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『探偵・由利麟太郎』吉川晃司の静かなる佇まい 新川優愛が事件の大きな鍵を握る

リアルサウンド

20/6/17(水) 6:00

 京都の寺院で銀髪、外套を着用した吉川晃司が弓矢を引く美しい佇まいのアップから始まった新火曜ドラマ『探偵・由利麟太郎』(カンテレ・フジテレビ系)。ロックミュージシャンであり、俳優である吉川にとって、意外にも本作が地上波連続ドラマ初主演となるようだ。 昭和のミステリー作家・横溝正史の原作作品。横溝と言えば、『金田一耕助』シリーズが有名だが、実はこれより前に書かれた隠れた名作が本シリーズである。京都を舞台に、ドラマではおどろおどろしい奇怪な世界が、時代設定を現代にして描き出される。

参考:吉川晃司、地上波連ドラ初主演作『探偵・由利麟太郎』を語る 「必要最小限しか喋っていません」

 吉川演じる主人公・由利麟太郎は、元警視庁捜査一課長という経歴を持つ、白髪の名探偵で犯罪心理学者。そして、そんな由利を敬愛し、助手としてバディーを組むのが、志尊淳演じるミステリー作家志望の青年・三津木俊助。「観察すれば不自然なものが自ずと浮かび上がる」というポリシーを持つ寡黙な由利は “静”、対して実年齢でも30歳ほどの差がある三津木は愛嬌たっぷりでお喋りな“動”という、一見したところ正反対の2人の掛け合いに注目だ。

 また、5週連続で豪華ゲスト出演があるのも本作の見どころの1つ。記念すべき第1話「花髑髏」のゲストは新川優愛だった。新川が演じるのは遺伝子研究者として知られる日下瑛造(中村育二)の養女でイラストレーターの日下瑠璃子。事件の大きな鍵を握る存在だ。

「花髑髏」を名乗る人物から届いた殺人予告メールを受けて、指定場所に向かう由利と三津木は血が滴る冷蔵庫を見つける。その中に閉じ込められていたのが瑠璃子だった。日下邸に向かうと、研究室で日下の遺体が見つかり、傍らに不気味に置かれた血で真っ赤に染まった頭蓋骨、その周りには金盞花という異様な光景。

 横溝作品ここにあり!である。まず挑戦状のような殺人予告が、主人公であるいかにも訳ありそうな探偵の元に届く。駆けつけてみると、血が流れる冷蔵庫というまた誰が思いついたのかと思うような手の込んだ細工がなされ、グロテスクさを加速させる。そして死体の近くには必ず意味深なモチーフが置かれているのだ(ダイイングメッセージの場合もあり。今回は該当せず)。

 由利の旧友でもある京都府警の等々力警部(田辺誠一)も含め事情聴取を進めていくと、この頭蓋骨は25年以上前に行われた非公開の人体実験の被験者になった凶悪強盗犯のものだと言う。この事件の重責を忘れてしまわぬようにと戒めのためにずっと研究室に頭蓋骨を置いていたようだ。

 気味の悪い戒めの方法もしかり。さらに、瑠璃子に求愛してくる血の繋がらない兄・瑛一(長田成哉)という存在もいて、父親に瑠璃子との結婚を反対され家出中だという、いかにも怪しい人物。加えて、この家にはもう1人、魁太という自室に籠ってゲームばかりしている養子もいるようだ。広大な洋館を舞台に、さらに隠し部屋まで見つかり、そこでは日下によって魁太に対して超音波実験が行われていた。複雑すぎる家族構成はじめ館内で行われていることまで、とんでもない秘密を抱えた邸宅である。正に“呪われた一族”ってやつだ。

 そして、瑠璃子の描く絵は身の毛もよだつゾッとするようなグロテスクな描写が多い。真っ赤な重厚なカーテンを閉めた部屋で、こういった絵が並んでいる風景も既視感がある。例に漏れずこの絵に描かれていることが事件を解き明かす方向性を示してくれる点も。そして、あるキャンバスの裏面が膨らんでいるのを見つけた由利がナイフで切り込みを入れると、そこから秘密のノートが出てくるという、そこはやはり昭和時代の原作だけある設定だ。

 また、鉄くずが圧縮されたものから血が流れているという、異常性の高い事件シーンが。どうやら例の魁太がリサイクルショップに身を隠していたが、風変わりな方法で自殺を図ったとのこと(いや、風変わりすぎだろ!というツッコミは抑えておこう)。これ見よがしに壁には「GAME OVER」という赤いペンキ文字が。遺書に当たるらしい。魁太のゲーム履歴を見ると、「デビー」というキャラクターとよく交流しており、三津木はこれを「デビル」の略称だと考えるが、由利が「ダークブルー(DB)」の略だと推理。瑠璃子という名前、色味の連想など、名前からの派生、複数の意味合いを込めたネーミングなどはミステリーにはお決まりのお作法である。そしネット上でも少し話題になっていたが、和尚が家族の秘密を打ち明ける流れも定番ではある。

 ここまで書けばお察しの良い方は犯人や事件背景までも汲み取ってくれるのではないかと思うが、とにかく業の深さを窺わせるテーマで何とも後味の悪いイヤミス作品でもあった。それぞれの登場人物が様々な事情を抱えており、人間の罪深さや欲深さが今後も明かされていくのだろう。ここに、新たなホラーミステリー作品の誕生だ。きちんとミステリー作品のお決まりをなぞりながらも、それを初主演を務める吉川が静かなる佇まいで見せてくれるので、不思議とわざとらしさはない。また三津木が最後に事件簿を振り返るコメントに少しの希望を見出すことができる。

 由利が拠点にしている骨董品店の店主の波田聡美(どんぐり)とのやり取りに一息つきつつ、彼が警視庁を去ることになった「ある事件」についても追っていきたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。

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