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和田彩花の「アートに夢中!」

ピーター・ドイグ展

月2回連載

第44回

20/8/5(水)

今回紹介するのは、現在、東京国立近代美術館(東京・竹橋)で開催中の『ピーター・ドイグ展』。ゴーギャン、ゴッホ、マティス、ムンクといった近代画家の作品の構図やモチーフ、映画のワンシーンや広告グラフィック、自らが暮らしたカナダやトリニダード・トバゴの風景など、多様なイメージを組み合わせて絵画を制作してきたドイグ。彼の作品はどこか懐かしさを覚えるような、不思議な魅力に満ち溢れており、人々に新しい絵画の世界を見せてくれる。本展はドイグの初期作から最新作までを紹介する日本初個展。和田さんはドイグの絵画世界から何を感じ取ったのだろうか。

現代絵画のおもしろさって?

『ピーター・ドイグ展』会場風景

私は今回初めてピーター・ドイグの名前を知り、作品を見ました。思っていた以上に大きな作品ばかりで圧倒されたのですが、それと同時に、絵画ってなんだろうって思わされた展覧会でしたね。

ドイグは1959年、スコットランドのエジンバラに生まれます。その後、カリブ海の島国トリニダード・トバゴとカナダで育ち、1990年、ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得。1994年にはターナー賞にノミネートされました。そして2002年からは、ポート・オブ・スペイン(トリニダード・トバゴ)に拠点を移したそうです。

そんなドイグが世の中で注目されるようになったのが、1992年頃のことだったそうです。当時は、ダミアン・ハーストに代表されるヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)と言われる若手の作家たちが台頭し、大掛かりで見た目のインパクトも大きくて派手なインスタレーションが美術界を席巻していた時代。残念ながら絵画のドイグはあまりその中で美術界に自分を印象付けることができなかったみたいです。

そう考えると、私は絵画というのはその時代、ある種時代遅れというか、古くさいものと評されていたんじゃないかと思うんです。インスタレーションやビデオ、カメラなど、描く絵画ではないものがどんどん美術界の中でも地位を占め、ジャンルが増えてきました。でもだからといってドイグはインスタレーションにいくわけではなく、ただ実直に絵画制作に取り組んできて、そしていまがあるということを知りました。

そんな古くさいとも、正直向き合うのも難しいととらえられてしまうような絵画をここまでひたすら描き続け、今では世界でもっとも重要なアーティストのひとりとして認知されたということは、ある意味で絵画は古典的ともいえる表現手法でありながらも、時代によって新しい手法や表現を生み出すことで、新鮮さを人に感じさせているんだな、と改めて思いました。

ドイグのような現代絵画をどうとらえたらいいかな、難しいなって思いながら作品を見ていたのですが、それは私がマネの絵画を必死で見てきたからこその疑問であり、興味でもあったんだと思います。知りたいっていう思いが強くなった証拠かもしれません。

面白いなと思ったのは、ドイグの色使いや画面構成です。ドイグは水平線やカヌーなどのモチーフを特に初期のころに多く描いているのですが、なんとも言えない非現実的なところが魅力だなと思います。あとは何より、いい意味での「不気味さ」がずっと漂っていて、それがまた人々を惹きつけるんだろうなって思わされました。

画面構成や色づかいの自由さ

ピーター・ドイグ《スキージャケット》1994年 油彩、キャンバス 295×351cm テート蔵 ©Peter Doig. Tate: Purchased with assistance from Evelyn, Lady Downshire's Trust Fund 1995. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

まず私が面白いなって思ったのが、《スキージャケット》という作品。横長で上下の構成が多いドイグの作品の中で、唯一と言ってもいいぐらい縦構成にラインが入っている作品。カナダの新聞に掲載されていた日本のスキー場の広告写真から描いたそうです。

キャンバスが2枚つながっている作品なんですが、一見線対称に見えるけれども、左右でキャンバスの大きさは違うし、色の感じも塗り方も違っています。例えば私は左からこの作品を見たんですが、左側はとても抽象的で何を描いているのか曖昧でわからない。でも右側は左に比べて具体性があって、何が描かれているかわかります。左から右へと視線を移すことで、「わ! これスキー場を描いてるんだ!」っていう発見の喜びがあって、すごく面白いって思いました。

