だしスマートスピーカー的な音楽なんですよね。それに加えて、彼は世界最大のSpotifyハッカーでもある。彼のチームは誰より上手くSpotifyを使いこなしていると思います。

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ーー評価については、批評家それぞれの意見を聞いてみないとわかりませんが、確かにエド・シーランのSpotifyにおけるハックぶりは凄まじいものでした。楽曲をリリースして、少し落ち着いたところでリミックスがアップされて、ずっと盛り上がりが続いていく。リミックスの音楽性も、その時々で話題になっているジャンルだったりしました。

柴:そして、年末のクリスマスシーズンになって「パーフェクト・デュエット」をビヨンセとやった。波の作り方が完璧ですよね。

レジー:エド・シーランのそういうリリース計画とかプロモーションとかって、誰が考えてるんですかね?

柴:おそらくマネージャーのスチュアート・キャンプを中心としたチームでしょうね。彼やテイラー・スウィフト、ジャスティン・ビーバーには世界最強のデジタル音楽マーケターが付いています。特に、ジャスティン・ビーバーだけでなくカーリー・レイ・ジェプセン、アリアナ・グランデを成功させたスクーター・ブラウンはすごいと思う。

レジー:やはりそういう人がいるんですね。僕は国内のシーンへの関与の方が高いので、Spotifyに最適化することの重要性を完全に体感できているかというと、そうでもないというのが正直なところではあるんですが、その市場のルールにうまく対応することで作品をより広く届くようにする工夫が必要だということはよくわかります。最近はその「工夫」にデジタルに関する知見とかが求められるようになってきているので、それをミュージシャンにまるまる求めるのは筋違いな気もしますし、そういうことがわかるスタッフのいるチームを作れるかが肝になってくるんだなと。

柴:そうですね。そういう意味で先ほどSpotifyをハックしている日本のアーティストとして話にあがったAmPmの例を補足すると、2人の本業はデジタル音楽マーケターに近くて、ある種の戦略部門として自分で曲を作っているところもある。なので、あれはミュージシャンが自分でマーケティングをやっているというよりは、その戦略を考えるほうが彼らの本業なんですよ。つまり自分たちを実験台にしたことで得た知見を持って、AmPmというユニットをプラットフォーム化しつつ、あらゆるミュージシャンをサポートしようとしている。

ーーMichael Kanekoをボーカリストとしてフィーチャリング相手に迎えて、結果的に彼の歌った曲を世界中の人が聴くことになったり。

柴:そうそう。

レジー:おそらくこれは音楽だけじゃなくてあらゆる業界に共通する課題だと思うんですけど、デジタル領域でビジネスを回せる人が日本にどれだけ存在するのかという問題に行き着いちゃうんですよね。グローバルで見ると音楽業界はサブスクリプションサービスでビジネスの構造がガラッと変わりつつあると思うんですけど、その流れに日本から接続できる人がどのくらいいるんだろうなと。そういう橋渡しのできる人がいないと、「ストリーミングサービスが60%伸びている」という話の先に何か新しいものが生まれるのかよくわからないなとも思います。

ーー今までの延長線にしかならない。

レジー:そうですね。以前プロ野球の楽天の立ち上げにも関わったビズリーチの南社長が「スポーツに関わる全ての企業のみなさまにお願いしたいのは、スポーツ好きではなく、ぜひ真のビジネスパーソンをスポーツビジネスの世界に迎え入れてもらいたい」という話をしていて(https://victorysportsnews.com/articles/4996)、日本のエンタメ全般で同じような問題が顕在化しつつあるのかなとも思いました。ジェイさんにも訊きたいんですが、日本国内におけるストリーミングサービスの普及って、どうなっていくと思いますか?

ジェイ:やはり、日本はデジタルやテクノロジーの情報に敏感な人がまだまだ少なくて、所得があったりITリテラシーの高い人しか反応していない、というふうに思います。スマートスピーカーがいい例で、10代~20代は、このまま売り出すだけだと買ってくれない気がします。30代~50代の人たちが使ってみて、ストリーミングサービスの利用者も増えると思うんですけど、そこと若い世代の断絶は消えない。そうすると、ストリーミングサービスでも結局再生回数の多い音楽は、上の世代が聴いてきた楽曲が増えてしまう問題が生まれるんですよね。だから、いかに若い世代や若い思考を持ったリスナーに啓蒙するかが大事で、それによってサービス内でヒットする音楽や再生回数の多い楽曲にも、新たな進化が生まれてくるのではないでしょうか。

柴:あと、日本では一般的にSpotify・Apple Music・Google Play Music・AWA・LINE MUSIC・KKBOXあたりが音楽ストリーミングとされていますが、僕の認識としてはYouTubeもそこに入るんですよ。たとえばIFPA(国際レコード協会)の発表でも、実はYouTubeってストリーミングサービスという扱いに入っている。もちろん、グローバルではバリューギャップと呼ばれる再生回数あたりの収益の差の問題もあるし、そもそも海外では定額制のYouTube REDが存在するので、日本とは大いに違うんですけど。一旦それは置いておいて、YouTubeも同じサービスとして横に並べた時に「日本ではストリーミングは普及しない」という考え方はあり得ないんじゃないかと思っていて。

ーーストリーミングサービスとYouTubeを横並びにする、というのは新たな視点ですね。そう感じた理由を詳しく聞かせてください。

柴:僕がYouTubeを挙げたのは、自分が体験した出来事があったからで。音楽とは全く関係ない業界にいる同級生たちとその知り合い大勢と、今年の夏くらいにバーベキューに行ったんですよ。そこでは、みんなが肉を焼きながら三代目 J Soul Brothersやオースティン・マホーン、エド・シーランといった音楽を掛けていたわけですが、ストリーミングサービスでもなんでもなく、スマホでYouTubeを立ち上げて、MVを再生してスピーカーからその音を流していたんです。しかも、1曲1曲、広告の音声を我慢しながら。ストリーミングサービスを立ち上げてヒットソングのプレイリストを掛けておけば肉で汚れた手でスマホを触らなくても済むのに、そこに気づいていない。しっかりそういう人たちに提案して届けば、うまく国内でも回り始めると思うんですよね。

レジー:YouTubeまで広げると話がややこしくなりそうなので、一旦月額制のストリーミングサービスの話に絞りたいんですが、ああいったものが日本においてもコアな音楽ファンだけのものではなく、より広い層にとってのリスニング体験の基本になるとすると、今後どんな浸透の仕方が考えられるんでしょうか? ここは僕個人の経験でしかないのですが、音楽がかなり好きな人以外、あの手のサービスを使っているという話を身近では聞いたことがなくて、市場が伸びていると言われてもなかなか実感がわかないんですよね。

ジェイ:柴さんの言っているように、届けるべき層へしっかり提案を行っていかないと、あらゆる新しいものは存在すらも認識されずに分断が進んでします。実際、音楽が好きでストリーミングサービスを使っている人と、全く聴かなくて使っていない人の間に立つ、中間的な立場の人ってたくさんいると思うんですよ。でも、その「どっちでもいい人」の受け皿になれていない。そのルートを作ってあげるのが、いま日本のレコード会社やサービスの運営元のやるべきことだと感じます。

柴:Spotifyは無料で使えて、ただし無料プランのユーザーは曲間に広告が挟まれるというモデルですよね。だからデジタル音楽マーケターは、音楽のプロモーションじゃなくて音楽以外にも詳しくあるべきだと思うんです。たとえばシチュエーションに合わせたプレイリストがあって、間にそこに適した音声広告が提供されていれば、使う人も広告主もサービス側も、利害が一致するんじゃないでしょうか。

レジー:確かに、Spotifyの広告枠はもう少し使いようがありそうですよね。

柴:通勤時に聴くプレイリストみたいなのがあるんだから、そこでは栄養ドリンクや缶コーヒーの広告が入るべきだし、帰宅の時間帯にはビールの広告が入っていてもいいわけだし。

ーー確かに、広告主・ユーザー・サービスが良い関係性を構築することで、届けることのできる範囲も規模も広がりそうです。ちなみに、レジーさんが今年印象に残っている、音楽にまつわるサービスの変化とは?

レジー:最近、Amazon Echo Plusを買ったんですが、色々考えさせられましたね。音楽を聴くという行為も、こだわりのある人以外は、曲やアーティストを指定するのではなく、「明るい曲を聴かせてほしい」とか、そういうベネフィット寄りのスタンスで音楽を聴くようになるんだろうなと思って。それってもしかしたら、誰が歌っていようがその場においては良い曲であれば問題ないということになるだろうし、何がかかっているかを意識することもなくなってくるのかもしれない。そんな視聴体験が当たり前になると、アーティスト性やスター性のあり方が変わっていくのかも、と考えました。

柴:なるほど。僕もスマートスピーカーには持論があって。スマートスピーカーって、ウォークマン以来の転換点になるかもしれないと思っているんです。何故かと言うと、音楽プレイヤーのテクノロジーはウォークマン、iPod、iPhone、スマートフォンと発展してきたんですけど、基本的にはそれらは全て耳元で音楽を聴く「パーソナルミュージック」としての音楽体験のイノベーションなんですよね。つまり、何を聴くかを自分で選ぶ、音楽を聴きたいという欲求がある人が周りを気にせずに聴くためのテクノロジーだった。でも、スマートスピーカーはそうじゃないですからね。リビングで音楽を聴く「ファミリーミュージック」のイノベーションだと思っているんです。だから、リラックスできるBGM的、最大公約数的な音楽がより生まれやすい状況にもなるし、親と子供が音楽を共有する機会も多くなる。おそらく、2021年以降はそんな時流が生まれそうな気がします。

【後編へ続く】

(取材・文=中村拓海)

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