それにこの色づかい。どうして雪がピンクなのかもとても不思議ですが、無数に描かれたスキーヤーのジャケットも色鮮やかです。でも真ん中の木の集合体は真っ黒。周りがパステル系のふんわりとした色なのに、真ん中は黒ずんだ色を持ってくるのにも惹かれました。

ちょっと不気味だけど魅力的

《コンクリート・キャビンII》1992年 油彩、キャンバス 200×275cm アローラ・コレクション

あと好きだなって思ったのが、《コンクリート・キャビンII》。上の《スキージャケット》とはまったく違う世界観です。

これはル・コルビジェが設計した集合住宅(ユニテ・ダビタシオン)を木陰越しに描いた作品ですが、色も黒くてある種の陰湿さを感じます。でもその建物を遮るかのように描かれた暗い木々の先には、白くて鮮やかな建物がある。そのコントラストも面白いなって。でも画面は絶妙なバランスで構成されているんですよね。下手したら画面が崩壊してしまいそうな構成だし色づかいだけど、ちゃんと画面に収まっている。ちょっと覗き見のような、白昼夢のような気味悪さもあって、それがまた魅力的だなと。

ドイグの作品はこの「不気味さ」がどことなく漂っていて、それが特徴でもあるなと思っています。人の好奇心を駆り立てるというか。

即興作品も面白い!

「Chapter3スタジオフィルムクラブ─コミュニティとしてのスタジオフィルムクラブ 2003年〜」の会場風景

あとはドイグのポスター群がとっても楽しかったです。大型の作品が続く中、会場の一番最後に、ドイグが友人と企画している映画上映会「スタジオフィルムクラブ」のためのポスターが並んでいて、見入ってしまいました。

会場風景:左から2番目には、北野武監督作品『座頭市』のポスターが

おそらくこれらは即興で描かれていると思うんですが、それがまた大画面作品とは違っていて面白いんです。こういうのも描くんだなって思って、幅の広さにも驚かされましたね。映画も多種多様でいろんな国の映画が上映されているようです。会場には『座頭市』(北野武監督、2003年)や『ピンポン』(曽利文彦監督、2002年)、『東京物語』(小津安二郎監督、1953年)などの日本映画のポスターも展示されていました。

どの映画のポスターかって探しながら、もしくは映画を知っていたらそれを思い浮かべながら見るのも楽しいですね。

新しい絵画表現を模索し続けている作家

絵画という、描くのも理解するのも一番難しいかもしれないジャンルに取り組み続けてきたドイグ。過去の画家たちや映画などからインスピレーションを受けながら、独自の世界を作り出し、自分の作品にそれを昇華させてきたというのは、とても面白いなって思いました。

それにやはり色づかいや筆づかいが独特だなって思いました。色の感覚はとても好きです。あとは実際に自分が育った場所や行った場所などを描いているのに、どことなく非現実的で不可思議な構成になっているのも面白いなって。おそらくそれは、色使いももちろんあると思いますが、水平線の位置や遠近感が生み出しているんだと思いました。

あとはあんまり動きがないところも面白いなって。卓球をしているおじさんが描かれていても、静止画のように見えたり、モーグルをしている男性が空中に飛んでいるのに、そこで止まっているかのような。あまりスピード感みたいなのは感じないです。「静」の絵と言えばいいでしょうか。

《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》2000-02年 シカゴ美術館蔵
©Peter Doig. The Art Institute of Chicago, Gift of Nancy Lauter McDougal and Alfred L. McDougal, 2003. 433.
All rights reserved, DACS & JASPAR , DACS & JASPAR 2020 C3120

とにかく皆さんには実物を見ていただきたいですね。メインヴィジュアルには、もしかしたらドイグの中で一番メルヘンかもしれない《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》という作品が使われていますが、彼の作品のテイストはこれだけではないんです。モチーフも色も構成も構図も色も、そして絵具の使われ方や塗り方、厚さも全部違う。たくさんの絵画を描いているけれども、いろいろな手法に挑戦し続けている人なんですよね。

会場でぜひお気に入りの作品を見つけてほしいですね。


構成・文:糸瀬ふみ

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

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